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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

ムーンライトダンス ⑦(最終章)※18禁🔞

    第七章

 けっこう重症だった胃潰瘍の治療もメドがつき、オレは晴れて退院となった。
 退院当日、迎えに来てくれたのはこの日を一番待ち望んでいた辰哉で、オレはようやく二人のスウィートホームに戻ってきた。
 いやまったく、このオンボロな寮がスウィートだなんて、笑っちゃうよな。
 道すがらの、辰哉の説明によれば、次期理事長を巡るその後の騒動はとりあえず終結したようだ。
 辰哉の理事長就任は取り止めとなり、婚約の話ももちろん自然消滅。柿崎さんあたりが説得したのか、善司ジイさんは態度を変えてこれまでの辰哉に対する扱いについて詫び、孫と祖父は和解。
 また、近いうちにその座を岳大パパに譲ると承知し、その代わりキャンパス大改造だけは延期になったとか。
 大改造するほど予算もないし、いきなり無理はしないっつーことでお互いに手を打ち、中庭の噴水はそのまま残されることになってめでたし、めでたし……なんだけど、耐震性という点において問題のある、あかつき荘の取り壊しだけは避けられなかったらしい。
「まあ、しゃーねーな。地震で潰れたんじゃ困るし、補強工事をしてまで存続させるってのも無理だろ」
「ああ。だから前におまえが提案した、奨学金を出したらどうかと話しておいた。結果として先輩たちを追い出すわけだし、そのくらいのことはするべきじゃないかって」
「じゃあオレも貰えるのかな、奨学金」
 頷いた辰哉はそれから、寮の取り壊しが始まったら、自分が自宅へ戻る際に、オレも一緒に住まわせることを家族に承知させたとも語った。
「下宿代はいらないって、それ、ホントにいいの?」
 食事から洗濯から、何から何まで生活面のすべてを面倒みてくれると聞いて、オレの心は揺らいだ。これで無理なバイト生活を送らなくてもいいと思うと、肩の荷が下りた感じで嬉しいけれど……
「そりゃあ貧乏学生にとっちゃ、すげェありがたい話だけどさ、あれもこれもと、おんぶに抱っこじゃ、いくら何でもずうずうしくないかなって」
 辰哉の自宅にはヤツの両親と高校生の弟が住んでいて、本来なら善司ジイさんも同居しているんだけど、今は引き続き入院中。
 あとは通いのお手伝いさんやら、柿崎さんやら、運転手さんなんかも出入りするから、日中もバタバタとしているらしい。
 それに広い家とはいっても、トイレや風呂で人々に鉢合わせする率は高い。そんな場面を想像すると気が引けた。
「何だか気ィ遣っちゃって疲れそうだよな」
「俺とおまえの仲なんだから、遠慮なんかしなくてもいい」
「俺とおまえって……あ、まさか結婚するだの、自分の部屋で同棲する、みたいな説明はしてねーだろうな。相手が男だなんて、そんなの聞いたら、ただでさえ身体の具合が悪いのに、ジイさん心臓止まるぜ」
「そこまでは話していないけど……」
「余計なことは言うなよ、絶対に」
 オレが念を押すと、辰哉は不満そうな表情をした。
「なんだよその顔、文句あるのか?」
「だって、やっと俺たち……」
 お互いの気持ちが通じ合ったのに、と言いたいらしい。
「しょうがねえだろ。オレ、男だもん。女と同じようなわけにはいかねーよ。それに女だって、婚約でもしてなきゃあ、ふつう相手の実家に入り込んだりはできねーしな」
 オレがただの下宿人、居候という扱いは親友の域を出ていないわけで、必要以上の接近は不審に思われるだろう。
 二人はラブラブ、なんてヤバイ現場を目撃されたら一大事だし、そんな家族みんなの目を気にしすぎて、同じ屋根の下にいても、とゆーか、一緒にいるからこそ他人行儀になってしまうのは明らかだ。
