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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑥

    第六章  お宝探し開始

 翌朝、管理人が鍵を開けるのと同時に、俺たちは行動を開始した。

 必需品は太助がザックに手際よくパッキングしてくれた。重いものは上の方、それも背中側に詰めるのがコツだそうだ。

 中学時代、いずれ独りで生きていく時のために、そういったサバイバル知識を図書館などで調べ上げて身につけたらしいが、東京のような街に住むぶんにはあまり必要がないと思えるものもあった。まあ、知っていて損はないけれど。

 それから、夏場とあって半袖の服しか持ってきていない俺に、グッズの中から長袖・長ズボンを選んで着用するよう助言があって、虫刺されなどの危険がある山の中へ入る時の心得としては当然だと俺も納得した。

 靴は登山用ではないが、サイズのこともあり、履き慣れた自前のものを使うけれど、とにかくこれで準備万端、帽子を被れば一人前の登山者である。

 さて、例の地図には身延線沿線の主な山々にマークがつけられている。巻物を解読した結果、『霊峰を眺望する山と、神を祀りし社、結ぶところに印あり』つまり、富士山が見えるいずれかの山と付近の神社の中間地点に石碑か何かの目印が置かれていて、そこに宝が隠されているのではないかという説明が笹之介アドバイスに載っていた。

 だが、候補となる山は十にものぼる上、その近くの神社ともなるとかなりの数、とてもじゃないが四日で全部まわれるはずはない。自分たちで検討した上で、この中からどの場所を探すかを決めなくてはならないわけだ。

 当たればラッキー、こいつは一種の賭けだ。他のチームと連携して、分担を決めれば見つかる確率も高く、楽に済むのだろうが、談笑なんぞしていたわりには皆、そうする気配はない。ここはやはり独自のルートで行くしかなさそうだ。

「神社っていってもいろいろあるよね。お稲荷さんよりは何々のミコト、みたいな神様の方が選ばれる気がするけど」

「それに、蜂須賀家が君臨していた時代から存在する神社で、最近作られたものではないだろうしな」

「昔のお侍さんだって、物凄い崖に穴を掘ったり出来るはずはないから、ある程度なだらかな所だよね。そうなると、ぴったり中間点にあるとは、必ずしも言えないかな。コンパスなんかない時代だし、あんまり山奥に入っちゃうと迷子になるし、かといって道のすぐ傍じゃあ、簡単に見つかっちゃう」

「つまり、とても人が入り込めそうにない所ではなく、人目につきやすくても困るってわけか。それらの条件をクリアした場所だとしても、絞り込むには不十分だ。笹之介先生の解読をもってしても難しい、この程度のヒントで見つけるのは至難の業だと思うが……」

 それでも行ってみるしかない。俺たちは手始めに、この下部の地から一番近い毛無山を探ることにした。

 毛無山の山頂は富士山の眺望ポイントとして有名らしいし、湯之奥山神社も存在して、いかにもそれっぽいからだが、みんな考えることは同じで、他のヤツらもこの場所に集中するものと俺は予想していた。

 ところが、いざ出発してみると、クマさんリスさんイノシシさん、それにシカさんチームの誰にも会うことなく、俺たちは湯之奥山神社まで辿り着いた。季節は盛夏、照りつける太陽のお蔭で気温は高めだが、空気が乾いている上に、涼しい風が吹いているので、とても爽やかだ。

 青い空に映える緑の山々を眺めつつ歩くと、木々のざわめき、小鳥のさえずりが耳に心地よく響く。これが単なるトレッキングだったならアウトドアにはさほど興味のない俺でもどんなにか気楽に楽しめるだろうと思った。

 さて問題はこの先、登山道入り口までならタクシーでも行ける程度の道らしいが、そこからの山道は結構キツイと解説してある。

 休憩をとりながら地図を広げると、太助はコンパスをあてて神社と山頂の中間点を割り出した。

 そこは山道の目印のひとつである山の神の手前を北西に入った辺りで、とりあえずその近くまで行くことにし、雑木とヒノキが鬱蒼と茂った山腹のジグザグコースを登る。

「大股で登るとバテやすいから、小股で一歩ずつ、靴底全体で登った方がいいよ」

 太助がそうアドバイスした。こいつ、本当にいろんなことをよく知っていて頼もしい。頭が足りない、などと、内心バカにしていた自分が恥ずかしくなってきた。今回の探検も俺一人ではどうにもならなかっただろう。

