第四章 雪の一夜
リフト小屋の扉を開け、中に滑り込んだ二人はホッと息をついた。
小屋は三畳ほどの広さで、中央部にリフトの機械がデンと鎮座しているが、もちろん今は電源が切られて静まり返っていた。部屋の片隅には係員が休憩をとる場所として、ちゃちな作りのテーブルと椅子があるだけで、暖が取れるようなものは何もない。それでも雪が吹きすさぶ屋外よりは極楽だ。
照明をつけると、梓海は壁際の収納庫へと近づき、そこから毛布や使い捨てカイロ、ペットボトルの水、非常食を取り出してきた。五年間保存可能というビスケットを手渡された航は昼に平山たちとラーメンを食べてからは何も口にしていなかったことに気づいた。
「ありがとう」
「これでも何もないよりマシだから」
ビスケットをかじったあと、梓海は再び携帯電話をかけ始めた。しばらくのちにようやく繋がったようで、色めき立った彼は手短に状況を説明したが、
「……そうですか、わかりました。ええ、何とか頑張ってみます」
そう答えると、落胆した面持ちで会話を打ち切った。
「どうだった?」
「オーナーが警察へ連絡したけれど、吹雪が凄くて二次災害の恐れがあるから、今は捜索隊が出せないと言われたらしい。雪がやみ次第救助に向かうから、それまでこらえてくれってこと」
航一人では心配だが梓海が一緒なので、しばらくの間は大丈夫ではと踏んだのだろう。
「そんな……」
「このぶんだと明け方には収まると思う。山の天気の状況はだいたいわかるんだ。そうなると、あと十時間ほどだし、我慢できない時間じゃないし」
そう言われると、何とかなりそうな気がしてきた。指先もつま先も凍ってしまったかのように冷たかったが、カイロをこすり合わせて温もりを保つ。
二人は毛布を被って身を寄せ合った。触れた肩から温もりが伝わってくると、堪え切れない昂りを感じた航はとうとう「……あの晩」と、ずっと訊きたかったことを言葉にした。
「え?」
「最初に泊まった日だよ。どういうつもりでキスなんかしてきたんだ?」
梓海はククと静かに笑った。
「一目惚れ、って言ったら信じる?」
「まさか、嘘だろ」
「本当さ」
航の頬に手を伸ばしたあと、梓海が唇に触れてきた。舌を絡められて、息が詰まるほどだ。
「……ゲイ、なのか?」
「さあね。でも、キミに本気なのは確かだよ」
航の下半身に手を伸ばすと、梓海は熱く、固くなった部分をスキーウェアの上からさするように撫でた。
「欲しいんだ、いいよね」
「それって……何を」
凍りつくほど寒いはずなのに、全身がカアッと火照ってきた。
身体を屈めた梓海は航のウェアのジッパーを下ろすと、勃起したペニスを口に含んでフェラチオを始めた。途端に、これまで感じたことのない快感が航の背中を貫いた。
「あっ、うっ……わぁぁ」
悦びとも喚きともつかない叫びが口をついて出る。玲華が最初の女ではなく何人か経験してきたが、こんなふうにされたのは初めてだった。
あっという間に果てた航を容赦なく再び勃たせた梓海は「今度はこっち」と言いながら、背中を向けて自分のジッパーを下げ、その真っ白な素肌が目に入ると、航は鼻血が出たのではと、思わず鼻を押さえた。
だが、興奮して身体が火照っていたとしても、気温が氷点下の建物内で全裸になるのは無謀である。梓海は己の臀部のみを出すと、秘孔に航を導いた。
「ここに……入れて」
男同士のセックスがどういうふうに行なわれるのかは知っているが、実際に行為をするのは初めてだ。恐る恐る差し入れると、吸い付くような感触に包まれた。
「う……」
玲華たちとは比べものにならない、極上を感じる。梓海も上ずった声で「ああ、イイ。大きくて太くて……凄くイイね」と漏らした。
「大丈夫、ボクが動くからそのままでいて」
航の上に跨るようにすると、梓海は自分のペニスを扱きながら腰を使い始めた。
「はっ、はあ……あぁ」
「イイよ、イイ。もっと、もっと欲しい」
梓海は貪欲に航を求め続けた。何度も絶頂を迎えては再び彼に跨る。ずっと我慢をしていた、それが堰を切ったように溢れ出した、そんな感じだった。
互いに精根尽き果てた、と思っても、暫くすると甦る。そんなことを繰り返しているうちに空が白み始めた。
◆ ◆ ◆
山岳救助隊によって最寄りの病院に運び込まれた航だが、足首の捻挫以外は異常がなく、里中オーナーの好意でもう一泊したあとは東京へと戻った。
梓海は見送りに出てこなかった。
やがて雪解けの季節になり、今年度のスキーシーズンは終わりを迎えた。
……⑤に続く