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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

   BV狂騒曲 ④

    第四章  なんでこうなるの?

 ようやく倉庫からはい出たボクはそれからいつもの駅前商店街にたどり着いたが、衝撃的な体験をしたせいで意識が朦朧としたまま、通りをフラフラとうろついた。

 けっきょく海斗はボクと竜崎の関係をどう捉えているのか。

 思い上がり&厚かましい&思い過ごしを承知で言えば、彼は竜崎に嫉妬していたと、だから自分を嫌いかと訊いたと、思い余ってボクにキスしてきたと──

 つまり、彼もボクを好きだという結論に行き着く。

 片想いだとあきらめていたボクにとっては朗報のはずだが、何か割り切れないものを感じてしまう。

 それは彼を異性愛者だと信じていたのに、思いがけない展開を見せたことや、矛盾を孕んだ森岡胡桃の一件が解決していないことなど、様々な要因がボクの心をひねくれさせているからだ。

 素直になれずに二人の関係をこじらせてしまったこの顛末、シェークスピアには笑われるだろうけど、ボクにとっては充分悲劇だ。

 で、あれこれと思いつめていたボクに辺りの景色を気にする余裕などなく、突然目の前に現れた人にぶつかりそうになり、慌てて飛び退いた。

「あっと、ごめんなさい」

 そこは可愛い小物が置いてあると女の子に評判の雑貨屋の前で、ちょうど店から出てきた二人連れと側面衝突をなんとか回避。

 謝るボクに、向こうも「こちらこそすいません」と言ったあと、ボクの顔を見て「あっ!」と声を上げた。

「二年の矢代さん、ですよね?」

 いきなり尋ねられて「はあ、そうですけど」と答えたボクは「はて?」と首を傾げた。同じ学校の生徒ではあるけれど、まったく見覚えがない。

 すると背の高いニキビ顔の方が「オレたち、バスケ部の一年です。オレは山岸、こいつは河野といいます」と自己紹介を始めた。

 彼の隣にいる、高校生というよりは中学生で通りそうな、幼くて可愛らしい顔立ちの河野がぺこりと頭を下げる。

 山岸たちは互いに目で合図をすると「あの……先輩にお話があるので、少しの時間、オレたちにつき合ってもらえませんか?」と訊いてきた。

「い、いいけど」

 お話って、いったい何だろう。

 渦巻く不安を胸に、ボクたちはその場所から一番近くにあるカフェに入り、それぞれ紙コップに入ったコーヒーを持ってテーブル席に着いた。

 並んで座った一年生二人に対峙するようにボクが腰掛けると、山岸が切り出した。

「矢代先輩は一条先輩と友達ですよね」

 その人の名前をいきなり出されて、ギクリとする。

「ま、まあね。同じクラスだし……」

 さっきの体育倉庫内の出来事が脳裏をよぎって、ボクは『友達』という単語に抵抗を感じていた。

 すると、山岸はボクの気持ちを見透かしたかのように、不審の目を向けた。

「本当にそれだけの関係ですか?」

「それだけって、どういう意味?」

「単刀直入に言います。恋愛関係にあるのではという意味です」

 その言葉を聞いてボクは絶句した。やっぱりバレてる? 

「ど、どこからそういう発想に?」

「本当にただの友達なんですね?」

 山岸はしつこく何度も念を押した。それから、不安そうな表情をして隣に座る河野の方を見ると「良かったな」と声をかけた。

 いったい何なんだ? 

 二人を見比べるボクの視線を感じて、山岸は申し訳なさそうに弁明した。

「いきなり変な質問をして失礼しました。じつはこの河野が一条先輩の大ファンなんです」

 一条先輩の大ファン──カッターナイフの刃先を突きつけられたかのように、胸がチクチクと痛みだした。

「で、こいつ、一条先輩と矢代拓磨という人との関係が気になるって言い出して。先輩みたいな、キレイで魅力的な人が傍にいたら、自分の方へは振り向いてもらえないんじゃないかって、それを心配していて……」

