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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

   BV狂騒曲 ⑤

    第五章  復讐のデート

 翌日、九月二十九日は土曜日だが、バスケ部の練習は休みということで、竜崎がデートの待ち合わせに指定したのは隣町の繁華街、そこの通り沿いにある高砂屋デパートの正面玄関だった。

 夏休みに於ける息子の変貌を一番喜んでくれたのはもちろん母さんで、オシャレでイケてる服をどっさりと買い込んできたため、ボクは母さん専用の着せ替え人形になった。

 そんな新しい服の中の一枚、真っ赤な重ね着風のTシャツにストーンウォッシュのジーンズを履いてみる。うん、完璧だ。

 海斗と河野のことを忘れようとして、ボクは軽薄最低男を「ぎゃふん(死語)」と言わせる作戦にひたすら打ち込んでいた。

 天誅だ! 

 覚悟しろ、竜崎! 

 これこそがボクに与えられた使命。

 大袈裟に意気込みながら到着すると、コバルトブルーのジャケットを羽織った竜崎が落ち着かない素振りで待っていた。

 その格好、とても高校生には見えないよ。これでサングラスでもかけたら、まるでチンピラだ。

 けれども、そんな着こなしもサマになるのが憎らしい。どんなに悪いヤツだろうと、イイ男であるのは否定できない事実だ。

 仕方なく来てやったとばかりに、勿体をつけながら登場したボクを見たヤツは両手を広げ、今にも抱きつかんばかりの、喜びのポーズをとった。

「本当に来てくれたんだ、嬉しいよ」

 それから彼は「先に食事を済まそう」と持ちかけてきた。

 休日の昼下がり、気持ちの良い快晴とあって街に繰り出している人は大勢いて、食事をするといっても、どの店も満員だった。

 それでも遊び慣れている彼はここがダメならあそこというように穴場を探し出して、右へ左へと移動する。

 なすがままに引き廻されていたボクはふと、視線を感じて足を止めた。

 誰かが見ている……って、誰? 

 目の端をよぎったのは見覚えのある長身って、えっ、まさか、海斗? 

 ほんの一瞬、そこに海斗がいたような気がしたが、幻覚だと思い、首を振る。

 それは願望だ。打倒竜崎などと言っておきながら、心の底では海斗にデートの邪魔をしてもらいたいと思っているからだ。

『拓磨はオレのものだ! 竜崎、おまえなんかには渡さない!』

 みたいな、母さんの好きな昼メロドラマでも最近じゃそうそう聞かれない、クサいセリフを吐いてもらいたいからだ。現実には有り得ない。

『海斗、やっぱり来てくれたんだね』

『ああ。拓磨、オレが悪かった。オレが本当に好きなのは……』

「おーい、バンビちゃん。ぼんやりしちゃってどうしたの? こっちだよ」

 ボクの脳内で繰り広げられている三流ラブ&サスペンスドラマなんてお構いなし。竜崎は楽しそうに手招きをして、ひとつ裏の通りのレストランにボクを案内した。

『大発見! 白とピンクが基調の、女性好みのオシャレなインテリアのお店。本場イタリアから取り寄せたパスタにヘルシーな夏野菜を組み合わせたボリューム満点のランチは味にうるさい女の子たちも大満足』

 そんなキャッチコピーで情報誌に取り上げられそうな店はなるほど、女性客でいっぱいだった。

 この男、こういう場所をせっせと調べ上げては口説きの手段にしているんだろうな。男相手にはちょっとピントがずれてる気がするけれど、柏木さんあたりはそれでも喜んでいたんだろうか。

 イイ男二人連れに目をとめた女たちの視線がいっせいに注がれて、居心地が悪くてならない。早くパスタが運ばれてくるのを祈るばかり。

 赤い方がいいの、青が好みだのと、ボクらを品定めする声が聞こえてきて、過去においてブタマンだったボクとしては、そういう対象になっただけでも有難く、大変光栄なんですが……