「やっぱオレ、アパートに戻るよ」
「えっ?」
 今になって何を言い出すのかと、辰哉は驚きの声を上げた。
「寮だって今すぐ廃止になるわけじゃないし、奨学金が出るなら、ちょっとは何とかなるだろ。そうしたらおまえはちょくちょく遊びに来ればいいじゃねえか」
「……」
 不機嫌そのものの辰哉は踵を返すと、無言のまま、オレの入院荷物を提げてさっさと階段を昇り始めた。
 そんな、オレに怒ったって、どうにもなんねえだろって。困ったヤツ。
 久しぶりに帰ったオレたちの部屋の光景は何ひとつ変わっていなかった。いや、ひとつだけ変わっていた。壁に掛けられた『海の溜め息』が部屋の景色に仲間入りしている。
 善司ジイさんがお詫びの意味を込めて買い上げてくれたお蔭で、オレは授業料を使い込まずに済んだってわけだ。
「うーん。ここに飾ってもなかなかいいじゃねーか。よかったよな。なっ?」
 オレのとりなしにも不機嫌なままの恋人は黙ってテーブルの上の片づけをしている。
「おい、何とか言えよ」
 まったくもう、いいかげんヘソ曲げてんじゃねーよ、コラ。
「おーい、辰哉くーん」
 返事はなし。こうなったら不意打ちだ。
「とりゃーっ!」
 背後に回り込み、その背中に抱きつくという行動に、辰哉は驚いた様子でこちらを見たが、いきなりオレを抱きすくめると、その場に押し倒して覆いかぶさってきた。
「なっ……」
「何度こうしようと思ったかわからない」
「それって……もしかして?」
「そのもしかして、だ」
 うわー、オレってば、かなり前から貞操の危機?に晒されていたらしい。
 いつぞやバックバージンを捧げるなんて妄想をしたことがあったけど、いよいよそれが現実化、運命の時が訪れた。しかもまっ昼間から、いったい何やってんだか。
「同じ部屋で、すぐ傍でおまえが寝ているんだ、身体がおかしくなりそうだった」
「で、トイレでこっそり処理したとか?」
「茶化すなよ」
 整った顔がすぐ間近にある。真剣な眼差しでこちらを見ている。
 想いが通じ合った以上、いつかは求められるもの。とっくに覚悟はしていたけれど、いざとなると身体が震えてくる。
「恐いのか?」
「ンなわけねーだろ」
 こんな場面においても、強気で意地っ張りな性格が顔を出すオレ、辰哉は熱っぽい目で見つめながら「じゃあ……いいな?」と訊いた。
「ダメって言ったって、聞く気ねえし」
「まあな。さんざん我慢してきたんだ、ここまできたらもう、止められそうにない」
 床の上じゃ背中が痛いと訴えたら、軽々と横抱きにされ、ベッドの上まで連れていかれた。細身のくせに力があるんだと、改めてトキめいてしまう。
 ベッドで身体を重ね、唇も重なる。
 舌を絡めては離し、互いの蜜を吸う、今までで一番甘くて、とろけそうなキス。
 オレは思わず辰哉の背中に腕をまわし、この甘美な感触を受け止めていた。
 ずっと、ずっと、こうしていたい……
「……ん」
 どれぐらい続けていたのかわからないほど長いキスのあと、辰哉はオレの髪を優しく撫でつけ、右の耳元に唇を寄せた。熱い吐息がかかる。
「ラムネ……」
 吐息混じりの囁きに背筋までが痺れてくる。息を吹きかけられ、耳朶を軽く噛まれて、その快感に目眩がしそうだった。
「あ……あっ」
 オレがかなり感じているとわかったからか、辰哉は耳朶への刺激を続けた。
 唇で、舌で、左耳は指先で。手を替え品を替えての愛撫に、強気なはずのオレの口から漏れるのは情けないほどに甘ったるい喘ぎ声、自分がこんなふうになってしまうなんて、想像の範囲を軽く超えている。
 耳元にあった辰哉の唇はオレの頬を滑りおりたあと、首筋へ到達した。
 そこに舌を這わせながら、左手はTシャツの中へと進入、触れられた素肌にピリリと緊張が走る。
 円を描くように滑る辰哉の掌はやがて、小さな突起を探り当てた。撫で回され、指で挟み込むようにされると、キューンという感じの快感に襲われた。
