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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

   バンカラらぷそでぃ ⑦

    第七章  勃発! 合奏バトル

 見合いという奇妙な形で再会し、関わるようになった聖爾は俺を十五年間想い続けていて、俺自身は偶然出会った応援団団長の土方さんに片想いのはずが聖爾の動向も気になる。奇妙な三角関係のせいでこの数日間、心が掻き乱されっぱなしだ。

 気もそぞろに講義を受けていると、後ろの席に座った赤木が背中をペンでつついた。

「何ぼんやりしてるんだよ?」

「うるさいな、何でもねえよ」

「昨日あれからどこ行ったの?」

「送ってもらっただけ、どこも行かないって」

 この応用化学の講義は必須科目のひとつで、工業化学科のほとんどの人が受講するとあって、大人数が入れる小型のコンサートホールみたいな教室を使う。

 教授はマイクやスクリーンを使って授業を進めているけど、後方の席はそれこそ無法地帯で、居眠りにおしゃべり、メールするヤツと様々。高い学費を払っている親が見たら嘆く光景が繰り広げられている。

 おしゃべり組のひとりである赤木は「学園祭の話、聞いた?」と話を振ってきた。

「さあ、知らね」

「ミス・キャンパスのイベント内容が大々的に変わるんだってさ」

「あ、そう」

 気のない返事を繰り返す俺の態度はいつものことと、赤木は懇切丁寧に説明を続けた。

 神理大の学園祭は例年六月初旬に行われていて、男だらけの地味なキャンパスもこの三日間だけは華やかなお祭りムードでグッと盛り上がる。ミス・キャンパスコンテストは三日目、最終日の大イベントとして用意されており、会場は今俺たちがいる、大学で一番広いこの教室を使って大掛かりに行うらしい。

 が、先に述べたように女子学生の数が少ないから出場者がいない。女なら誰でも、というわけにはいかない、容姿に自信がないのに参加して、顰蹙を買うのはイヤだという気持ちは当然だろう。

 出場者がいないイベントが盛り上がるはずはなく、だったらやめればいいのにと思うのは俺だけのようで、それならばやり方を変えようと、学園祭実行委員の面々が発案したのが『ミス』に限らないミスコン。

 参加資格は当校の女子学生に限るという規定に無理がある。既婚女性だろうが何であろうが、そう、男であっても、この大学に関係ある人なら誰でも参加出来るというように変更。イベントのタイトルも『神理大ミス・キャンパス』から『神理大・名物美人コンテスト』となったのだ。

 一応ミスコンなので、男は女装をして参加するが、美の部分だけを競うとなると、美人女子学生が有利になるのは当然であり、結果も見えているので、それでは変更した意味がなく、面白くもない。何か一芸を披露するなり何なりして、自分を審査員にアピールする、つまりウケを狙って成功すれば、美人じゃなくても、男でも優勝出来る可能性がある。

 赤木曰く「この名物ってのがポイントなんだよ。まあ、ミスコンと隠し芸大会が合体したようなもんだな。さっき食堂でカレーよそってくれたオバちゃんが『アタシも出るわよ』って張り切ってたぜ」とのこと。ウケ狙いという点では、オバちゃんの参加はイイ線いくかもしれない。

 そしてこの話には続きがあった。参加者の資格の枠を広げても、食堂のオバちゃん全員が参加するとは思えないし、女装してまで、敢えて参加しようと考える男もそう多くはないだろう。

 そこで考え出されたのがサークル別対抗にするという案。学生会館にある十五の部室使用権を賭けて、各サークルがこれぞという人物を推薦し、自分たちの代表に挙げてコンテストに送り出す。この方法なら、部室が欲しいサークルの数だけ参加者が集まる寸法だ。

 上位十五位以内に入賞すれば部室が与えられるが、十六位以下は権利なし。現在部室を使っているサークルも入賞出来なかったら、権利を剥奪されるのだ。これはかなり厳しいが、空きを待っている多くのサークルの気持ちを汲み、平等に扱うための決定とみた。

「これってさぁ、オレたちにメチャメチャ有利なチャンスじゃん?」

「チャンス、って何の?」

「部室ゲットだよ! 部室があれば毎度楽器を車から運ぶ必要ないし、そこで練習出来るって、白井さんが話してたじゃねえか」

「ま、たしかに……」

 赤木はずいっと俺に顔を近づけた。

「三曲同好会の未来を背負うのはミサオちゃんをおいて他にいないぜ、もちろんコンテストに出るだろ? そんでもって部室をゲットしてオレたちは万々歳。めでたし、めでたし」

「なっ、なんで俺が?」

 授業中にもかかわらず、大声を出しそうになった俺は慌てて口を押さえた。

 ミスコンに出ろ、出るんじゃないかと言われ続けていた俺が本当に出る羽目になるかも、なんて、これぞまさに瓢箪から駒。

「男もオッケーになったんだから堂々と参加出来るし、箏が弾けるという立派な一芸があるじゃないか。こんな大役、ミサオちゃんを差し置いて、誰がやれるっていうんだよ」

「誰って、あの桃園って女がいるだろ」

 赤木の言う通り、コンテストで入賞して部室が貰えれば三曲同好会は活動しやすくなる。しかし、いくら同好会のためとはいえ、二度とやりたくないと思っていた女装をしてコンテストに臨むのは抵抗があるし、その姿を公衆の面前に晒すなんてまっぴらゴメンだ。

