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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

Mushroom boyに囚われて ⑥

    第六章  合コン騒動

 新入社員教育が行なわれている六階の大会議室。

 そこにいわば『軟禁状態』になっている新入社員たちが階下へ下りる機会は稀であり、一部のお調子者が業務課の講師たちの元へ御機嫌伺いに訪れる程度だ。

 社員食堂はないので昼食は弁当を持参するか、外へランチを食べに行くことになるのだが、その際も階段やエレベーターで直接下りるので、他の社員と接する機会はない。

 先輩社員たちとしては教育担当者に聞き込みをするしか、新人に関する情報を得る方法はないが、今年入社した飛び切りの美人、人気モデルにそっくりだと評判の露土美咲に関しての問い合わせは入社直後から最も多く、同期から先輩・後輩に至るまで、あらゆる若い男たちが暇をみて業務課にやって来ては、僕らに攻勢をかけた。

 どこに住んでいるのか、家族構成は、彼氏はいるのか、どういう男がタイプなのか、趣味は、スリーサイズは……エトセトラ。

「個人情報の漏洩になる質問にはお答えできませんから……そんな、いくらなんでもプライベートなことまで知らないわよ、ねえ」

 憤慨した様子の森下さんが僕に同意を求める。

 成海との関係はまだ秘密のまま、誰にも広まってはいないようだが、敢えて公表する必要もないと黙っていた。

 しかし、あれほどの美人に彼氏がいないはずはないと納得する一方で、モーションをかけようと企む輩もいて、僕たちとしては大変迷惑な存在だった。

「なあ来宮、頼むよ。彼女を誘って、合コン計画してくれよ」

 そう持ちかけてきたのは僕と同期の開発部の連中で、どうみても女に縁のない、パッとしない男ばかりである。大して親しくもないくせに、こんな時だけ頼ってくるとは不愉快極まりないヤツらだ。

 こちらは男三人、僕が加われば四人。対するは新人女子三人、もっとも、彼らのお目当てはモデル嬢もどきだけで、ついでに誘われるあとの二人が気の毒だと思ったが、それ以上に、露土美咲と酒の席へ御一緒にというのは勘弁して欲しかった。

 彼女の怖い正体を知らないから、アイドルだの、憧れだの何だのと持ち上げていられるのだ。美女が鬼女に変貌した、決して忘れることのできない恐ろしい光景。僕にとっては二度と接触したくない相手だ。

 それに、彼女には誰も太刀打ちできない頭脳明晰・容姿端麗のカレシがついているのだから、合コンなんぞ無駄なあがきだ。やめておいた方がいい。

「僕はそういうの苦手だし……」

 僕が乗り気でないと見た彼らは矛先を森下さんに向けた。

「それじゃあ森下さん、お願いしますよ。女の先輩がいた方が彼女も参加しやすいでしょうし、ねっ?」

「まったく、しょうがないわね」

 同期の仲間たちの熱意に、とうとう折れた森下さんは合コンの手配を彼らに約束したが、そこまではいい。

 どうぞ御勝手に、のはずだったのが、三対四で人数のバランスが悪いからと、僕にも参加を要請したのだ。

「だ、だったら、椎名に代わってもらうよ」

 宴会の幹事には打ってつけのタイプの彼に相談すれば、この役どころを引き受けてくれるかも。

 ところが森下さんは「いいえ」と大きくかぶりを振った。

「たしかに椎名くんは宴会男だけど、今回は教育担当の男性代表としての参加だから」

「それじゃあ富山さんは?」

「先輩よりも同期、男女共通の知り合いの方がいいわよ、絶対」

 そんなぁ、と僕は途方に暮れてしまった。

 こうなったら新人三人が誘いを断ってくれればいい。

 あとはそこに賭けるしかないが、僕の意に反して、彼女たちは先輩社員との合コンのお誘いを承諾したのである。

 そして翌日の退社後、平日にも関わらず、気乗りしない僕の心情を無視して合コン計画は実行に移された。

 場所はこれまた横浜駅近く──帰宅手段を考慮すると、ターミナル駅である横浜を選ぶのはもっともだが──南洋風料理とトロピカルムードが売りとされているポリネシアンバーで、ここはかつて自分が新人の時に総務部で歓迎会をやってもらった店だと森下さんは説明した。