「あっ、そこ」
 オレがそう声に出したのが嬉しいのか、辰哉はそのままTシャツを剥ぎ取ってしまい、貧弱な上半身がさらけ出された。
「けっこう色白なんだな」
「ハハ、七難隠すってな」
「ここもピンクでキレイだ」
 今度は両手で両方の乳首を攻めにかかる辰哉、キューンの快感が倍になってオレは悶絶した。イイ、気持ちよすぎる。
「も、もう、ダメだって」
 悲鳴に近い喘ぎに、辰哉は刺激を緩めるどころか、片方はそのまま指で、片方を口に含んできた。
「あっ、ヤぁ……」
 右、交互に左。強く吸いついたり、舌の先で先端を突いてみたりと、容赦ない攻撃から受ける快感のスゴさったらない。オレはヒイヒイと、みっともない声を上げた。
 耳朶もそうだけど、この部分を敢えて刺激したことなどない。そもそも男という生き物が刺激を求める場所なんて、下半身の一箇所しかないという認識のはず。
 なのに、こんなふうにメチャメチャ感じているなんて、オレってば、男としてはちょっと、いや、かなり変? やっぱ、そっち系だったのかなぁ……
「嬉しいよ」
「えっ?」
 辰哉の、ふいの言葉に意識が戻る。
「俺がおまえをこんなにも感じさせて、悦ばせているなんて、嬉しい」
「そ、そーか」
 女とは、とゆーか、セックスそのものとは無縁の生活を送っていたらしい辰哉だ、男を抱くなんて当然、初めてに違いないし、内心では自信がなかったのかもしれない。
「もっと、感じさせたいから……」
 そう言ったあと、再び乳首を口に含みながら、辰哉の手は次にオレの下半身へと伸びていった。
刺激を求める場所は刺激される前にすっかり硬くなり、しっかり勃ち上がっている。
 勃起を確認するかのように、パンツの上からそこを撫でた辰哉は形のとおりに擦り始めたが、誰かから与えられる初めての刺激に、オレはすっかり舞い上がってしまった。
「はぁ……ふ……ん」
 またしても情けない声を出しているうちに、辰哉の手はパンツにかけられた。
 今度はとても自慢できない、貧弱な下半身のお披露目だ。丸裸にされて、因幡の白兎の心情がつくづくわかった。
「そんなに見るなよ、恥ずかしいって」
「じっくり見るのは初めてだから」
「着替え覗いていたんじゃねーのか」
「そうしたいのはやまやまだったけど、変態だと誤解されたらマズイかなと思って」
「オレが好きだなんて、じゅーぶん変だよ、おまえは」
 視線を避けてうつむいていると、辰哉は服を脱ぎ、自身も全裸になった。
 細身だけれど、ただ痩せてるだけのオレと違って格好良く引き締まっている。しかも、ピンと上を向いているあそこの立派なことったら……劣等感。
 相手に見るなと言った以上、こっちがジロジロ見るわけにもいかずにうろたえていると、辰哉は再びオレの上にのしかかってきた。すかさずペニスをつかまれる。
「い、いきなりかよ」
 肌と肌を合わせる、その熱い感触、つかまれた部分を擦られる、その強い刺激に、オレはまたしても嬌声を上げた。
「やっぱりここが一番イイだろ?」
「それはそう……だけど……あ、ヤベッ」
 どれだけも経たないうちに発射してしまい、何て長持ちできないんだろうと落ち込む間もなく、辰哉は白い液をティッシュで手際よく拭いた。
「大丈夫、もう一回ぐらいイケるから」
「もう一回って何だよ、何でおまえがオレの回数カウントしてるんだよ?」
 呆れるオレにはかまわず、辰哉は身体を下方へずらすと、驚きの行動をとった。
 なんと、オレの股間に顔を埋めた──フェラを始めたのだ。
「えっ、えーっ! 何やってんだよ?」
 ペニスを包む生温かさと、感じる部分をダイレクトに刺激する舌のせいで、オレはたちまち復活、その快感に身悶えした。
「あっ、あっ、や、辰哉、も、もう……」
 舌使いの素晴らしさったらない。こいつ、どこでこんな技を覚えてきたんだ? 