 ボクは唖然としたまま、彼らの話を聞いていた。自分の預かり知らないところで、海斗をめぐるライバルに仕立て上げられていたわけだ。

 ボクと海斗はただの友達同士だと聞かされた──さっきキスされたばかりなんて、言えるはずはない──河野はとたんに元気になって、今度のBVデーに告白するために、お菓子に添えるプレゼント用の小物を探していたと話し始めた。まあ、そういう理由でもなけりゃ、男が出入りするには恥ずかしい、可愛らしい店構えの雑貨屋に入ったりはしないよな。

 選んだのはバスケットボールを模ったマグカップだとか。実物を見ていないけれど、丸い形なのかな? ふつう、マグカップといえば円柱形が多いけれど、そいつは球形なのかも。何だか飲みにくそうだけど、それ以前に、飲み物入れたら転がってこぼれるんじゃないのか。

「今度のBVデーって、九月二十八日か。まだ十日以上あるけれど、ずいぶん気が早いんだね」

「ええ。何だか待ちきれなくて……」

 そう言って頬を染める彼に、ボクはかつての自分の姿を重ねていた。

 憧れの『竜崎先輩』のために、早くから包装紙やリボンを選んでいた自分……それが振り回してポイ捨てしてやると息巻くようになるとは想像もつかなかった。

 あの男に対してはどう思っているのか、訊いてみたくなったボクは「海……一条くんより、三年の竜崎さんって人の方が人気あるって聞いたけど」と、カマをかけてみた。

 すると、河野だけでなく、山岸までもが不愉快そうな顔をした。この一年コンビによると、軽薄でちゃらんぽらんな竜崎の評判は部内でもすこぶる悪いらしい。誰も彼の見た目に惑わされてはいないようだ。

 ともかくそれを聞いて、この間まで見た目に惑わされまくっていたボクとしては、穴があったら入りたい心境になった。

「一条先輩に憧れている一年はすごく多いんです。ライバルに出し抜かれないように頑張らなくっちゃ」

 海斗に憧れているのはどうやら河野だけではないらしい。それほど多くのファンを獲得するなんて、彼の人気はどこまで拡大されるのか。何となく取り残された気分に浸る。

 まあたしかに、七月のBVデーでも同級生たちにモテていた彼が後輩の人気を集めないはずはないと納得したけれど。しかも夏休み中、部活では大活躍だった上に、後輩の面倒見も良かった海斗は人気急上昇で、ファンを倍増させたとか。

 そんな逸話を聞かされたボクの胸はカッターよりも大きい、バタフライナイフぐらいのチクチクに襲われた。

「大丈夫だよ。おまえ、すっごくカワイイし、ほかのヤツらなんてメじゃないさ。先輩だってきっとオッケーしてくれるよ」

 そう言って友を元気づけながら、山岸は目を細めて河野を見つめた。

 オッケーしてくれる・イコール・海斗がこの河野クンに「つき合ってもいい」と返事をすること……

 ズキリ、とうとうボクの胸を出刃包丁が襲ったようだ。

 それにも関わらず、ボクは「そうか。うまくいくよう、健闘を祈るよ」などと、しらじらしく河野を励ました。

 そのあと自己嫌悪に陥ったのは言うまでもない。ようやく自宅にたどり着いたボクの頬には涙が一筋貼りついていた。

 河野の言葉を聞いて、改めて自分の気持ちを思い知らされる。

 ボクは海斗が好きだ。他の誰よりも彼が好きなんだ。

 体育館でのあの瞬間、ボクにとって運命の人とは、竜崎ではなく海斗だったと、今にして思う。彼がマドレーヌを食べた時、無邪気な笑顔を見せられた時から、ボクの心はどんどん彼に傾いていた。

 けれど、気づくのが遅過ぎた。竜崎にフラれるまで、ボクは海斗への想いを自覚できないままでいた。

 もしかしたら彼もボクを好きだったかもしれない。でも、こんなふうになってしまった以上、嫌われた可能性が高い。過去形で語るのはそのせいだ。

 もう取り戻せないのだろうか。

 暗い闇の淵に沈んだボクの心が浮上する日はくるのだろうか。

    ◇    ◇    ◇

 狙った獲物は逃さないが竜崎の信条、恋愛における彼のモットーだと思われる。

 ボクが二年C組の矢代拓磨だと知ったヤツは当初「矢代くん」「タクマくん」などと呼んで話しかけてきたけれど、自分で発想したアレがやはりお気に入りらしく「バンビちゃん」と呼ぶのが定着してきた。

