Welcome to MOUSOU World!

オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

   バンカラらぷそでぃ ⑩

    第十章  ミスコン終了 ―― それ、マジっスか?

 拍手に送られて十九番の人が階段を降りると、いよいよ俺たちの出番だ。舞台の上に緋毛氈が敷かれ、後ろの白いスクリーンには講義での難しい方程式に代わって、夜空と満月が映し出された。

 聖爾が頼んでくれたお蔭で、右の幕の裏に取り残されていた箏が毛氈の上に運び込まれ、俺がその前にゆっくりと座ると、客席からざわめきが聞こえてきた。続いて誠さんも俺の隣へ、司会者の声が大きく響き渡った。

「エントリーナンバー二十、応援団代表の綾辻美佐緒さんです。箏の演奏で、尺八での合奏者は土方誠さん、演目タイトルは『かぐや姫~運命の出会いと別れ~』です。拍手でお迎えください」

 え、演目タイトル? そのダサいサブタイトルは何? 出会いと別れだなんて、何だかこっ恥ずかしいような……聖爾が実行委員会に紹介原稿を提出したのだ。スタッフに演出を頼んでおいたと話していたから、この先も仕掛けがあるに違いない。

 そう思っていたら案の定、柔らかな女性の声で「今宵、満月のこの晩に……」というナレーションが始まった。

「帝に別れを告げて、かぐや姫は月へ戻らねばなりません。二人は最後の宴を過ごします」

 そのタイミングでスポットライトが点灯、淡い黄色の光が俺たちを照らすと、ざわめきは大きなどよめきと変わった。

「おい、ウチの学校にあんな美人いたか?」

「男だよ、男! 工学部の今年の一年だって」

「キレイだな、本物のかぐや姫みたいだ」

「優雅ね。それに帝サマもカッコイイ!」

 客席からの賞賛を浴びながら、俺はひたすらスクリーン裏の気配を窺っていた。聖爾は到着したのか、そろそろ始めないとマズイだろうに。ええい、こうなったらイチかバチかだ。

 俺は三の絃に左手の中指を置き、八と十の絃にそれぞれ爪を掛け、そんな俺の様子を横目で見ていた誠さんは急いで尺八を構えた。

 タン、タカタカタカタン……さっきの十七番と同じ春の海、これで尺八の音が出ずに二度も演奏失敗となれば、さらなるブーイングは免れない。頼む、間に合ってくれ……

 次の瞬間、まるでフルートのような高らかな音が響いた。柔らかく清々しく広がるその音はまさに春の長閑で穏やかな海、エメラルドグリーンの波に優しく包み込まれたような気分で、俺は箏を奏で続けた。

 青空にかもめが飛び交い、白い波頭が踊る。新しい季節の訪れを喜ぶこの雰囲気は別れの場面には似合わないが、それでも皆、うっとりと聴き惚れている。

 互いに離れた位置で演奏しているのに、一度も合奏した試しはないのに、聖爾と俺の息は最後までピタリと合って大成功。曲が終わると割れるような拍手が鳴り響き、なかなか止みそうにないが、いい加減に区切りをつけなければと一礼したところ「ちょっと待ってよ!」という、女の金切り声が響いた。

 舞台に飛び出してきたのは仁王立ちの宇宙人・エイリアン桃園で、もの凄い形相でこちらを睨みつけ、誠さんを指すと大声で喚いた。

「この人、今の演奏で尺八吹いていなかったのよ、吹いていたのは十七番で出た豊城聖爾さん。アタシ、知ってるんだから」

 会場の審査員や観客たちが「何だ、何だ」と騒ぎ始め、その様子を見た女はフフンと鼻で笑い、今度は俺を指してさらに続けた。

「かぐや姫だか何だか知らないけど、あなたの演奏する曲は六段だったんでしょ。それを勝手に春の海に変えて、アタシのお箏やパートナーまで使って、いったいどういうつもり? そこまでして勝ちたいわけ?」

「そんな、ただ、箏の絃が切れていたから借りただけで……」

 桃園恭子の乱入でこの場は大混乱。聖爾はどこへ行ってしまったんだ、早く収拾つけてくれよ!