「も、もういいよ、このままだとイッちゃうから……ヤバイよ」
 解放してくれと懇願するオレに、辰哉は目で発射オッケーの合図を送ってきた。
「い、いいのかよ……」
 そんなことしたら、もろに飲む羽目に……あーあ、やっちゃった。
 恐縮するオレの目の前で、辰哉の喉仏が上下した。
「そんなの、美味くねーだろ」
「ラムネのだから……」
「ラムネの、って言ったって、炭酸で甘いのが出るわけじゃねえぞ」
「うん……まあ」
 うつむく辰哉は「おまえのだからいいんだ」と呟いたけれど、その態度にオレへの想いをひしひしと感じて、照れ臭いやら何やら。
 身の置き所がなくなったオレはまたしても余計な言葉を口にした。
「それにしてもおまえ、男相手に手慣れてねーか。ホントに初めてかよ? 別に経験ありだからって責めたりしないからさ」
 一言多い性分はこんな場面ですらも発揮される。辰哉はうつむいたままで、
「初めては初めてだけど……シミュレーションした」
「シミュレーション? どこで?」
「ネットで見て……それで」
 どうやらオレが夜、バイトに行っている間にネット検索をして、そこで何らかの記事を見つけて、どうすれば男を喜ばせられるかの研究?を積み重ねていたらしい。
 オレってば、ずっと前から辰哉の頭の中では何度も犯されていたわけだ。今さらに恥ずかしくなる。
 もっと早くにその欲望が伝わっていたら、いや、欲望じゃなくて、ヤツの気持ちそのものが伝わっていたなら、オレはあんなにも悩んだり絶望したりせずに済んだのにと思う。まあ、あとの祭りってやつだな。
「よーし、それじゃあお返ししてやるよ」
 意気込むオレを見て、辰哉は困ったような顔をした。
「あんまり無理はしない方が……」
「何言ってんだよ、オレにだってそのくらいできるって」
 ベッドの縁に腰掛ける辰哉、床にひざまずくオレと、体勢を入れ替えて行為の方も選手交代。
 しっかりと張り詰めている辰哉のペニスが目の前にそそり立っている。見ているだけでドキドキしてくる。
 思い切ってパクリと頬張ってみたはいいが、ただ咥えているだけで、若葉マークのオレには手に負えないとすぐにわかった。
「ん……んん……」
「だから無理はするなって」
 苦笑いを浮かべた辰哉はそれから「もしかして、ためらってる?」と訊いた。
「ためらう?」
「だからその……俺と……」
 こちらをまともに見ようとはせずに、目を泳がせる辰哉、一連の反応の意味を考えたオレは「それって、オレがおまえとその、ナニするのがイヤで、口で誤魔化そうとしてる、そんなふうに思ったわけ?」と、逆に問い返した。
「そこまでは言わないけど」
 辰哉にしてみれば、オレとこうなるのは念願だったはず。でも、肝心のオレの気持ちはどうなのか、したいのかしたくないのか、不安に思い始めたみたいだ。
「今さらってゆーか、ここまでしといて、そんなこと言うわけねーだろ」
「それはそうだと思いたいけど……覚悟がいるのかもって」
「あーもう、まどろっこしい!」
 立ち上がったオレはいきなり辰哉の太腿にまたがるように乗り、向かい合わせで抱きついた。この体勢、互いのペニスが触れ合ってかなりいやらしい。
「ほら、オレは何してもオッケーだから、おまえの好きなようにしてくれよ」
 弾かれたようにオレを見上げた辰哉は背中に腕をまわし、次に、目の前の位置にある乳首に再び吸いついた。
「……ふぅん」
 またしても訪れた快感に、オレはのけぞるようにして声を上げた。