「第三開発課と合同だったから、榎並さんや宴会男椎名もいたのよ。あ、やっと来た」

 同期の三人がアホ面を提げて来るのが見えた。美女と御対面とあって、嬉しくて仕方ないのだろう。すっかり脂下がっているあたりが忘年会でコンパニオンを用意させた中年のオッサンのようで見苦しい。

「よう、教育担当のお二方、幹事御苦労様」

 バカにしている、そう思ったが黙って立っていると、少し遅れて新人たちが到着した。

「すいませぇん、時間があったんで、ちょっとお茶してたんですぅ」

 媚を売るような仕草で露土が言い訳をするが、僕の姿なんぞ目に入らないという態度がありありと見えた。こちらとしては目に入れてもらわない方が気楽でいいけれど。

 今日のファッションは白いワンピースにラベンダーカラーのジャケットで、清純派を強調、演出している。白いバッグに同色のパンプス、ネイルカラーはピンクとおとなしめ。

『これカワイイ♡の決定版! カレにアピールする春色モテ服』といったキャッチコピーでファッション誌に紹介されているような格好だが、成海というカレシのいる女がこんな中年オヤジ系を相手に、そこまで気合を入れるものなのかと呆れた。

「揃ったわね。じゃあ、中に入りましょう」

 先に予約を入れておいたという森下さんがウェイターにその旨を告げ、総勢八名は案内されて奥の座席に着いた。

 マホガニーで作られた暖かみのあるテーブルと椅子、天井にはなぜか魚網が吊られていて、そこにブーゲンビリアの枝が絡み、ショッキングピンクの花をつけている。コンクリートの壁には海や魚、太陽などをモチーフにした絵が描かれ、電球色の灯りに混じって赤や青のライトがそれらを照らして幻想的なムードを漂わす。

 隣の席との間には籐製の衝立、その付近にゴムの木やら椰子の仲間らしき植物やら、ハイビスカスの鉢を配置して、いかにも南国の雰囲気が演出されていた。

 こんなにも変わった店に入るのは初めてだ。キョロキョロしながら座る僕の右隣に男三人が並び、僕の向かいには森下さん、露土美咲を真ん中に挟むようにして、新人女子が腰を下ろした。

「えーっ、何かおもしろーい」

「すっごーい、カワイイお店!」

 こういうノリの店がカワイイとは言わないだろうにと、僕は内心舌打ちした。何にでもカワイイという形容詞をつけたがる、この年頃の女たちにはうんざりする。

 僕と同感だったのか、いくらか苦笑した様子の森下さんが「それじゃあ、自己紹介していきましょうか。それとも他己紹介がいいかしら?」と提案したため、それで失敗した講師は苦い思いを蘇らす羽目になった。そいつだけは勘弁して欲しい……

「あー、オレたちから名乗るよ」

 三人組は順番にそれぞれの名前、どの開発課に所属しているかなどを話し、それが終わると、森下さんは自分の左隣に座った女性から紹介を始めた。

「こちらは浅田由梨(あさだ ゆり)さん。総務課の浅田淑恵さんの姪にあたるんですって。入社式の日に聞いて初めて知ったのよ。私が新人のときは浅田さんに随分とお世話になったわ」

 浅田淑恵さんは独身生活を謳歌する、入社十八年目のベテラン女子社員である。

「ええっ、あのお局の?」

 そう言いかけて、男たちは慌てて口を押さえ、どうか今の発言は本人には内緒にしてくれと頼み、彼らの様子に由梨さんは困ったような笑顔で「はい」と答えた。

 次は露土美咲の番だが、森下さんなりの配慮で、先と同じ調子で説明したものの、男たちの目の色が変わったために、評判の美人とお近づきになりたいという、今夜の彼らの目的が露呈してしまった。

 いや、この席に着いた時点で、その時の態度や雰囲気でわかっていたと思われるが、ついでに誘われた二人はさほどイヤそうな顔もせずにいた。引き立て役という立場に慣れてしまったのかもしれない。

 三人目の新人は近江紗弥加(おうみ さやか)さんといい、これまた総務課の、美人の上に巨乳で有名な近江瑤子さんの妹だと知って、男たちはたまげてしまったようだ。

「……妹にしちゃあ、巨乳じゃないよな」

「顔もイマイチだし」

 女の子を品定めして、文句をつける資格なんて、おまえらみたいなダサいヤツにあるわけないだろ! 