 その時、壮大な宇宙を舞台にした有名なSF映画(エピソードⅨまで完結)のテーマがスピーカーから流れて、いきなりの展開に俺たちは耳を疑った。

 舞台の袖から現れたのは聖爾、しかもその手に光線銃みたいな形のプラモデルを持っている。あ、あれは水鉄砲じゃないか。赤や緑に光る剣が出てくるのかと思ったぜ。

「そこまでだ! 姫の帰還を妨害する邪悪な宇宙人め、おとなしく星へ帰れ!」

「な、何言ってるの?」

 突然浴びせられた意味不明なセリフに桃園恭子は信じられないという顔をしたが、彼女だけじゃない、俺たちだって何が何だかわからず、この地球防衛軍隊員の小芝居をポカンとして見つめている。

「姫の箏の絃を切ったのはおまえの仕業だろう、そんな卑劣な行為は許されないと思え」

「言いがかりはよしてよ。絃を切った、ってどこにそんな証拠があるの? アタシ、ライトの傍になんか行ってないわよ!」

 これまで何度も目にした不敵な笑いを浮かべ、聖爾は自信満々に言い放った。

「箏がライトの傍にあったなんて、誰も言っていないし、僕は二人に在り処を訊くまで知らなかった。どうしておまえはそれを知っているんだ?」

 かぐや姫の物語は名探偵・豊城聖爾の謎解きシーンに早変わり。誰それの名にかけて、なんて言い出しかねない雰囲気だ。ホイル焼き女の顔がみるみる青ざめてきた。

「だ、だって……悔しかったのよ、この子の方が上手に演奏するの、わかってたんだもの」

 シーンと静まり返る会場、こんなに大勢の人の前で罪を暴かれ、涙ぐむ桃園恭子が憐れに思えてきた俺はもういいよ、と言いかけて「もうよいではありませぬか。罪を認めた者をこれ以上責める必要はないでしょう」と言い直した。自分がかぐや姫役であることを忘れていない俺って、いい役者になれるかも。

「これからは二度と楽器を傷つけるような真似はしないでください。箏はわたくしの大切な友なのですから」

 我ながら感動的な名ゼリフ、そいつをアドリブでこなす俺を感心したように見ていた聖爾もこれまた芝居の続きを始めた。

「姫、それではまいりましょうか」

 俺の手を取る聖爾を見た誠さんは慌てて「どこへ行くのですか?」と訊いた。

「私は月の世界から姫を迎えにきた使者です。残念ですが、貴方と姫は結ばれない運命、潔く諦めてください」

 バックミュージックが次第にフェードアウトし、ライトも消えて、割れるような拍手と共に寸劇の幕は閉じた。

    ◇    ◇    ◇

 超シュールでアドリブ満載、滑稽を通り越してお笑い劇場と化したかぐや姫の茶番劇だが、あれでいて審査員の皆さんにはウケたらしく、俺たちは三位という輝かしい成績で入賞し、応援団は部室を手放さずに済んだ。

 二位はあのフラメンコ、そして栄光の一位はなんと、エントリーナンバー十三、食堂のオバちゃんが披露した南京玉簾だったのだが、オバちゃんを持ち上げないと、食堂の御飯の盛りを減らされてしまうのでは、という危惧が一位入賞に結びついたらしい。美しさを競うだけなら俺が絶対に一位だったと、赤木たちが力説していた。

 審査結果の発表前、桃園恭子のミスコン三連覇は絶対に無理だという雰囲気が充満していたが、それは仕方のないことだった。わざわざ難しい曲を選んでまで、箏で俺と張り合う必要なんかなかったのに、もっと違う方法でアピールすれば評価も違ってきたのに。それは聖爾と俺を合奏させたくない女心の行き着く先だったのだろう。

 結局、聖爾たちは本来ならとても入賞に及ばないと思えたのだが、かぐや姫劇への友情出演の好演が功を奏してか、十五位ギリギリで部室をゲットし、三階の一番隅の部屋は晴れて三曲同好会の所有となった。もっとも、この同好会のバックに緑川教授がついているから、という口さがない連中もいたけど、手に入れてしまえばこっちのもの。

 そんなこんなで今年の学園祭も終了。念願の部室獲得を果たした同好会のメンバーはその祝賀会と、お疲れ様の打ち上げを兼ねて飲み会を企画した。場所は苦心の末に獲得した部室で、緑川教授がポンとポケットマネーを提供。青柳を中心とした買出し班がビールにワインにウィスキーに焼酎、オードブルに乾きものと、たくさんのつまみを買い込んできた。

 ところがその日、応援団の方でも打ち上げをやるので『勝利の女神?』の俺にも参加してくれと要請されてしまった。

「四階の部室で行いますが、頃合いを見て自分たちも三曲に顔を出しますから」

「祝賀会のハシゴですね、わかりました」

 宴の開始から団長がいないというのはマズイので、誠さんと黄山は先に応援団の方へ参加し、残りの八名で宴会が始まった。緑川教授は酒豪らしくウィスキーのボトルを前に、ロックでぐいぐいやっている。そんな教授に負けず劣らずイケるクチなのは聖爾で、こいつはバーボン専門だ。