 背中にあった右手はスルリと下へ、そしてとうとう問題の穴に到達、ガラス細工でも扱うかのように、そっと触れてきた。
「あ……」
 誰かに触られるなんて、まったくなかったところだけど、予想していた以上に感じているのがわかる。
 しばらくそこを撫でていた辰哉の指がゆっくりと中に入ってきたが、思っていたような痛みはない。
 辺りの壁を刺激されるのと、さっきからの乳首への愛撫が重なり、強い快感が全身に走った。
「あんっ、ああっ」
 指だけでここまで翻弄されるなんて。
 動きが早くなるにつれて、オレの身悶え方も激しくなる。
 その激しさを目にして我慢できなくなってきたのか、辰哉は乳首から唇を離すと、右手の指はそのまま、左手だけでオレを抱き寄せてベッドに横たえ、腰を高く上げて大股を広げさせた。
「入れるけど……いい?」
 さんざん掻き回していた指が抜かれてすぐに、ずっと太くて重いものがグイグイと入り込んできた。思わず悲鳴を上げる。
「痛いのか?」
「お、重い……」
 こんなものを入れられたら壊れる。そう思っていたけど案外柔軟性があるらしく、オレの下の部分は辰哉のペニスをしっかりと咥え込んでいた。
「本当に大丈夫?」
「平気……心配するなって。早く、ちゃっちゃっと動けよ」
 オレを気遣いながらも欲求には勝てないらしく、頷いた辰哉は腰を前後に動かし、己の快楽を追求し始めた。
 クールすぎて以前は無表情にすら見えていたその顔がギラギラとした男の欲望に満ちてくる。今やオスと化した彼の、逞しいペニスが中を貫き、先端が奥を深く強く突く。
とたんに、ピリピリと激しい刺激が体中に伝わり、強い震えがきて、思わず背中にしがみついてしまった。
 スゴイ、スゴすぎる。
 こんなにも気持ちのいい行為がこの世にあったなんてと、オレは大袈裟なまでに感動していた。
 辰哉の皮膚に溢れた汗が流れ、湯の滝のようにオレの肌に降り注ぐ。
 オレの中にある辰哉から情熱という名の熱が伝わって、火傷しそうに熱い。
「あ、熱いよ、辰哉……」
「おまえの中だって熱い、まるで燃えているみたいだ」
 恥ずかしげもなくそんなセリフを口にする辰哉に「そっちが入れたせいだ」と悪態をつくと、返事の代わりにオレの身体をひっくり返してうつ伏せにさせた。
 背後からもう一度挿入し、ますます激しく腰を動かす辰哉、この「犯されてる感」が興奮を呼び起こしてたまらなくなる。
 しかも、ただでは済まさないとばかりに、ヤツは再度オレのものを握って、さっきよりも強く扱き始めた。
「あっ、ああっ、ひ、いっ」
 前と後ろと、ダブルで攻撃を受けて、自分が何を口走っているのか、わけがわからなくなってきた。
 与えられる刺激の凄さに痺れて、視界が利かなくなってくる。まるで津波のように、強く大きな快感が全身に押し寄せて、今にも気絶してしまいそうなほどだ。
「辰哉、タツヤぁぁー」
 長い髪を振り乱しながらオレが叫ぶと、辰哉もオレの名を何度も呼び、狂ったように喚いた。
 頭の中が真っ白になって、意識が遠のいてゆく。
 辰哉はオレの中で、オレは辰哉の掌の中で果て、どちらもそのまま気を失っていた。

    ◆    ◆    ◆

 その後、見事に復活した辰哉はそれから三回連続でオレに挑んできた。
 スリムな体型や上品なおぼっちゃま的ルックスからは想像がつかないタフさだ。見かけによらない絶倫ぶりは喜んでいいのかトホホ気分なのか、何だかわからない。