 初めて返事をしてやった時、それはもう、大喜びしていたよ、バカなヤツ。復讐劇の第二幕はここに幕を開けた。

 逆に、あの体育倉庫事件以来、海斗はボクを避けるようになった。表面的には以前と変わらないけれど、どこかよそよそしく、これといった会話もない。自ら招いたとはいえ、予想通りの辛い結果になってしまった。

 そんな二人の関係の変化を敏感に感じ取った岩田一味がボクたちの間に入り込んできて、昼休みには毎度、加藤のくだらないダジャレを聞かされる羽目に。ボクにとっては救いなのか、そうでないのかわからない、微妙な時間だった。

 さて、迎えた九月二十八日は第六回BVデー。新学期最初とあって、校内が浮き足立っているのがよくわかる。教室にはお菓子の甘い匂いが漂って、授業どころではないとぼやく先生もいた。

 河野も海斗へのプレゼントをカバンの中に忍ばせて、放課後になるのをワクワクしながら待っているんだろうな。

 ボクが山岸と河野、彼ら二人とコーヒーを飲みながら会話したなんて、海斗はまったく知らないし、こちらから切り出す機会もなかった。そう、あの時の話を彼の耳に入れていいものかどうか、悩み続けたボクは結論を先延ばしにして、とうとう今日という日を迎えてしまったのだ。

 だから、河野の告白を受けた海斗が何と答えるのか、訊きたいけれど訊けるはずもなくて、それでも彼の動向が気がかりでつい。そちらを見てしまう。

 海斗はいつもと変わらない様子で授業を受け、昼休み恒例の、加藤のオヤジギャグに鋭いツッコミを入れていた。

 ボクの友達だった海斗の姿はこれで見納めかもしれない。

 今日の放課後が過ぎたら、彼は可愛い一年生のものになってしまって、ボクとはもう、ただのクラスメイトで……

 まさに悲観的・マイナス指向状態。うつ病になるのも時間の問題かも。

 HRが終了すると教室内は俄然、期待と不安でいっぱいの、ワクワク・ソワソワと落ち着かないムードに包まれた。

 席に着いたままの姿勢で海斗を何気に注視してみたけど、慌ててどこかへ行こうとする気配はなく、淡々と机の中を片づけている。

 もしかして、河野からの呼び出しは取り止め? 

 やった、助かった! 

 助かったっていうのも変だけど、そうとしか表現のしようがない。

 あれこれ考え、混乱するボクは机の傍らに立った加藤の呼びかけがまったく耳に入っていなかったようだ。

「……だから、おい、矢代。聞いているのかよ? ぼんやりしちゃってさ」

「えっ、なっ、何?」

 呆れた様子で溜め息をついた加藤は「おまえを呼んできて欲しいって、岩田に頼まれたんだ。体育館の裏、すぐに行ってくれよ。みんな待ってるから」と告げた。

 岩田だけじゃなくて、みんなって誰? 

 ボクが躊躇しているのを見た加藤は苛立たしげに「早く」と急かした。

 海斗はまだ教室に残っている。彼がこれからどうするのかを見届けることができなくなり、後ろ髪を引かれる思いで、ボクは加藤のあとに続いた。

 体育館の裏といえば、かつてボクが竜崎に告白した、苦い想い出の場所だけど、この学校では他にめぼしい告白スポットはない。あとは校舎の屋上ぐらいかな。

 そこには岩田を始めとした、見覚えのある二年生たちが十数人待っていて、ボクが現れたのを見ると、一斉にプレゼントを差し出してきたのにはたまげた。

「ここにいる全員が矢代のファンなんだ」

「受け取ってください、お願いします」

「できれば誰を選ぶのか聞かせて欲しいんだけど」

 他の連中が口々に訴えるのを苦々しげな顔で見ていた岩田がぼやいた。

「チェッ、せっかくオレがセッティングしたのに、こいつら、調子に乗りやがって」

 どうやら、岩田がこの場所でボクに告白しようとするのを聞きつけて、遅れをとるものかと、これだけの人数が集まったらしい。

 解説するのを忘れていたけど、BVデーに於いてはとりあえずプレゼントを受け取るのが礼儀だが、食べ物を貰った場合、その場で一口でも食べたら贈り主とおつき合いを承諾した証、そういうルールがあるから注意しなくちゃならない。