 女たちには聞こえないように、さっきから失礼な言葉を囁き合う男連中に憤慨しながら、僕は黙りこくったまま、目の前に置かれたコースターを手慰みにしていた。

 やっぱりこういう席は苦手だ。何とか理由をつけてパスするべきだったと思うが、今さらどうしようもない。

 やがてビールの入ったジョッキと料理が運ばれてきて、それなりに和やかなムードで宴が始まった。

 とりあえずは当たり障りのないネタで会話が進み、そのうちに社内の出来事や噂話へと話題が移ると、先輩社員たちは俄然、調子が出てきた。

 第四開発課の課長にカツラ疑惑が浮上している、といった内容はともかく、誰と誰がつき合っているとかデキているとか、場が盛り上がるのはそういうネタに限る。

 第三開発課事務担当の藤沢さんを巡って三角関係どころか五角関係が生じているという話になると、初耳だったらしい森下さんまでが「ええーっ、そうなの?」と身を乗り出したが、そのテの噂話にはてんで疎い僕はまったくの蚊帳の外で、例によってビールをちびちび飲みながら、イカのココナッツ焼をつついていた。

 あーあ、もう帰りたいな。眠くなってきたよ。せめて富山さんがいてくれたらなぁ。

 不破との騒ぎは大変だったけど、この前の宴会の方がずっと楽しかった。それに、あの時は成海もいて……

 ハッとして僕は思わず首を横に振った。またしてもつまらないことを考えてしまった。あんなにもイヤな思いをしたくせに、どうして懲りないのかと反省する。

『誰それと誰それはデキている。それじゃあキミたちはどう、彼氏はいるのかな?』

 そういう手順で話を持っていくのは常套手段。

 飢えた男共が女性たちの男性関係に探りを入れ始めると、三人は顔を見合わせて「ええっ? うふふ」と含み笑いをした。

「一応、おつき合いしてる人はいますけど」

 正直に答える由梨さんを露土が片肘でつつく。嘘でもいいから、彼らに気を持たせろという合図らしい。

 恋人がいるくせに、成海につきまとっていたのかと、おとなしそうな顔をした女のしたたかさを目の当たりにした僕は呆気に取られてしまったが、露土の態度には呆れるを通り越して呆然とした。

「アタシはぁ、今フリーでぇす。カッコいい彼氏を募集中なんでヨロシクぅ」

 カッコいい彼氏募集中だと? 

「アタシのカレシにちょっかい出さないで」と凄んだのはどこのどいつだ、何てしらじらしい。

 同じテーブルに着くという難しい状況においても、絶対に彼女の方を見ないよう注意していたが、ついついそちらを見てしまった瞬間、目が合って心臓が凍りついた。

 フン、というセリフが聞こえてきそうなほどに、こちらを冷たく睨み返した彼女はそのまま僕を無視すると「皆さんは恋人いらっしゃるんですかぁ? 森下さんは? 富山さんが彼氏、なんて可能性アリですか?」などと、居並ぶ先輩に話を振って返した。

「えーっ、富山さんじゃないわよ」

 森下さんは笑って否定したが、そうと勝手に決めつけた後輩三人はきゃあきゃあ盛り上がった。

「富山さんって、元は第四開発課で、教育担当チームのリーダーだっけ?」

「オレたちの新人研修にも講師で来てたじゃねえか。ほら、去年本社に移った榎並さんとかと一緒に」

「三年も前のことなんか忘れちまったよ。なあ、来宮」

 ここにきて初めて話題を振られた僕は曖昧な返事をしたが、自分の存在こそがすっかり忘れられていたようで面白くなかった。

「榎並さん、貴公子って感じで、めっちゃカッコよかったよな」

 たしかに榎並さんは同じ第三開発課にいた吾妻さんと並んで、FSS二大イケメンとして話題を集めていた人物だが、それにしても、だ。

 恋愛体験は皆無、女心にも疎い僕だが、せっかく合コンにこぎつけたのに、イイ男の存在を話題にするというのはブ男たちにとって不利なのではないか、ということぐらいは察しがつく。

