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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

BV狂騒曲 ⑥

    第六章  不動明王、見参!

 休みが明けて登校すると、いつもしつこく擦り寄ってきた岩田がまったく寄りつかなくなっていた。

 BVデーの告白タイムがさんざん妨害されて、いい加減にあきらめたのかな。ヤツのことなんてどうでもいいけど。

 それよりも海斗だけど、こちらをちらちらと見ているわりには、何も話しかけてこない。ちょっと寂しそうな顔をしているように見えるのは気のせい? 

 モモカから聞いたネタやら、いろいろ話したいことはあるけど、とてもボクから声をかけるなんてできない。

 時間はさっさと過ぎて放課後になった。

 すると、帰り支度をしていたボクのところに岩田がやってきて「矢代くん、一条が呼んでいたぜ。急用があるから、バスケ部の部室まで来て欲しいって伝えてくれって頼まれたけど」と真顔で告げた。

 そういえば、いつの間にか海斗の姿がない。急用って何だろう、今になって話をしたいことでも……

 それにしてもわざわざ部室まで来いとは、どういう了見なのかな。誰にも聞かれたくない話なのか? 

 ボクの中で不安と微かな期待が混じり合い、急いで教室を出る。

 バスケ部の部室は体育館の隣にある各運動部の部室が集められた建物の二階の端で、外付けの階段を上がったボクは何の疑いもなくノックをして、ドアノブを回した。中からの返事はないけど鍵はかかっておらず、ドアはするりと開いた。

「あの、お邪魔しまーす」

 恐る恐る足を踏み入れてみる。部室に入るのは初めてで、予想していたとはいえ、その汚さにボクは呆れた。

 真ん中に置かれたテーブルの上にはペットボトルやらお菓子の袋、雑誌などが散乱、壁沿いのロッカーの扉は開けっ放しのものもあって、中から服が飛び出している。食べ物と男の汗の臭いが混ざって、とんでもない悪臭を放つ。閉め切られた窓を開放したくなった。

 それにしても海斗はどこだ? 

 さして広くはない室内、隠れる場所もないのに見当たらないというのはおかしい。

 と、背後に気配を感じて振り返ったボクは恐怖のあまり凍りついてしまった。ボクを待っていたのは海斗ではない、竜崎だった。

「よう、バンビちゃん」

 思わず後ずさりすると、腰がテーブルに突き当たる。逃げ場などないと悟り、ボクは威嚇するようにヤツを睨みつけてやった。

「そんなに恐い顔するなよ。再会を喜び合おうじゃないか、なあ?」

「海斗の名前を騙るなんて卑怯だぞ!」

「はて、何のことかな。オレはキミを呼んできて欲しいって、あいつに頼んだだけだぜ」

 それは岩田に頼んだという意味なのか。

 竜崎が「おい、入ってこいよ」と合図を送ると、当の岩田がおずおずと姿を見せた。

「こいつ、相当キミに惚れてるみたいだな。オレがチョッカイ出したのを知って、いちゃもんをつけてきたけど……」

 岩田は先日のBVデーでボクを独占宣言した強敵に「矢代琢磨から手を引け」とばかりに、果敢にも挑戦状を叩きつけたらしい。

 その折にヤツはボクの過去の姿について竜崎に洗いざらい暴露してしまい、このおめでたい三年生は七月のBVデーに予約券を持参した連中のうち、ナンバー十三を持って現れた、名も知らぬ白ブタの正体がボクだと、ようやくわかったという顛末。