 それに俺が出るまでもなく、ミスコン三連覇を目指すあの女に任せた方が確実だと思われるのだが、その言葉を聞いた赤木は難しい顔をして首を横に振った。

「去年までとは審査基準が違うし、三連覇が達成出来るとは思えないな。みてくれだけの女に審査員を唸らせる芸当があるわけないし、万が一入賞して部室が貰えたとしても『アタシのお蔭よ』とか何とか言って、恩に着せるに決まってるぜ。あいつに気兼ねしながら部室を使うのなんてイヤじゃねえか」

 傍若無人な桃園恭子をみんな快くは思っていない。彼女は自分が好意を寄せる聖爾に接近するだけの目的で同好会に入り、そこにいた俺を邪魔者だと思っていることは全員が承知していたし、それに対して俺を聖爾の婚約者として支持、応援してくれるというのは有難いのか迷惑なのか、何だかわからない。

「どっちにしろ彼女の時代は終わったんだ、次の優勝者はミサオちゃんだって」

「マイッたな……」

 とんだ事の成り行きに俺は頭を抱えてしまったが、サークル別対抗コンテストの件は大学中に知れ渡っており、講義が終わるとさっそく何人かの学生が俺に声を掛けてきた。

「ねえ、綾辻くん。キミ、ウチのサークルの代表になってくれないかな?」

「えっ、オレのとこが先に目をつけたんだぜ」

 口々に勧誘、牽制し合う彼ら。俺が工学部のニュー・アイドル、ミス・キャンパス候補として認知されていたというのは本当だった。男にも参加資格ありとなった今、それは現実化してしまったのだ。

「おいおい、ミサオちゃんは三曲同好会からの代表に決まってるんだから、もう予約済み。お呼びじゃないぜ、他をあたりなよって」

 そう言って赤木が学生たちを追い払おうとすると、三曲なんて聞いたことがないと不平を漏らしながら彼らは立ち去った。

「さあさあ、参りましょうか」

 上機嫌の赤木に引きずられるようにして和室に行くと、入っていきなり出会ったのは土方さんで、マイダーリンの登場に俺はドッキリ、後ずさりしてしまった。

「こっ、こんにちは」

 珍しく学ランではない、緑のチェックのワイシャツ姿に何を着てもカッコイイと、俺のラブラブ指数は急上昇。軽く会釈をした彼は真剣な面持ちで話しかけてきた。

「あの、折り入ってお願いがあるのですが」

「な、何ですか?」

 土方さんにお願いされるなんて、と夢心地のまま話を聞くと、

「学園祭のコンテスト、応援団からの代表者として出場していただけないでしょうか?」

「えっ? 応援団からの、って……」

「部室がなくなるのは我々としても大変困るのです、どうかお願いします」

 応援団は現在部室を使用している十五のサークルのうちのひとつで、そこを出て行く羽目になったら大変な事態になるようだが、校内でもダサイ男の集団である彼らに出場を頼めるような恋人はいないらしい。それってもしや土方さんもフリー? やったね! なんて、ちょっと虚しい。

こうなったら団員の中で誰かが女装して、お笑い・ウケ狙いの路線で勝負するしか、打つ手はないと言われていたのだが、そこで提案されたのが俺への依頼だった。

「まっ、待ってくださいよ! ミサオちゃんはこの三曲同好会の代表なんだから、勝手な真似されちゃ困ります!」

 赤木が抗議すると、土方さんは困ったような、悲しげな表情で懇願した。

「豊城先輩の婚約者にお願いするのは大変申し訳ないのですが、どうか我々を助けると思って、引き受けてもらえないでしょうか」

 げげっ、婚約者だなんて、もう耳に入ってしまったのか。身体中の力が抜けてクラゲになっちまいそうだ。

 そこへ奥の八畳から顔を出した桃園恭子が「御心配なく。この同好会の代表はアタシが務めますから、あなたの出る幕はなしよ。安心して応援団に協力して差し上げてちょうだい」と勝ち誇ったような顔をして言った。

 俺に代表を頼んだらどうだと、土方さんに入れ知恵したのはこいつとみて間違いない。婚約者云々までバラしやがって、クソッ!