「今日は一段と可愛いね。制服姿もいいけど、私服のバンビもイケてるよ」

 人の気も知らずに、そんなコメントを言ってのける竜崎、頼むから公衆の面前でバンビ、バンビと連呼しないで欲しい。

 ムスッとしたままでパスタを食べるボクに向かって、彼は「食べ終わったら映画に行こうと思うんだ、いいだろ」と続けた。

 さっきの繁華街の通りをしばらく行くと、数軒の映画館が集まった場所に出る。来年にはシネコンとして統合される計画があるので、この光景も今年限りだ。

 大勢の観客が入れる大規模な所から、マイナー映画を中心に取り扱う小規模な館まで様々だけど、今はこの夏公開になったSF大作のロードショーが大流行り。たくさんの客を集めてチケット売り場はごった返していたが、竜崎はそこを通り抜けると、向こうにある小劇場の前で足をとめた。

 頭上の看板には金髪の美青年が数名描かれていて、一見ラブストーリーかなと思えるけど、どこか雰囲気が違う。なんとなくイヤな予感がして尻込みするボクには構わず、チケットを二枚買い求めたヤツは「さあ、行こう」と促し、あろうことかボクの肩を抱くようにした。

「な、何するんだよ」

 その手から逃れようとするなら、建物の中に進むしかない。仕方なく入っていくと、古びた扉の向こうにはエンジ色の客席が並んでいた。

 後方右端の席を選んで座った竜崎は「上映開始に間に合ってよかったよ」と言いながらボクを自分の左に座らせ、しぶしぶ腰掛けたボクはそれでも、周囲へのウォッチングを開始した。

 薄暗がりのその場所にまばらに着席しているのは女同士、あるいは男同士の二人組、男女共に一人で観にきている人もいて、その年代は様々。ボクらと同世代かと思われる齢のヤツもいる。

 おしゃべりの声もあまり聞こえず、ポップコーンを食べるでもなく、まだ何も映し出されていないスクリーンを皆でじっと見つめている様は何とも異様な光景だ。

 いったいこれからどういう内容の物語が上映されるのか、うすうす察しはつくけど、怖いもの見たさが先に立って、ボクは身動きできずにいた。

 普通なら本編の前に、他の映画の予告なんかが流れるけれど、それすらもないまま、いきなり始まったのは予想通りズバリ、ゲイの映画だった。邦題は『愛あるかぎり』だって。うわあ、よくぞつけたって感じ。

 舞台はイギリスで、大学生の同じサークル仲間の連中がふとしたはずみで同性愛に目覚めてしまい、それぞれが面倒な関係に陥る。簡単に言ってしまえばそういう内容なんだけど、その紆余曲折、互いの駆け引きがなかなか、けっこう面白い。

 このテの作品を観るのはもちろん初めてで、すっかりのめり込んでしまったボクは何気ない場面でもハラハラドキドキ、登場人物たちに同調していた。

「この作品、マイナーだけど、なかなか評価が高いらしいよ」

 竜崎がこっそりと耳打ちしてきた。評価が高いって、ヘタをすればポルノ映画のゲイ版みたいな内容をいったい誰が批評したんだろうか。もっとも、何でもありのこの御時世、芸術とゲイポルノは紙一重かもしれない。

 それにしても、こういう話だと知っていて観に来るとなればそっちの方面に通じている人だと考えるのが当然で、男の場合はその嗜好がある者が多いと思われるけれど、女の人は単なる映画マニアなのか。いや、あれが噂に名高い、腐女子とか貴腐人と呼ばれる人たちかも。

 さて、ゲイ映画であるからにはもちろん、男同士の絡みがある。昼間からこれだけ堂々と上映するとなると、きわど過ぎる映像は御法度だろうけれど、それでもギリギリの線まで映していたのには正直、驚いた。

 男と男のエッチって、こんなふうにやるものなんだ。

 知識として知ってはいたけれど、映像という形で具体的に理解したボクはある種の達成感を得て満足していた。

 さてそれは主役のアンディという青年が仲間の一人、ニックを意識するようになり、そのニックは先にロジャーから告白を受けて彼と深い関係にあるくせに、アンディを受け入れるというくだり。