 すっかりコケにされたと思ったのだろう、竜崎の顔は次第に凶悪な形相となり、こちらに迫ってきた。

「わざわざプレゼントを用意してまで、オレに告白しに来たヤツがだ、気を持たせながらあの態度、いったいどういうつもりだ? 何を企んでいた!」

 バレたとわかれば開き直るしかない。ボクは不敵に笑ってみせた。

「ボクの正体にまったく気がつきもせずに、ブタをバンビと呼ぶマヌケをからかってやろうと思っただけだよ」

 勢いはもう止まらない。ボクはありったけの憎しみを込めて罵倒した。

「あの日、アンタはボクをブタと呼び、二度と現れるなと罵った。そのとき誓ったんだ、アンタに復讐してやろうってね。さあ、プライドを傷つけられた御感想は?」

「何だと……」

 怒りを爆発させるのかと思ったがそうではなく、竜崎はボクを見下ろすようにして「お蔭でいい面の皮だぜ。こりゃまた存分に礼をしなきゃならないな」と皮肉っぽく言った。それからいきなりボクに飛びかかると、部室の床に押し倒してきた。

 バシンッ! 

 後頭部にもの凄い衝撃が走る。脳震盪を起こす寸前だ。

「この野郎、やめろ、離せっ!」

 乱暴な扱いをされて、ボクは当然ながら抵抗、両足で竜崎の腹を蹴りまくる。するとヤツはボクを殴りつけたあと、岩田に向かって「足を押さえろ!」と命令した。

「おいこらっ、何をぼんやりしている、さっさとやれ!」

「えっ、で、でも……」

 ボクの復讐計画を知った竜崎は岩田をライバルから共犯者へ誘い込んだはいいが、躊躇する様子にイラついていた。

「こいつをモノにしたいって言ってただろ。ほら、早くしないとオレだけヤッちまうぞ。それでもいいのか?」

「わ、わかりました」

 岩田のヤツ、そんな相談までしていたのか? 信じられない。

「何しろ一昨日は油断してヤリ損ねたからな、今度こそ、しっかり味見させてもらうぜ」

 この状況、もしかしてボクはレイプされてしまうのか。いや、もしかして、なんてのん気に考えている場合じゃない、我が身の危機はすぐそこに迫っている。それも二人がかり、輪姦というとんでもない窮地に立たされている今のボクにピンチを脱する手段はなかった。

 手足を押さえつけられて身動きできないボクのワイシャツのボタンがはじけ飛び、肌が露になると、岩田がゴクリとつばを飲み込む音が聞こえてきた。

「見ろよ、真っ白でキレイだろ。ここもピンクでさ、初めて見たときは感動ものだったぜ。こんな身体、滅多にお目にかかれないからな、よく拝んどけよ」

 そう自慢げに言いながら竜崎がボクの身体に触れた瞬間、ゾクリと鳥肌が立った。

 これまでのボクは口で言うほど、彼のことを恨んではいなかった、思い起こせばそんな気がする。

 つれないバンビちゃんに対して懸命にアタックしてくる姿を見るのは快感だったし、その本性がわかっていながらも、憎みきれずにいた。

 でも、今の彼には絶対に触られたくない。卑怯な手段でボクを連れ込み、目の前で別の男にまで犯らせようとする、卑劣で悪魔のようなヤツには絶対に……! 

「ホントだ。ふるいつきたくなるっていうのはこういう身体のことっスね。オレってばもう、さっきからガンガンきてますよ、ああ、こりゃたまんねえ。見ているだけでイッちまいそうだ」

 ただでさえオヤジくさい岩田がスケベジジイのようなセリフを吐くと、いやらしく笑った竜崎はそれから、キレイなパステルカラーの、歯磨きに似たチューブを取り出した。

 それはエッチの時に使う七つ道具……なんて、七種類あるかどうか知らないけど、そのうちのひとつで製品名は潤滑ゼリー。いくらかオクテのボクでも、そういうものがあることぐらいはわかっている。

「いいか、アソコにはこいつを塗るんだ。これを使えば、初めてでもすんなりいくはずだからな」

 絶体絶命! 

 万事休す! 

 二人が舌なめずりをしているようで、ボクは顔を背けた。

 哀れな子鹿は二匹の狼の餌食になりました、なんて、冗談の域を超えている。

 どうして罠だと気づかずにこの場所へ来てしまったのか、それは海斗が待っていると思ったから。

 彼が岩田なんかに伝言を頼むはずなどないのに、その名前を出されて判断力を失っていたから。

 助けて、神様! 