「森林浴って感じで気持ちいいね。山の神の向こうに中山金山遺跡ってのがあるんだって。どんなところなのかなあ」

「おい、観光に来たんじゃないぞ。俺たちの目的は……」

「はいはい、わかってますよ。お宝、お宝」

 潅木のはえた急斜面をしばらく登っているうちに、気を抜いたのか疲れてしまったのか、足を滑らせた俺は慌てて近くの木の枝をつかんだが、軍手をはめておくようにと太助が忠告したにもかかわらず、長袖着用で暑いからと従わなかったためにつかんだ手は素手、左の手のひらに傷を負ってしまった。

「痛っ!」

 鋭い痛みが走って顔をしかめると、太助は急いでザックを下ろし、救急医薬品の入ったポーチを取り出したが、次の瞬間「しまった!」と叫んだ。

「夕べ中身を確認しておけばよかった、そこまで気がまわらなかった」

 用意されたサバイバルグッズはどうやら、食品や燃料以外の物については在庫確認をしないまま、AからB、そしてCコースと使いまわされてきたらしい。今一番必要な消毒液が足りなかったのだ。

「大丈夫、このくらい何ともないって」

 軍手をはめなかった落ち度を認めたくない俺はそう言って意地を張った。

 が、しかし、太助は強引に左手を取ると、「こんなに切れてるじゃない。ちゃんと手当てしなきゃダメだよ、破傷風になっちゃう」と諭し、辺りを見回したあと、野草を摘んでその葉を両手でもみ始めた。

「オトギリソウの葉っぱだよ、切り傷に効くんだ。本当は水で洗うといいんだけど、飲み水は貴重だからね。湧き水か川のあるところまで、こいつで我慢してね」

 そう言いながら彼はオトギリソウの葉の汁を俺の左手の傷口に塗り、さらに包帯を使って残りの葉を巻きつけた。

「これでよし、と」

 すっかり面倒をかけてしまったくせに、素直に謝ることの出来ない俺は黙って太助の行動を見守った。

「血は止まったみたいだけど、どう? まだ痛いかなあ」

「へ、平気だよ。さあ、行くぞ」

 なぜ、意固地になってしまうのか。どうして「ありがとう」のたった一言が言えないのか。そんな自分が歯痒いけれど、この性格はそう簡単には変えられない。

 ムキになって先を急ぐ俺、来た道がわからなくならないようにと、用意周到な太助は木に目印をつけながら、あとに続いた。

 お宝ポイントと思われる場所に到着すると周囲をくまなく探してみたが、石碑だの何だの、それらしきものはどこにも存在しなかった。仮にこの場に目印があったとしても、何百年と経てば風化していて当たり前だろうし、俺は今回の企画の無謀さを改めて痛感したが、乗りかかった船だ、今さら降りるわけにはいかない。

 あちらこちらと探し回っているうちに、モミやツガの混じる原生林を抜けて、中間地点からとうとう富士山眺望のビューポイント・毛無山山頂にまで辿り着いてしまった俺たちはせっかくだからと、その雄大な景色をしばし眺めることにした。

 しっかりと大地を踏みしめ、大自然の懐に抱かれると、俺のようなひねくれ者でも魂が洗われて、少しは素直になっていく気がする。

 こんな気持ちは久しぶりだ、俺はゆっくりと深呼吸をしてみた。

「富士山、すっごく大きくてキレイだね」

「ヤッホー、なんてのはやめてくれよな」

「えっ? やってみようと思っていたのに」

 屈託なく笑う、無邪気な太助との会話にも心が弾む。

「オレさあ、この絵葉書みたいな風景が見られただけでも、ここに来て良かったって思うよ。謙信もそうでしょ?」

 宝のタの字もないのに相変わらず脳天気でお気楽発言、ハイキングとはワケが違うぞと、俺はすっかり呆れて太助を見たが、傾きかけた陽の光を浴びた彼の顔が輝いて、その眩しさに思わず目を細めてしまった。

 なんていい表情をするのだろう。悲しみや辛さを微塵も感じさせない明るさと前向きな姿勢、受験に失敗しただけで投げやりな気分に陥っていた俺には眩しすぎる美しさだ。

 俺は太助に惹かれているのではないか。だが、その時はまだ、そうとはわからずにいた。

                                 ……⑦に続く