 さっきから激しいシーンは何度もあったけれど、金髪碧眼の美青年がこれまた美しい、褐色の髪をした華奢な青年を抱き寄せて身体に触れながらささやく場面はそりゃあもう刺激的。両目はしっかりとその部分に釘づけで、とても字幕を追ってはいられない。

 ボクらの前に座っている、恐らく恋人同士の男が大胆にも隣の男の腰を抱いて何やら怪しげな仕草をしているんだけど、そんな光景があちらこちらで繰り広げられて、スクリーンの中も外もかなりエキサイトしてきた。

 誰も彼もが一種の催眠状態に陥っていたのだと思う。背もたれを隔てているから、それぞれにエッチなことを始めても羞恥心が麻痺して、恥ずかしいという気があまりしないようだ。

 これが竜崎の狙いだったんだ。彼は左腕をボクの肩にまわすと、額を寄せつつ右手でボクの手を握り、指を絡めた。

「オレたちも気持ちいいコト、しようか?」

 さっきまでのボクなら即座にその手を振り払っただろう。

 ところが、登場人物にすっかり入れ込み、気分はアンディ。その場のムードに酔い、雰囲気に呑まれてなりきっているボクはつい、頷いてしまった。

 すると、ニックならぬ竜崎はボクの髪をかき上げ、耳元に顔を近づけると、唇でそこに触れてきた。軽く耳朶を噛まれてゾクゾクと興奮が走る。

「あっ……」

 声が漏れそうになり、うろたえるボクには構わずにニック竜崎のイタズラは続く。ボクにとっては初めての経験でも、こういうことに手馴れている彼にはお茶の子さいさいってところか。

 首筋から頬、そして唇へのキス。その時ボクは体育倉庫での、海斗とのキスを思い出していた。

『竜崎に奪われる前に……』

 彼にはわかっていたんだ、何もかもお見通しだったんだ、ボクがこうなることを。

 だけどその一方で、海斗と河野が仲良く並んで立ち去る姿を思い起こしたボクは投げやりな気持ちにもなっていた。

 どうせあの二人も今頃ヨロシクやってるに違いない。だったらボクもエッチ体験したった構わないじゃないか。文句をつけられる筋合いなんてない。

 好きな人を年下の可愛い子に寝取られ、ヤケを起こして別の男と浮気する、まるで安っぽいドラマのヒロイン気取り。

 ボクは竜崎の愛撫を受け入れ、彼の右手がTシャツの内側に入り込んで、執拗に中身を刺激する、その快感に浸った。

 そしてボクよりもずっと先をいく画面の中のアンディはとうとう裸になり、その全身をニックが舐め回している。

 興奮してきたのか、それとも図に乗っているだけなのか、竜崎はボクのTシャツをまくり上げると、上半身を屈めて胸元に吸いついてきた。

 スクリーンに完全に背中を向けているあたり、彼にとっては映画のストーリー展開など、もうどうでもいいらしいけれど、観客の姿勢のままでいるボクの目には過激な場面がこれでもかとばかりに飛び込んでくる。

 ニックとセックスを始めたアンディなのか、それとも客席の誰かのものなのか、それすらもわからない喘ぎが聞こえてきた。

 目から耳、皮膚に至るまで、五感のすべてを刺激されているボクの下半身はしっかり反応、ジーンズの股間のあたりが窮屈でたまらない。

 こっちは唇をギュッと結んで吐息が漏れそうになるのを我慢しているのに、ヤツときたら、舌の先でピンクの小粒をつついて転がすから、もう、ああ……

 なんて気持ちいいんだ、この部分がこんなに感じるなんて、初めて知った。

 ところで、ニックとのエッチなシーンが一段落したアンディの状況は急展開……って、この状態においても映画の内容を把握しているボクはまるで聖徳太子。いやはや、歴史上の偉人に例えるなどもっての外、不謹慎この上ない。

 友達として、アンディと一番仲の良かったジョンはサイモンとデキていると誤解されていたんだけど、じつはアンディが好きだと告げ、また、二股がバレてロジャーに吊るし上げられたニックの姿を見るに及んで、アンディは自分がジョンを求めていたと気づく、そういうお話になってきた。

 アンディの身の上が誰かに似ている気がして、熱に浮かされていたボクはとたんに、冷水を浴びせられたようにビクッとした。

 これってまるで、ボクと海斗のことみたい。ボクたちの関係を暗示しているとか? 