 助けて、助けて、海斗! 

「……てめえら、そこで何やってる!」

 怒鳴り声と共に飛び込んできたのは海斗だった。全身から怒りのオーラがメラメラと立ち上っていて、まるで不動明王のよう。待ちに待った救世主の出現に、ボクは神様の存在を強く信じた。

 突如現れた海斗に、狼たちはギクリとしてそちらに向き直った。

「ふ、ふん、大層な口をきいてくれるじゃねえか。後輩のくせに、何様のつも……」

 ヤバイ場面を抑えられて逆ギレした竜崎が反論する間もなく、海斗は彼に飛びかかって顔面を殴打した。

「この野郎、ブッ殺してやるっ」

 海斗の腕っぷしの強さは半端じゃない。バキッ、グキッと激しい音がする度に、竜崎の端正な顔は血まみれになり、驚いて逃げようとした岩田もぶちのめされて部室の床に転がった。

「絶対に、許さない! 殺して、やる、二人とも、殺して……」

 切れ切れに叫びながら殴り続ける海斗、このままでは本当に二人を殺しかねない。海斗を殺人犯にするわけにはいかず、慌てて立ち上がったボクは彼を止めにかかった。

「もういいよ、海斗。もういいったら」

 ハア、ハアと肩で息をしながら、海斗はなおも二人を睨みつけている。

 何とか助かったとみた彼らは後ずさりするとほうほうの体で逃げ出し、しんと静まり返った室内にはボクたちだけが残された。

「……ケガはないか?」

 その言葉を聞いて首を横に振るものの、今度は涙が溢れて止まらなくなった。

「ありがとう……本当にありがとう。ゴメンね、ゴメン……」

 何を言っているのかわからなくなって取り乱すと、海斗は両腕でこの身体をそっと包み込んだ。

「もう大丈夫だから」

 腕から伝わる彼の体温がボクの心に安堵感を与える。

「謝るのはオレの方だ。オレが呼び出したと思ったんだろう? そのせいで恐い目に遭わせてしまって……守れなくて、悪かった」

 週番に当たっていたため、いつもより一足早く教室を出た海斗が見回りを開始してしばらくすると、加藤に会ったとのこと。

 するとヤツは「あれ、一条? バスケ部の部室で待ってるからって言ってなかった?」とか何とか、岩田の企みをバラしてしまい、その言葉にピンときて、現場に駆けつけてくれたらしい。

 この時ばかりは加藤のおバカ加減に感謝したボクだった。明日からは彼のオヤジギャグに惜しみない拍手を送ろうと思う。

 そう、海斗はすべてを承知していた。竜崎と岩田の卑怯な企みも、自分が利用されたのも、ボクが会いたさゆえに、ヤツらの罠にかかったことも、だ。

 じゃあ、ボクの本当の気持ちも……? 

「あの、海」

 そう言いかけた時、誰かの気配を感じたボクたちは同時に振り向いた。部室の入り口で立ちすくんでいたのはボールの入った籠を持った河野だった。

 バスケ部の一年がここに来るのは想定内だけど、あまりにもタイミングが悪すぎた。

 岩田も、竜崎の姿も消えて二人きりでいた上に、ワイシャツがはだけ、素肌が丸見えのボクを海斗が抱きしめていたという、このアブナイ場面。

 河野はボクたちがここでエッチなことをしていたのではと勘違いしたとみて間違いない。それは彼に限らず、今のタイミングで現場を目撃すれば誰もがそう思うだろう。

「そ、そんな……あのマドレーヌ、美味しかったって言ったくせに、ひどいっ!」

 籠を取り落とした河野は泣きながら両手で顔を覆うという、傷心の乙女ポーズで階段を駆け下り、走り去った。

 しまった、という焦りの表情をする海斗、そんな彼を見たボクの心臓を激しい衝撃が貫いた。

 やっぱりオッケーしていた。河野から貰ったお菓子を食べた、そうなんだ。

 恋人になると約束しておきながら他の男と、それも「友達だよ」とうそぶいていたヤツとの破廉恥行為(死語?)を目撃した純情な一年生が受けたショックは計り知れないものだろうけど、ボクだってショックだ。

