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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑧ ※18禁1🔞

    第八章  衝撃の展開

 ほこら小屋へ一足先に到着した俺は無人だと思い込んでいたその場所に、人の気配を感じて足を止めた。

 こんな時刻に、俺たち以外にこの櫛形山山中をうろうろしている人物がいるなんて、もしやお宝探検隊のメンバーの誰かだろうか?

 それならば安心だが、見知らぬ人、得体の知れない連中だとしたら、声をかけるのはどうか、不安でもある。

 とにかく様子を見ようとこっそり覗くと、気配の正体はなんと、あのシカさんチームの二人、松本さんと岩田さんだった。自分たちで持参したらしいガス・ランタンが彼らの姿を赤々と照らしていたために、そうと確認出来たのだ。

 知り合いとわかってホッと胸を撫で下ろしたものの、肩を寄せ合って仲睦まじく語り合う二人の前に「今晩は」などと言って、のこのこ顔を出すわけにもいかず、俺はその場に隠れて彼らを見守ることにした。

 いや、本当は彼らを取り巻く雰囲気に対して胸騒ぎを感じていたのだ。それは仲間というよりも、もっと親密な、そう、恋人同士のようなムードが漂っていたからで、お互いの髪などに触れて、イチャイチャとじゃれあっていた二人はやがて抱き合い、なんとキスを始めたのだが、その衝撃的な場面展開に俺は愕然とした。腰が砕け、膝がガクガクして止まらない。喉はカラカラに渇ききっていた。

 初対面だった彼らがそういう関係になるなんて、コンビを組んで数日間行動を共にしているうちに、相手に愛情を感じるようになったということなのだろう。もっとも、太助を意識している俺に二人の関係をとやかく言う筋合いはない。

 見てはならないシーンを見てしまった、彼らのプライベートに立ち入るようで、早くこの場を立ち去らなくてはと思うけど、そんな焦りとは裏腹に、俺の目は二人の美青年に釘付けだった。

 長いキスのあと再び見つめ合うと、岩田さんが松本さんの身体を抱きしめたまま下に横たえ、のしかかるようにして首筋に顔を埋めながら相手のシャツをたくしあげた。それから露になった肌に触れ、唇を這わせると松本さんは歓喜の声を上げた。

「あっ、ああ……もっと、もっと」

 俺はごくりとつばを飲み込んだ。鼓動がとんでもなく早くなっているのがわかる。男女ならともかく、男同士のソレを目の当たりにしてこんなにも興奮するなんて、完全にそっちのケに目覚めてしまったようだ。

 二人の行為は激しさを増してきて、とうとう下の服を脱いだ岩田さんの手が松本さんの股間に、そして岩田さん自身はあの部分を松本さんの臀部にぴったりとくっつけている。

 これが男と男の……ってやつか。実際に目にしたのはもちろん初めてだ。岩田さんが腰を動かす度に、松本さんの歓びがこだまする。

 あんなところに入れられて、そんなに気持ちがいいものなのか、俺には想像もつかないが、同性愛が廃れないところを見ると、それなりにいいのだろう。

 一方の岩田さんも恍惚とした表情をして、相手の耳元に何やらささやいているが、俺のいる位置までは聞こえてこない。こちらの快感の方がまだわかりそうな気がして、それはどんな感触なのだろうかと考えを巡らせてみる。

 青春とは程遠い高校生活でも、身体はそれなりに成長している。エロビデオを見せられたのも同様の状態の中、俺自身の部分も反応していることに気づくと、顔がカアッと熱くなった。

 どちらかといえば淡泊で、女相手ですら望んだためしはなかったのに、男とヤッてみたいだなんて、何て不届きな。しかし、目覚めてしまったものはどうしようもない。

「なに出歯亀やってるの?」

 背後からの問いかけに、俺の肝はキュンと縮み上がった。

 それは当然ながら追いついてきた太助の声で、到着してみれば相棒が男と男のナニを覗き見しているという、とんでもないシーンに出くわしたわけだ。

「えっ、それは、その……」

 ヘタな言い訳が通用する場面じゃない。冷静沈着、クールさが売り物の俺らしくもなく取り乱す様子を見た太助は俺の腕につかまるようにして身を乗り出すと、向こうの二人を眺めて驚嘆した。