「このシナモンロール、美味しいよ。早く食べてみてよ」

「いいや、オレのガトゥショコラは最高だぜ。駅前の有名パテシェの店に開店前から並んでゲットしたんだからな」

「そんなにカロリーの高いものはダメだよ。せっかく痩せたんだし、ここはヘルシーな和菓子でどう? 甘笑堂のどらやき」

 ボクが甘いもの好きというのを知っているからか、みんな揃って美味しそうなお菓子を用意してきたみたいだけど、いったいどうすればいいんだろう。

「いや、あの、ボクは……その」

「はい、そこまで」

 突然、背後から声がしたかと思うと、その人物は大きめのレジ袋を岩田たちの前に突き出した。

「拓磨はこういうことに慣れていないんだ。ブツはオレが回収するから、この中に入れてくれ」

 ブツって何? 

 麻薬扱い? 

「はあ~? 何だよ、それ」

「いくら友達だからって、どうしておまえがしゃしゃり出るんだ?」

「矢代の用心棒か? それともボディガード気取りかよ!」

 みんなの非難を浴びながらも、平然とした顔でそこにどっしりと構えていたのは海斗だった。

「いいから。さあ、帰った、帰った」

 ここでも強引さを発揮する海斗だが、帰れと言われて、はい、そうですかと皆が引き下がるはずもなく、やいのやいのと揉めているところになんと、あの男が現れた。

「何の騒ぎだ? よう、おまえら誰に断って、オレのバンビちゃんにチョッカイかけてるのかな?」

 なんたるバッドタイミング! 

 バスケ部ナンバーワン美形の登場に、その場にいた連中は仰天すると、蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げ去った。超モテ男で超遊び人をライバルにまわしたならば、かなうはずなどない。そう判断したのだ。

 この目まぐるしい展開に呆気に取られたままのボクに、竜崎はニヤッと笑いかけた。

「二のCの教室に行ったら、ここだって聞いてさ」

 次に彼はカバンの中からポリ袋に入ったものを取り出したが、それはなんと煎餅で、袋の表には『薄焼きせんべい』という毛筆体の黒い文字がでかでかと書いてあった。

 その煎餅を差し出して「オレは貰う方専門だったからよく知らないけど、今日、どんな菓子でも渡せばオッケーしてくれるんだろ?」と訊くこの男に、ボクは呆れ果ててしまった。

 袋に入ったやつをそのままよこすなよ、しかも『薄焼きせんべい』を。それ、お母さんがおやつとして買い置きしていたお茶菓子じゃないのか。

 その袋にリボンをかけろとは言わないけれど、せめて紙袋に入れるなりなんなりしろよ。なーんて、そんなデリカシーをこいつが持ち合わせているわけないか。

 だったら、バンビちゃんへのプレゼントとしてはいっそ、奈良名物・鹿煎餅の方がよっぽど芸があってウケると思うんですがね。

 次に、海斗を見据えた竜崎は「おい、一条。まさかオレまで妨害するつもりじゃないよな?」と、後輩を牽制した。

 妨害? 