『海斗は河野とつき合っているから』

 何度も自分の心に言い聞かせていたことだけど、実際の二人を見るまでは認めたくなかった。

 でも、ここまで明確になったら、いい加減認めなきゃならない。あきらめなきゃいけないんだ……

「追いかけなくていいの?」

「えっ?」

「あの一年生だよ。早く行って、ワケを説明しないと、勘違いされたままになるよ。ボクのことはもう、かまわないで。一人で帰れるから」

 何かを言いかけた海斗を制止したボクは「何も聞きたくないんだ、ゴメン」と捨てゼリフを吐き、辺りに散らばっていたネクタイやら何やらをポケットに突っ込むと、逃げるように部室の外へ出た。

 悲しくて、虚しい。

 涙が溢れて止まらない。

 ボクは泣いた、叶わぬ想いに。報われない恋に。

 そしてさよならを告げた、友情以上の愛情に。

 ボクたちは友達、親友。でも、それだけ。それでいい……

    ◇    ◇    ◇

 バスケ部室でのレイプ未遂事件のあと、沈鬱な表情をして詫びを入れてきた岩田に「過ぎたことだからいい」と言ったボクの心は思いのほか、晴れ晴れとしていた。

 吹っ切れた、という表現が正しいのかもしれない。

 竜崎もひっそりと身を潜めていて、ボクのまわりは至って平穏……それは仮初めの、ではあるけれど。

 ボクは海斗を遠ざけていた。

 顔を見るのも、声を聞くのも辛い。晴れ晴れなんかしていない、吹っ切れたなんて嘘、やっぱりダメだった。

 彼が話しかけようとするたび、何かと誤魔化しては話題をすり替えた。加藤たちにネタを振って、その場を凌いだ。

 でも、そんな日々の虚しさに耐え切れなくなったボクはBVデーでもないのにお菓子を作り、それを持って登校した。

 今さら気持ちを伝えるなんて、できるはずもないし、そんなことをされても迷惑だろうから、渡す勇気はなかった。

 ただ、お守りのように手元に置いていた。そうすることが自分への慰めだった。

 本当は手渡したい。突っ返されてもいい、そうなればあきらめがつく。今日は失恋記念日、まるで父さんが聴いていた昔のアイドルソングのタイトルだ。

 だが、渡したいその人の姿はいつの間にか消えていた。やっぱり無理、そういう巡り合わせなんだ、しょうがない……

 あきらめと安堵が交差する。

 そろそろ帰ろうと、ボクは白い小さな紙袋を手に、教室を出ようとした。

 すると、廊下の向こうからバスケ部一年のニキビくんこと、山岸が物凄い形相をしながら走ってくるのが見えて、慌てて中へと引っ込んだ。

 山岸は二年C組の前を走り抜けると、そのままの勢いで階段を駆け上がって行った。

 二年生の教室はこの校舎の三階、三年が四階で、そこからさらに上ると、告白スポットその二の屋上に出る。

 あの様子はタダゴトじゃない。不安にかられたボクはしばらく躊躇し、いったんは昇降口まで下りたものの、やっぱり屋上の様子を見に行くことにした。

 四階から上の階段を上り始めたところで、バタンッ! と扉が閉まる激しい音が聞こえ、転がるように下りてきた山岸とぶつかった。

「すいませんっ!」

 彼はボクを見ようともせずにそう謝ると、姿を消してしまった。

 屋上で何があったのだろう? 