「うわあ、スゴイ。かなり激しいね」

 太助のコメントはそれが男同士であることに対する抵抗や、嫌悪を匂わせる感じはしなかった。むしろ興奮し、はしゃいでいるように見えた。

 この反応、いったいどういうつもりだろう? もしや……俺は太助の表情から目が離せなくなっていた。

 俺の方は昨日から、いや、本当はずっと前から意識しまくりだが、太助もまた、俺に好意を抱いているのではないか。希望的観測ではない、はっきり言い切れるのでもないけれど、何となく自信があった。

 すると太助は腕をつかむ手に力を込めて「謙信もしてみたい? オレ、相手するよ」とささやいた。

「なっ……!」

 いったい何を言ってくれるのか。思わず絶句してしまったが、あちらの男男カップルが醸し出す妖しい雰囲気にすっかり酔いしれていた俺の下の部分、男の象徴はビンビンに張り詰めて、解放される時を待っている。

 ましてや、惚れた相手からの申し出だ。初体験を野外で、とは、いささか戸惑う部分もあるけれど、誘惑を振り切って、この絶好のチャンスを断るなんて出来やしない。

 こちらの反応をチラリと見て、指を絡めてきた太助はまるで可愛い小悪魔だった。

「聞こえるとマズイから、あっちの方へ行こうよ」

 そっとそこを離れると、少し先の草叢へと入り込んだ太助はザックを下ろし、断熱シートを敷いた。次に、ぼんやりと立ちすくむ俺の背中から荷物を取り払い、腕を引っ張ってその場に座らせた。

「恥ずかしくないよ、お月さまが見ているだけだから」

 これは夢、それとも幻覚? 俺たちは抱き合い、唇を重ねた。レモンの味がするというのは嘘だ、それは何ともいえない甘美な味、太助の柔らかい唇に、そして舌に、全身がとろかされてゆく。

 やがてシートの上に横たわり、シャツをはだけて互いの肌に触れ合う二人、太助の白い肌は暗がりの中、まるで月見草のようにうっすらと浮かび上がった。

「謙信が触ったところ、電流が走ったみたいにピリピリするよ。どうしよう、ドキドキしちゃってとまらない」

 月明かりの下でも、彼の潤んだ瞳が訴えかけてくるのがわかる。

 俺は震える手でジッパーを下ろした。それから相手の手招きに導かれるままに挿入、俺が中に入ったとたんに、太助は身をよじり、「ああっ」と切ない声を出した。

 その暖かい肉壁にじわりと圧迫された棹から言いようのない快感が伝わってくると、俺の頭の中は次第に真っ白になり、恥ずかしいとか不届き、不道徳などといった、余計なことは何も考えられなくなった。

 自慰では得られない感触、さらなる快楽を求めて、俺はさっきの二人の光景を思い出しながら腰を動かしてみた。

「あっ、いっ、いい……」

 太助にとっても俺の行為は相当の快感、やはり気持ちがいいらしい。もっともっと、とせがんでくるのだが、何しろ初めてとあって、限界はすぐそこまできていた。

 気づいた時にはすっかり到達してしまい、トロリとした液体が二人の肌を伝って、シートの上に液溜まりを作っている。そのきまりの悪さに俺は太助の身体から離れると、何事もなかったかのようにズボンを上げ、服のボタンをかけ始めた。

 すると、さっさと終わってしまった相手に対して不満をぶつけるでもなく、太助は身体を起こして俺にハンディティッシュのひとつを手渡したあと、自分も同じものでシートを拭いて後始末をした。

 どうしてそんなに平然としていられるのか。普通ならそんなものを入れるはずのないところに入れたのだから、最初は痛くて当然だと思うけれど、痛みをこらえている様子はなく、それどころか初めから、そしてコトの最中もかなり歓びを感じていたようだった。