 海斗のレジ袋にはそういう意味があったってことなのか。

 唇を真一文字に結んだ海斗は黙ったまま、竜崎を睨んでいる。

 じりじりと空気まで焦げつきそうな、このイヤなムードをいきなり払拭したのは一年生軍団だった。

「おおっと、一条先輩を発見しました!」

 悲鳴のような、嬌声のような叫びが聞こえたかと思うと、どやどやと集まってきた彼らに取り囲まれて、海斗はたちまち身動きが取れなくなっていた。

「こんなところにいたんですか? ずいぶん探しましたよ」

「一条さん、ボクの気持ちを受け取ってくださーい」

「こら、何出し抜いてるんだよ、オレが先だろ! おい、うしろ、押すなよっ!」

「ほらほら、順番守って!」

 ぽかんとするボクや竜崎の存在など、まるで目に入らないかのような、海斗を巡るこの大騒動。

 騒ぎを目の当たりにしていたボクの中で何かがはじけた。

 いくらこの前のボクの態度が気に入らないからって、岩田たちを妨害しておいて、自分は一年生にちやほやされてニンマリだなんて勝手すぎる。

 そっちがその気ならと瞬時に考えを巡らせたボクは無言のままで竜崎の煎餅の袋を受け取ると、袋を開封して中の一枚を取り出し、右手に持って斜め上に掲げた。

 いったい何事かと見守るヤツの目前で、ボクは掌の中で煎餅を粉々に砕き、まるで花咲か爺さんのようにそいつを空中撒布してやった。枯れ木に花を咲かせましょう。

 それを見て、さすがに竜崎の顔色が青くなった。

 ひどい仕打ちをされた、いきなりブタと呼ばれた者の気持ちが少しはわかったってもんだろう。復讐のワンステップ完了。

 ショックのあまり言葉が発せない彼を見てニヤリと笑ったボクは「食べ物を粗末にしちゃいけないから、この辺にしておくよ」と言いつつ、次の一枚をかじってみせた。

「えっ……食べて、くれ、たのか?」

 一口食べたらおつき合いのルールは承知している。

「それで、デートの約束はいつ?」

「い、いいのか? オッケーしてもらえるってことなのかい?」

「良さがわかるとは思えないけど、とりあえず、お試しでね」

 さっきの出来事から、これでもう駄目かと思っていただろうに、ボクの申し出に気を取り直したヤツは大喜びで、明日にでもどうかと訊いてきた。

 場所と時間を確かめると、まだ何か話し足りなさそうな彼を置いてきぼりにして、ボクはさっさと引き揚げた。

 今日のところはここまで。第二幕は始まったばかり、お楽しみはこれからだ。

 すると後ろから慌ただしい足音がして、海斗がボクを追いかけてきた。一年生たちを振り切ってきたらしい彼は「竜崎と約束したのか?」と、息を弾ませながら尋ねた。

「そうだよ。明日十一時に、高砂屋の入り口だって。だから前にも言っただろ、さんざん振り回して、ポイ捨てしてやるってさ」

 肩をそびやかしてボクは答えた。意固地も意固地、凝り固まっている。

「マジかよ……」

 視線を落とし、深い溜め息をつく海斗とボクの間に、重くて気まずい雰囲気が漂う。重い、重すぎる……

「あっ……!」

 ふいに聞こえた声の主は河野だった。

 そういえば、さっきの一年軍団の中に姿を見なかったけれど、どうやら彼らに後れをとり、慌てて一人で海斗を探し歩いて、偶然にもここで出くわしたらしい。何てラッキーなヤツというか、悪運が強いというべきか。

「お取り込み中ですか?」

 おずおずと遠慮がちに訊く河野は雑貨屋のロゴが入った、水色の紙に包まれた箱を大事そうに持っていた。

 あれだ、丸いマグカップ。

「いや、いいよ」

 海斗は岩田たちのプレゼント回収レジ袋をボクの方にグイッと押しつけたあと、くるりと背を向けた。

「行こう」

 河野を促して歩き始めた後ろ姿は傾きかけた陽の光のせいでハレーションを起こし、何も見えはしない。

 ……その瞬間、ボクは彼らとは反対の方向に駆け出していた。

 何やってんだろう、ボクは。

 海斗が誰を選ぼうと、どうなろうと彼の自由だ。ただの友達に過ぎなかったボクに口を挟む筋合いなんてない。

 それなのに苦しくてたまらない。この痛みはどうすればいいんだ。溢れる涙を拳で拭いながら、ボクは走り続けていた。

                                ……⑤に続く