「そんなにカッコいい人がいたの?」

 露土は興味津々、榎並さんのことをもっと聞かせてくれとせがんでいる。

 そらみろ、彼女の関心はそちらにいってしまったじゃないか。

 にもかかわらず、頭の回転の鈍い一人が「そういや今年の新人にも、すっげえカッコいいヤツが一人いるだろ」などと言い出した。

 それが成海を指していると即座にわかる。またしても顔を見合わせた女三人は互いに目配せをすると、ニヤニヤと笑った。

「えー、成海くんって、たしかにカッコいいけどぉ、それを鼻にかけて気取っちゃって、感じ悪いんですよぅ」

「近寄り難いタイプよね」

「その辺の女は相手にしない、って雰囲気がするし」

「アタシはもっと親しみやすい人がいいなぁ。面白い人が好きなの」

 気取っていて感じが悪い、近寄り難いだと? 

 その辺の女は相手にしない? 

 本当にそうなのか。

 この前の打ち上げの席を見る限り、そういう素振りはなかった。成海が提供する話題に乗って、四人で楽しく盛り上がっていたではないか。

 彼女たちが何を考えているのか、さっぱりわからずに僕の頭は混乱した。

 由梨さんには彼氏がいるという話だし、紗弥加さんもはっきりとは言わなかったが、相手がいる可能性はある。

 それなのに、成海を巡って争奪戦を繰り広げたかと思えば、三人揃って彼を批判しているのはどういう心境なのか。複雑怪奇な女の思考にはついていけそうもない。

 しばらくして、やれフリータイムだ、席をシャッフルしようと誰かが言い出し、男女入り乱れた結果、僕は紗弥加さんの隣に座ることになった。

 派手で華やかな二人に比べて見劣りする紗弥加さんではあるが、三人の中では一番話しやすいタイプで、しかし、生来の口ベタとしては女性を相手に、何を話題にしたらいいのかわからずに焦る。

 そんな僕を気遣ってか、彼女の方から話題を持ちかけてきた。

「研修やっててどうですか? 今年の新人はうるさいとか、扱いにくいとかって、そういうのありませんか」

「いや、そんなことは……みんな僕の話をよく聞いてくれるし」

「来宮さんの説明、わかりやすくていいって評判ですよ」

 紗弥加さんはそう言ってこの講師を持ち上げてくれた。

 また、酒が入って舌が滑らかになっているせいか、異性関係も含めて新人たちに関する打ち明け話をあれこれと教えてくれたが、彼女も由梨さんも、成海と露土の関係には気づいていないようだった。

「成海くんが一番人気あるのかと思っていたけど、そうじゃないの?」

 ここぞとばかりに探りを入れる僕に、紗弥加さんが返した言葉は意外なものだった。

「ええ、そうなんですけど……これは本人からはっきりと聞いたわけじゃなくて、ワタシの直感なんですが、彼にはずっと片想いの人がいて、諦めきれないみたい。話をしていると、そういう雰囲気が伝わってくるんです。だから、さすがに美咲ちゃんでも……」

 チラリと向こうの露土を見やってから、彼女は小声で囁いた。

「アタックしても上手くいかなくて。肝心なところではぐらかされるっていうのかな、ちょっと苛立ってるみたいです」

 ここで噂されているとは思ってもいないのだろう、露土美咲は賑やかな笑い声を上げて盛り上がっている。

 ナンバーワン美女が口説いてもダメなら、他の女ではとても無理、みんなで他をあたろうというわけか。

 だが、彼女は僕に向かって成海がカレシだと断言したではないか、あれはハッタリだったというのか。よくわからない。

 それにしても、あの成海が片想いをしているとは信じられなかった。

 女の直感が必ずしもハズレてるとは思えず、もし当たりだとすると、露土の上をいく人物が存在して、彼を翻弄していることになるが、想像がつかない。

 そんな人、いるのかな? 