 さっきの誘い方といい、今の対応といい、ずいぶんと要領よく手慣れている。男同士の行為に慣れているなんて、タダゴトではないと考えて当たり前だろう。

 俺よりもずっと前に、太助と深い仲になったヤツがいる。それも一人ではない、複数いると踏んだ。

 好きになった相手が多くの男と関係を結んでいたらしい、と感じ取った俺は愚かにも太助の過去に嫉妬心を抱いたのだった。

「……おまえ、初めてじゃないよな」

 自分の中に押しとどめておくことが出来ずにいた俺がその疑問を口にしてしまうと、それを聞いた太助は身体をビクンッと震わせた。

「元々そういう趣味があったってわけか。それにしても相当の人数をこなしていないと、ここまでは出来ないと思うけどな」

 そんなに責める気はなかったのだけれど、口調がついつい嫌味っぽくなる。

 無慈悲な言葉と意地の悪い視線を浴びた太助は観念したらしく、「そうだよ」と答えた。

「何人と寝たかなんて、自分でもわからないよ。でもそれは生きていくために仕方なかったんだ」

「生きていくため、だと?」

 こちらを見た太助の表情は固くこわばり、いつものような穏やかさは消え失せていた。

「オレ、身体売ってたんだよ。男娼ってやつ」

「えっ……」

 思いもよらない事実、衝撃の告白に俺は息を呑んだ。太助がこれまでの仕事のことを語りたがらなかったのはそのせいだった。

「家を出たのはいいけど、学歴も特技もないオレにちゃんとした仕事なんてないし、前に謙信が言ったように、工事現場も滅多にお呼びがかからない。それで、食うのに困っていたら、繁華街でそっち方面の人に誘われて、そういうことになっちゃって」

 太助の容姿ならば、ゲイに目をつけられるのも無理はない。金のため、生活のために我慢を重ねているうちに、そういう行為が身に染みついてしまったのか。

 涙が枯れるほど泣いたと話していた、どんなにか辛い思いをしていただろうに、受けたショックの大きさのあまり、俺はとんでもないことを口走った。

「じゃあ、今ここで俺を誘ったのも、その目的があったわけだな。はい、一回寝ていくら、なんて請求する気でいたんだろう」

 違う、そんなことを言うつもりじゃない。それなのに俺の唇は次から次へと、太助を侮辱する言葉を投げつけた。

「ところがこっちはあいにく持ち合わせがない、ときた。もっと金を持ってるヤツとコンビになれば良かったのに、残念だったな」

「そんな、お金なんて……」

 首を横に振り、かすれ声でそう答えた太助の目から涙が溢れそうになったが、彼は決して泣くまいと歯を食いしばっていた。

「オレ、謙信のこと好きだもん。謙信とそういうふうになれたらいいな、ってずっとずっと思ってた。これまでのセックスは生きていくために仕方なく、だったけれど、自分から好きになった人に抱かれるのって初めてだから、とっても嬉しかった」

 崩れそうになりながらも必死で自分を支えようとする太助、小柄な彼の身体がいっそう小さく見えた。

「でも、あの二人を見て動揺していた謙信に付け込んだだけの、オレの気持ちなんて迷惑だよね。ゴメン、本当にゴメンね」

 声を震わせ、後ずさりした太助はふいに後ろを向くと、一目散に走り出した。

「まっ、待てよ!」

 そう叫ぼうとしたが声にならずに、立ちすくんだ俺は太助が走り去った方向を呆然と眺めていた。

 何ということをしてしまったのか、押し寄せる後悔、悔やんでも悔やみ切れない。

 俺を好きだと言ってくれた太助、俺だっておまえが好きなんだ。なのに、それを認めようとしないどころか、こんな形で傷つけてしまって、もう取り返しはつかない。

 それでもいい、早く追いかけて、連れ戻して詫びるべきだ。そうは思っても俺の足は一向に動く気配はなかった。目の前に広がる暗闇がその決意を鈍らせていた。

 月明かりと懐中電灯だけが頼りの山中で動き回るなんて、命知らずのやること。それに二人分のザックを抱えて、となればなおさらだ。山を知る者はもちろん、素人の俺にだって、その危険性は十分わかっているし、擦れ違いを避けるためにも、片方は動き回らない方がいい。

 太助が無事に戻ってきてくれることを祈りながら、俺はその場にとどまった。大きな木の根元でシュラフを広げ、幹に頭を預けて夜空を眺めていると、夜風が梢をさわさわと揺らす。

 まんじりとしないまま、夜が明けた。

                                 ……⑨に続く