 考えてもみろよ、いくら溜めてたからって初めてのセックスで、トータルで四回だぜ、四回。
 あんな激しいやつを続けざまにヤッたんだから、もうフラフラ。アソコはひりひりして痛いし、一歩も歩けやしない。
 それにしても、二人して叫ぶわ喚くわ、ベッドはギシギシいわせるわで、誰も寮の部屋にいない昼間で助かったよな。
 夜中にこんなマネしたら苦情が殺到すること間違いなし。しかも男同士だ、とても大学にはいられなくなる。
 ベッドの上でぐったりとしているオレに腕枕をして、汗で濡れた髪を撫でていた辰哉はふいに「さっきから考えていたんだけど」と切り出した。
「考えていたって何を?」
「今は同じ部屋にいるから、おまえとずっとこうやっていられるけど、家に戻ったらどうなるかなって」
「そりゃあキビしいわな」
 オレは努めてさらりと答えた。
 辰哉の言いたいことはわかっている。寮の取り壊しによってヤツは実家に帰り、オレはアパートに逆戻りしてハードなバイト生活、セックス連続四回なんて悠長なことはしていられない。
「おまえと触れ合うことができないなんて、そんなの耐えられない」
 禁断の蜜の味を覚えてしまった男はオレと離れられなくなったみたいだけど、
「いいじゃねーか、週に何回か泊まりにくりゃ。一応、男友達のところに泊まるんだから文句は言われないだろ」
「それ以上に、おまえの身体が心配だ。またバイトを増やすことになるだろうし、何かあったとき俺がついていなかったら……」
 そこでオレはヤツの手の甲を軽くつねってやった。
「おまえさー、オレが病みあがりだってわかって言ってる? 身体の調子とか健康状態の心配をするなら、エッチを控えろよ。四回もヤッたんだからな」
 その言葉を聞いて苦笑したあと、辰哉は「決めた。おまえと一緒に、アパートに住む」と言い出した。
「はあ?」
「だから、俺と二人でアパートを借りて、同棲するんだ。そうすれば住居費はそんなにかからない」
「そりゃそうだけど、寮の一件は特別だったんだし、充分通える距離に自宅があるのに許してもらえるわけねーだろ」
 何とかすると辰哉は言い切った。
「俺はこれまで祖母の想い出を言い訳にして甘えていた。渡された金を自由に使って、祖父の言いなりになって行動することはある意味、楽な生き方だったんだ。でも、もう違う。頑張って、自分で道を切り開きたい。バイトでも何でもやって、おまえを守っていきたいんだ。そしていつか、あの絵の代金を祖父に返そうと思っている」
「ふーん。その意気込みはいいけどさ、オレを守るだなんて、大きくかましてくれたじゃねーか」
 背中がこそばゆくなるほど恥ずかしいセリフを口にする辰哉に、照れ臭くて、本当はとっても嬉しくて。
 それでもおとなしく聞いてはいられない、何かしら余計なことを言ってしまうオレは「おまえの方こそ、オレの世話になるのはわかりきってんだぜ。洗濯機の使い方も知らなかったくせに」と切り返してやった。
 すると辰哉は神妙な顔をした。
「それはまた……お世話になります」

    ◆    ◆    ◆

〈追伸〉
 辰哉の課題の絵、ついに完成。
 タイトルは『俺のマブダチ』じゃなくて『ムーンライトダンス』。
 背景をちゃっかりと濃紺色で塗って、月と星まで散らしているけど、考える人もどきだぜ、どう見ても踊ってるポーズじゃない。
 教授に何て説明するんだよ、オレは知らねーぞっ。

                                  おわり