 まさか……とんでもない発想をしかけた次の瞬間、

「……なっ、そうだろ? こいつも何だか知らねえけど、色気づきやがってさ」

 突然、強い力で首根っこを押さえつけられたかと思うと、後ろへグイッ! と引っ張られ、背もたれに背中をぶつけてのけぞったとたんに、僕の『とんでもない発想』は消し飛んでしまった。

「なっ、何するんだよ!」

 隣席からの奇襲攻撃に思わず文句を言うと、森下さんたちがこちらを見てニヤニヤしている様子が目に入った。

「今、来宮くんの噂をしていたのよ。自分だけイイ男になってズルイ、って」

「何だよ、それ」という僕の抗議などおかまいなしに、男たちの攻撃は続く。

「そうだぜ、キノコかぶったような頭していたくせに」

「古臭い、変なメガネもかけてな」

 せっかくのエアリーヘアーがくしゃくしゃにされる。

「オレたち同期の中じゃ、いっちばんダサいヤツと思ってたのにさぁ」

「そう。こいつにだけは勝てるって自信あったのによ」

 ネクタイが引っ張られて、無理やり散歩させられる犬状態になる。

「オレも教育担当になればよかった」

「来宮の評判はどう?」

 そう訊かれて、露土は嘲るように答えた。

「さーあ。一部の男の子たちには大人気ですけどねぇ~」

「なっ、何だって?」

「ええーっ、マジかよ!」

 ドッカーン! ついにやられた、爆弾投下の瞬間だ。

 僕を取り巻くゲイ騒動が伝えられると、その場は騒然となった。

「前にもあったよなぁ。ほら、椎名がゲイだって噂された事件が」

「オレたちの同期って、こういうヤツが多いのかもな」

 酒が入っているから始末が悪い。さんざんからかわれ、肴にされた僕だが、その後さらに、間の悪い出来事が待ち受けていた。

 今夜の合コンはお開きとなり、単なる顔合わせに終わってしまった人々が店を出たところ、向こうからやって来るサラリーマンの集団に出くわした。

 それは何と、これまた平日にもかかわらず酒を飲みに横浜へ繰り出した、不破を始めとする新人たちの仲良しグループ──先日の飲み会を企画した、お酒大好き四人組──だったのだ。こちらの男女八名の姿を見咎めた彼らは往来で大声を上げた。

「あーっ、キノコちゃん!」

「露土さんたちじゃない、いったいどうなってるの?」

「森下さんもいる。これって、どういうメンバーですか?」

 よりにもよってこいつらに見られてしまうとは、バッドタイミングとはこういうものなのかと、僕は目眩をおぼえた。

 あちらの集団の中で、リーダー格の背の高い男が来宮さんのイイ人だと露土から教えられた三人組は「おおーっと、彼氏と御対面だ!」とはやし立て、僕を押しやった。

「せっかくだからそっちに参加しろよ」

「オレたちのことは気遣い無用な」

 ヘラヘラと笑う彼らをねめつけてみるものの、酔いと疲労で立っているのがやっと。

 支えてくれる不破に「ごめん」と告げると、彼は僕を安心させようとしてか「気にしなくてもいいですよ」と言ってくれた。

 無責任にも同期の仲間、つまり僕を放り出した三人は「さーて、これからカラオケでも行くか」と提案、その誘いに乗ったらしく露土のはしゃぐ声が聞こえてきた。

「奢りだったら行くーっ」

「みんなでパーッとやろうぜ。ねえ、森下さんも行こうよ」

「えっ、明日は休みじゃないのよ」

「いいから、いいから」

「ほら、由梨ちゃんも紗弥加ちゃんも行こ、行こ。ここから近いからさ」

 七人の姿が見えなくなると「何なんですか、あの集団は」と不破が尋ねた。

 説明する気力など、ほとんど残っていない僕だが、それでも合コンの経緯と一部始終を話して聞かせると、興和が面白くなさそうな顔をした。

「ふーん、新人の女の子と、ねえ」

「上の人たちって、そういうの狙ってるんですね」

「ま、まあ……女の人が少ない会社だからね、どうしても……」

 彼らの肩を持つつもりはないし、行きがかりで巻き込まれたのだから仕方ないのだが、セッティングした責任上、僕はそんな言い逃れをしてしまった。

 すると、今夜は帰る予定だった不破たちが合コン組に触発されたらしく、次に行こうと誘ってきた。

「ええっ、僕はもう飲めないよ」

 冗談じゃないと手を横に振って拒絶のポーズをとるが、解放してもらえる様子はない。

「だって来宮さん、この前のときも二次会に行かなかったじゃないっスか。てっきり来てくれると思ってたんですよ、オレ」

「ここで会ったが百年目。今夜は逃がしませんからね」

「ソフトドリンクでつき合ってくれればいいですよ、さあさあ、行きましょう」

                                ……⑦に続く