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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

蒼い夜 S-Ver. ⑦

    Ⅶ

 一眞が通う大学は都市部から少し離れた山の斜面を利用した場所にあり、キャンパス内にはそれぞれの学部の校舎や施設があちらこちらに点在していて、その面積はかなりの広さである。

 天気が良ければ豊かな緑が映えて清々しい光景なのだが、この曇り空ではいまひとつといったところか。

 本日履修している講義はすべて終了、やれやれ終わったと開放感に浸りながら机の上を片付けていると、後ろの席から水島が話しかけてきた。

 この水島の他に金田、土屋、そこに一眞を加えた四人は同じクラスの気の合う仲間であり、大抵の場合、つるんで一緒に行動しているのだ。

「高宮、合コン行かない? 短大のコたちなんだけど、向こうは四人くるっていうから、こっちも人数揃えたくてさ。ウチのクラスの中じゃ、オレの次ぐらいにイイ男のおまえがくると、こちら側のレベルアップにもつながるし。暇だったら頼むよ」

 一眞の人生二十年、これまでの彼は決して同性にしか興味のない男だったわけではない。初恋は小学校六年の時、隣のクラスの女の子だったし、仲間同士の付き合いとはいえ、今までにも水島が持ちかけてきた合コンに何度か参加している。

 そんな一眞が同性愛の世界に足を踏み入れたのはひとえに健児に出会ったせい、さらには愁とも関係を結んでしまったが、だからといって仲間の誰かに特別な感情を抱くなんてことは絶対にないし、それはあくまでも友情の枠を越えるものではなかった。

 このあとはバイトの予定が入っている、何と返事をしようかと考えあぐねていると、水島の肩越しに金田がひょっこりと顔をのぞかせていきなり質問した。

「今日は横浜には行かなくていいのか?」

「えっ、な、何を急に……」

「ネタはあがってるんだ、観念しろ! なーんて、な。そんなに隠さなくたっていいんだぜ、あっちに彼女がいるんだろ」

 うろたえる一眞を見て金田がニヤニヤと笑うと、そのあとを水島が受けて話を続けた。

「おまえが土曜日にときどき横浜に通ってることぐらい、オレたち三人はとっくにお見通しだって。まあ、高宮に彼女がいない方がおかしいよな」

「そうそう。おまえって母性本能をくすぐるタイプとかで、けっこう人気あるんだぜ。知らなかっただろう」

「年上受けするんじゃないのか。とにかく、コンパには参加できなきゃできないで、全然気にすることないし、オレたちに遠慮はいらないから、なあ」

 水島が同意を求めると、そうだそうだと金田もうなずいた。

「それより彼女ってどんなコ? 大学生? それとも社会人? 一度紹介しろよ、みんなも会ってみたいって。せめて写真ぐらい見せてくれよ」

 紹介しようにも別れてしまったし、写真は持っているが見せられるはずはない。そこに写っているのは男……

 人間誰しも人には言えない秘密のひとつやふたつは抱えているものだが、一眞の秘密はあまりにも重過ぎる。

 万が一、それがバレてしまったら、とんだホモ野郎呼ばわりされるだろうし、そんな奴とは関わりたくないと思った仲間たちは瞬く間に彼の元から逃げ去るに違いない。残り二年の学生生活、絶対にバラすわけにはいかないのだ。

「まあまあ、いくらボクたちの中で彼女がいるのは一人だけだからって、高宮くんを集中攻撃する、なんてことはやめましょうよ」

 いつも丁寧な言葉遣いでおっとりと話す土屋がそう言って取り成した。

 それから彼は一眞に「で、その方は何というお名前ですか?」などと、ちゃっかり訊いてきた。

 別れたくせにメールをよこす、ふざけた『元彼女』のことなんて、今は考えたくもない。

 一眞はその代わりに思い浮かべた人物の名前をもじって「シュ、シュウコ」と咄嗟に答えてしまった。

「シュウコちゃんっていうの、変わった名前だね」

「美人なの? あんまり面食いじゃない高宮の趣味からいくと、どうかなあ。ほら、この前の合コンのとき、あのコがいいって言った相手がさ……」

「金田くん、それはシュウコさんに対して大変失礼な言い方ですよ。訂正してください」

「はーい、申し訳ありませーん」

 三人は謎の女性、シュウコを肴にすっかり盛り上がっている。

(美人、かあ。キレイはキレイだよな、美人じゃなくて美男の方だけど)

 一眞は男の目から見てもうっとりするほどの愁の姿を思い浮かべた。

 そんな彼からの告白を受けたこと、横浜の一流ホテルの一室で夜景を眺めながら、という、ドラマのワンシーンのようなシチュエーションは男の身でありながら、まるで昼メロのヒロインになったような展開だった。

 そして、見た目からは想像もつかない力強さで自分を抱いた愁……

 思わず顔を赤くすると、こいつ、何を赤くなっているんだと、みんなにからかわれてしまった。

「シュウコちゃんのこと考えていたな、ヤなヤツ」

「はいはい、ごちそうさま。こうなったら合コンにはオレたちだけで行くから、おまえは心置きなく彼女とデートしてこいよ」

「それでしたら、ウチのサークルの大地くんを誘ってみましょうか。彼は暇そうですし、これで四人揃いますよ」

 けっきょく一眞はバイトに行くので参加出来ないとは言い出せないまま、仲間たちと別れる羽目になった。

                                 ……⑧に続く