 恐る恐るドアノブを回す。

 と、その場にうずくまる人影を見て愕然とし、急いで駆け寄った。

「海斗? いったいどうしたんだよ!」

「拓磨か……」

 ゆるゆると首を振る海斗、彼の顔には殴られた痕があった。唇の端に血がにじみ、鼻血も酷い。

「何があったの?」

「オレのせいだから……全部オレが悪い」

 この屋上に呼び出された上、山岸にやられたと推察できるけど、どうしてそんなことになってしまったのか。

 ボクが差し出したハンカチで血を拭った海斗はぽつりぽつりと話し始めた。

「オレ、河野とはつき合えないって、この前そう言ったんだ……」

 海斗と河野は最初から何でもなかった。

 プレゼントは一応受け取るのが礼儀。彼が貰ったお菓子を食べたのはその場ではなく、家に持ち帰ってからだった。

 ところが、BVデーの詳しいルールを知らない一年生は受け取る・イコール・承知したと思い込んで、すっかり恋人気取り。

 そうとわかった海斗は河野によく謝った上で、まだ包みを開けていなかった例のカップを返すことにした。

 で、そんな二人の経緯を知り、河野の気持ちを踏みにじったと怒る山岸にブン殴られたが、責任は自分にあると思い、殴られるままで一切抵抗しなかったようだ。

「それで、こんなにボコボコに」

 この前、竜崎たちを殴りまくった腕力の持ち主だ。山岸相手など造作もない彼がここまでやられるなんて、無抵抗でなければ有り得ないだろう。

「あいつ……山岸は河野のことが好きなんだ。友達のふりして、自分の想いを隠して……オレも同じ立場だから、よくわかった」

「同じ立場って、それって」

 海斗はちょっと眩しそうな顔をして、ボクを見た。

「好きだから……」

「えっ?」

「ずっと前からオレは拓磨が好きだった。もちろん、今も」

 さんざん回り道して、やっと言えたと彼は苦笑したが、ボクは素直に受け取れず、

「からかってるんじゃないよね」などと言い返してしまった。

 ずっと前からって、片想いの女子に似ていたからといって、今も、って……

「からかってなんかいねーよ。そりゃあ、最初は自分の気持ちってもんがよくわからなかった。この学校に一年通って、そっちのノリには慣れたけど、まさか自分がそうなるなんて、予想していなかった」

 それはボクも同じだ。竜崎を、続いて海斗を好きになる自分なんて、一年前には想像できなかった。

「だけど、矢代拓磨がこんなにもいいヤツだってわかってきたら、もっと話をしたり、一緒に過ごしたりしたいって思うようになって……好きになるのに時間はかからなかった。男同士だからとか、そんな壁は軽く越えちまった」

 しかし、ボクが竜崎のファンだと知り、まさか二人がうまくいくことはないと思いつつも、複雑な気分になったらしい。

 その上、ボクが痩せて変身してからというもの、岩田などの同級生たちから当の竜崎までもがチョッカイをかけてきて、気が気でなくなった彼が九月のBVデーを妨害したのは言わずもがなだ。

「おまえが竜崎にイヤな思いをさせられて、それで復讐するっていうなら、オレに止める権利はないと思ったけど、あの、何て言うんだっけ、ツタンカーメンがファラオになるってんだっけ?」

 言いたいことはわかる。というか、元ネタよりグレードアップしてる気がする。どちらにしても、この場面ではツッコめない。

「すっげー不安だった。それで、思い余ってキスしたら『やめてよ!』って言われちまったし、オレとしてはもう、どうしようもなくて。拒絶されたんだ、とうとう嫌われたって……ショックだった」

 海斗は鼻をすすった。そんな、彼が泣くなんて……

「それでもあきらめきれずに、おまえのまわりをうろうろして……河野の贈り物を受け取ったのは当てつけだと思われても仕方ない。悪かった、本当にすまない」

 謝るのはボクの方だ。

 体育倉庫での一言がそこまで彼を傷つけていたなんて、思ってもみなかった。

 復讐を言い訳にせず、もっと自分の気持ちに、素直に向き合えばよかった。

「キミはバカだ」

 ボクは海斗の手を自分の両手で包み込むようにした。

「それ以上に、ボクは大バカだ。こんなにキミが好きだなんて」

「拓磨……」

 海斗の瞳がまっすぐにこちらを見つめている。その視線を受け止めたボクはそっと瞼を閉じた。

                                ……⑦に続く