 いや、彼に嫌われてしまったボクはもう二度と口をきいてはもらえないだろう。

 でも、ボクはまだ彼を……好き? 

 そう、好きだから気になるんだ、胸が痛むんだ……

 持ち主の精神状態を忠実に反映する男の象徴はパワーダウンし、萎れかかっている。

 そうとは知らずに、すっかりその気の竜崎はとうとうジーンズのジッパーに手をかけ、下着の上からとはいえ、他の誰にも触られたことのない象徴クンに触れてきた。

 ボクは彼の手を払いのけると「やめろ!」と声を荒げ、その剣幕にさすがのヤツも驚いたようだ。

「いきなりどうしたんだよ」

「いいから、それ以上触るなっ」

「何を今さら、さっきはあんなに感じていたくせにさぁ」

 そうウソぶいてニヤリとする相手を睨みつけながらTシャツを下ろすと、チェッと舌打ちした竜崎は「せっかく気持ちよくしてやったのに、勿体つけんなよ」と罵った。

「うるさい、もう帰る!」

「ここまで来たんだ、そう簡単には帰さないぜ。当然だろ」

 執拗に迫る竜崎、とどのつまりは身体が目的か。所詮男なんてそんなもんだけど……

 ところが画面の静けさに対して──激しいシーンが一段落したため、音楽も音声もトーンダウンしていた──ボクたちの会話は少々声が大きかったらしい。

「シーッ」

 一斉に寄せられる「静かにしろ」の合図、そんな周囲の非難に一瞬たじろぐ竜崎、その隙を突いたボクは彼の制止を振り切ると、映画館の外へと逃げ出した。

 表に出たところで、咄嗟に左の道を選ぶ。駅とは反対の方向へ向かうことにより、万が一竜崎が追ってきても、その追尾から逃れられると判断したからだ。

 どれぐらい走っただろうか。すっかり疲弊したボクはここまで来ればさすがに大丈夫だろうと、スピードを緩めた。

 安心したとたんに、後悔にかられた。

 あんなヤツの誘いになど、簡単には乗らないつもりでいたのに。

 別れ際に立ち直れなくなるようなセリフのひとつでも吐いて、絶望のどん底に突き落としてやろうと思っていたのに。

 彼から中途半端に与えられた快楽のせいで、ボクの神経は麻痺してしまい、逃げ出すのが精一杯だった。

 これじゃあ、ミイラ取りがミイラに、だ。「ぎゃふん」と言わせるどころか、相手の思うツボになっていた自分が腹立たしく、情けなかった。復讐なんてボクには向いていない。彼とは関わらないよう、おとなしくしておけばよかったのだ。

 そろそろ駅へ戻ってもいい頃だろう。回れ右をしたあと、まさにとぼとぼといった様子でうつむき加減に歩き続ける。

 すると、正面から歩いてきた人物が擦れ違いざまに「あー、もしかして一条のお連れ様?」と声を上げた。

 お連れ様って、料亭の仲居さんか温泉女将ぐらいしか使わないんじゃ……

 声の主は私服姿でド派手度が増した、お気楽女子高生のモモカだった。すっかり顔を覚えられたようで、カレシとか恋人とか叫ばれなくて済んだのはいいが、お連れ様はどうだろう。

「あ、どうも」

「何? 一条と一緒じゃないの?」

「ええ、今日は……」

 モモカは改めてボクの顔を眺め、ニヤニヤ笑うと「やっぱよく見ると、マジ似てる。あんたの方がずっとカワイイけど。もっと太ってて、メガネかけたら似てたかも」と言い出した。

「似てるって、誰にですか?」

「聞いてないの? まー、あいつってば、恥ずかしいから絶対言わないだろーけど、バラしちゃお。あのね、一条の片想いの相手。中学ンときクラス一緒でぇー、すんごく真面目でぇー、成績も良かった子。あんたよりずっとぽっちゃり系だったけど」