「なんたって二連覇の実績があるんですもの。今年もバッチリ優勝狙っちゃうから、部室の獲得は期待していいわよ」

 自信満々に言い切る彼女に呆れていると、聖爾が三絃のケースを持って入ってきた。昨日ウチの客間でされた行為を思い出して、気恥ずかしくなった俺はつい、うつむいてしまったが、赤木は援軍が来たとばかりにそちらへ駆け寄った。

「豊城さん、いいんですか?」

「いいって、何を?」

 切羽詰った様子の赤木を見て、聖爾は不思議そうに首を傾げた。

「学園祭の美人コンテストですよ。応援団にも依頼されているけど、三曲同好会から出場するのはミサオちゃんでしょ?」

 さあ、この問題にフィアンセとして何と答えるのか? 固唾を呑んで見守るみんなの、その視線を一身に集めた聖爾は「コンテストか。部室が欲しいのはもちろんだけど、美佐緒さん自身はどうするつもりなのかな」と、話をこっちに振ってきやがった。

「どうするって……」

 そのセリフ、土方さんを取るのか、それとも友情を取るのかと俺を試している? 頭の中をいろんな考えが駆け巡り、語尾が濁る。

 女の格好はもうたくさんだが、こうなった以上やむを得ないと、コンテストに出場する決心は固まった。ならば、憧れの人からの頼みには何としても応じたいし、俺が応援団代表でプルプル女は三曲代表というのも動かせないだろう。赤木たちを裏切るみたいで心苦しいし、あの女の思う壺にハマッたとあって、それはそれでムカつくが。

「……わかりました。応援団の代表、引き受けますから」

「マッ、マジで! 本気で言ってるの?」

「代表候補が二人いるなら、どちらか一人は仲間のサークルにまわった方がいいだろ」

 応援団団員であっても、土方さんと黄山は同好会の仲間でもある。仲間のピンチを見捨てるわけにはいかない。俺が出した結論に、確かにそれ以外の方法はないとみんなも納得したようで、異議を唱える者はいなかった。

 聖爾はと見ると、平静を装っているけど目が動揺している。本当は応援団代表つまり、俺には土方さんの側についてもらいたくないけれど、この状況じゃあ反対できっこない。そんなジレンマを感じているんだろう。

 ありがとうと土方さんが礼を言い、それにつられるように黄山もペコリと御辞儀をした。

「自分たちに出来ることは何でもしますから、遠慮なく言ってください」

「はあ。でも、いいのかな。一芸っていっても、箏を弾くぐらいしか……」

「充分すぎるほどです。あの素晴らしい演奏なら、絶対に大丈夫です」

 土方さんは彼らしからぬ、情熱的な口調でそう力説し、俺をじっと見つめた。アコガレのマイダーリンに見つめられちゃってドキドキ、ガチガチ、しどろもどろの俺を見ていた桃園恭子は「コンテストの舞台で箏を弾くの? アタシもそうするつもりだったのよ。それならちょうどいいわ、お箏対決でひと勝負しない?」などと言い出した。

 妙な展開になってきた。彼女曰く、今度のコンテストで、より上位に入賞した方が勝ち。俺が勝てば聖爾のフィアンセと認めるが、負けたら婚約を解消しろと切り出したのだ。

 ただし、ずっと自宅で練習していて、経験の長い俺の方が演奏に関しては有利。そこでハンディとして尺八との合奏を条件とし、自分はベテランの聖爾と、俺には初心者の土方さんと組むよう提示した。舞台に立てるのはミス候補のみという決まりはなく、お手伝いやら助っ人などのグループでも構わないので、二人で出るのもオッケーなのだ。

「メ、メチャクチャだ! コンテストと、豊城さんたちの婚約と何の関係があるんだ? 先生がいない隙に勝手なこと言うなよ!」

「そうだよ、絶対におかしいよ。そんな勝負受ける必要ないって」

 赤木と青柳はそう言って俺を援護したが、「うるさいわね、外野は黙ってて」と一喝した女はさらに「別にいいのよ、やる気がないなら、こっちにも考えがあるわ。部室が欲しいんでしょ」と、暗に代表を降りるようなことを匂わせ、俺たちを挑発した。

「どう? この勝負、シッポを巻いて逃げたりしたら、男がすたるわよねえ」

 最後の一言は俺に向けられたものだが、土方さんは自分が侮辱されたと思ったらしい。

「……いいだろう。受けて立とう」

 切れ長の目が鋭い光を帯びて、その気迫、凄まじさに圧倒された俺は何も言えないまま傍らの土方さんを見上げ、そんな俺の様子に不安を感じているのではと思ったのか、彼は慈しむような眼差しを投げかけた。

「あなたの名誉は自分がこの手で守りますから、どうか信じてついてきてください」

 こいつは夢か幻か? 勇敢で見目麗しき騎士と、そんな彼に守護されるお姫様。ファンタジーワールドが脳裏に広がり、俺はそのヒロインになったような錯覚に陥った。

 それにしても、まるでプロポーズのような土方さんのセリフに、一生ついていきますとどんなに返事をしたかったことか。誠さんと呼んでもいいですか?

 俺たちが承諾したのを見届けた桃園恭子が「あちらはいいみたいよ。さあ、これで協力する気になってくれたかしら?」と聖爾に念を押すと、ヤツは憮然として答えた。

「……わかった。それじゃあ練習を始めよう」

 こうしてコンテスト騒動に端を発した二組の合奏バトルの幕は切って落とされた。

                                ……⑧に続く