 海斗の好きだった相手がボクに似ていたとは。話を聞いた感じではたしかに、太っていた頃のボクに似たタイプのようだ。

 初耳だったが、モモカの言うとおり、恥ずかしくて言えなかったのだろう。ゆえに親しみを込めての「ダルマ」だったんだ。彼がボクに対して、当初からなれなれしかった理由がわかった。

 中学当時、まさか海斗のようなイケメンが自分みたいに太った子を、しかもキャラ的に彼とは釣り合わないタイプを好きになるはずがないと、そのぽっちゃり系女子は最後まで信じてくれず、とうとう片想いで終わったらしい。

 それでモモカはボクのことを「新しいカノジョ?」などと訊いたのか。じゃあ、クルミって子はいったい? 

「ねえ、あんたもバスケ部?」

「い、いえ、ボクは」

「バスケ部にいるでしょ、リューザキって超ムカつくバカ」

 えっ! 

 竜崎って、さっきまでボクは一緒に──

 人の話を聞いちゃいないモモカはボクもバスケ部部員だと信じ込んだらしく、そのあと物凄い勢いで竜崎の悪口を並べ立てた。

「ったく、あんなサイテー男見たことない。クルミのことがあって、慌ててそっちの学校に転校したんだよ。詫びを入れに来いって、あんたからも言ってやってよ」

 怒り心頭のモモカは「一条にいくら言っても、話が進まなくて埒が明かない」と、海斗の不甲斐なさも同時に嘆いたが、誰が何と言おうと、竜崎は人に頭を下げたりしないと思う。そういうヤツだ。

 ましてや、後輩に意見されたら逆ギレするのが関の山。いくら幼馴染みの頼みでも、海斗としてはできない相談だろう。

 そこまで一方的にまくし立てていたモモカだったが、急にケータイを取り出すと──予想どおり巨大ストラップが下がっていた──時間を確認して大声を上げた。

「あっ、バイト遅れちゃう。じゃーね、一条によろしく~」

 まるで台風一過。半ば呆気にとられたまま、ボクはモモカを見送った。

 それにしても、彼女との再会はボクの疑問をすべてクリアにしてくれた。竜崎が高二の終わりに転校してきた理由こそが森岡胡桃の件に関係していたのだ。

 竜崎は当初、モモカたちの高校に在学していた。相手をとっかえひっかえして遊びまくっていた竜崎だが、その当時つき合っていたクルミが妊娠したと知って逃げ出した。

 モモカの話によれば、けっきょく妊娠は当人の勘違いだったようだが、それでも逃げるのは卑怯だろう。

 するとそんな騒動を起こした張本人曰く、

「女は何かと面倒だから、男とつき合った方が後腐れなくていい」

 そういうわけで、転校を機にゲイの道へ。とんだバイセクシャル野郎だ。

 ともかく、そんなこんなの経緯がいつの間にか、クルミが海斗のカノジョで、彼のせいで妊娠・中絶したという話に置き換わり、半信半疑のボクを悩ませていたのだ。

 それでも海斗にすれば、もっと言い訳しようと思えばできたはずなのに、クルミにとって不名誉な事柄が本人の知らないところで広まってしまわないよう、コメントを避けた。彼なりの思いやりだったのではないか。

 海斗……

 キミはやはり誰かを傷つけるようなヤツじゃなかった。つまらない噂に振り回され、信じてあげられなくてゴメン。

 そしてモモカがもたらしたもうひとつの朗報、それは「痩せる前のボクが海斗の片想いの相手に似ていた」こと。ボクと出会った時から、「ダルマ」と呼んだ時から、キミはボクに好意を持ってくれていたのかも。けれど……

 海斗の面影を思い浮かべると、ボクの胸は痛みで疼いた。

 彼は今、どこで、何をしているのか。たぶん、もうボクのことなど忘れて、河野と一緒に楽しく過ごしているかもしれない。

 再び足を引きずるようにして、ボクは歩き始めた。

                                ……⑥に続く