「はーい、聖爾さん。氷入れたわよ」

 彼の隣をちゃっかりとキープしているのは桃園恭子、この女のド根性には呆れるを通り越して見上げてしまう。あれだけ恥をかいたのに、それも惚れた相手の推理劇によって、だったのに。赤木の予想通り「部室ゲットはアタシのお蔭」と主張し、何事もなかったような顔で、同好会の仲間として宴席に参加しているのだ。厚顔無恥って、こういうヤツのことを言うんだろうな。あの時、同情なんかするんじゃなかった。むちゃむちゃムカつくぜ!

「いやいや、皆さんよくやってくれました」

 舞台上でのハプニングには触れず、教授はそう言ってコンテスト参加者の健闘を讃えた。

「土方くんの尺八があの場で聴けなかったのは残念ですがね。せっかくあそこまで頑張って練習したことですし、本人も心残りでしょう。この秋にでも演奏会を開きますかね」

「演奏会ですか?」

 白井さんと黒岩さんが目を輝かせて、同時に訊いた。

「ええ。みんなの上達ぶりを披露し、発表する機会があっていいと思いますよ」

 しばらくして、いったんその場を抜けようとした俺に気づいた聖爾は「土方たちを呼びに行くの?」と心配そうに訊いた。

「あっちは何といっても応援団だからね。かなり盛り上がって、ヘタするととんでもないことになっているかもしれない。二人を連れて、さっさと戻ってきた方がいいよ」

 そう聞かされると、さすがに不安になる。うなずいた俺は階段を上り始めたが、そこで俺が目の当たりにしたのは、これぞ大学生の宴会の真骨頂とでもいうべき凄まじい、だが、救急車の出動率が高い神理大の飲み会ではよくある光景だった。テーブルの上には枝豆の殻、食べかけの焼き鳥、ビール瓶に一升瓶が散乱した、まさに阿鼻叫喚の酒乱地獄。ヘベレケに酔った学ラン姿の連中が盛り上がり、奇声を発している。

 と、こちらに気づいた一人が「あっ、ミサオさんだ!」と叫び、いかつい男共にたちまち取り囲まれる俺、ゲリラにとっ捕まって捕虜にされたような恐怖の場面を体験中。我らの勝利の女神とさんざん俺を持ち上げた彼らは改めて礼を言いたいと申し出た。

「ウォイッス! どうもありがとうございました!」

 野太い声で一斉に言われると、御礼というより脅されている感じがして、すっかり腰が引けてしまった俺は「い、いえ、どういたしまして」と遠慮がちに答えた。

「さあ、それでは駆けつけ一杯」

 グラスを持たされ、そこに一升瓶からなみなみと注がれた酒を見て、俺はますますビビッてしまった。

「日本酒は苦手なんで、ビールにしてく……」

 すると、その様子を見ていた黄山が「まともに酒も飲めないヤツがのこのこ顔出すんじゃねえよ」と吐き捨てた。

 俺が応援団の代表と決まってから、黄山には敵視される場面が多くなった。あの時、誠さんと一緒に頭を下げたくせにどういうつもりなのかわからず、また、彼の気に障るようなことをした覚えのない身としてはとても不愉快だったが、今夜は一段と態度が悪い。

「あん? なんだ、そのツラは?」

「いや、その、別に」

 すっかり酔っ払いの黄山は茹でダコのような真っ赤な顔をして、グラスのビールをもう一杯あおると、さらに絡んできた。

「こんな……のどこが……だか」

 舌がもつれるらしく、何を言っているのか聞き取れないが、かなりヤバイ雰囲気。聖爾の忠告どおり、これ以上この場にはいない方がいいと判断した俺は二人を連れ出すのは諦めて、三階の部室に戻ろうと考えた。

「三曲に行くから待って」

 声をかけてきたのは誠さんだった。こちらも目の縁を赤く染めて、とろりとした視線を向けているのが妙に色っぽい。誠さんの行動を見咎めた黄山は「無断で勝手なことをするな!」とわめき散らした。

 この二人、どちらかといえば団長である誠さんに副団長の黄山が従っているように見えたんだけど、今は関係が逆転してるみたい。こりゃあ、いったいどうなってるんだ?

「少しくらいいいじゃない。あっちにも顔を出すって言っちゃったんだものぉ」

 頬をふくらませて、拗ねた表情をする誠さん、何だか様子がおかしいぞ? そういえばウチで御袋に酒まんじゅうを食べさせられた時もそうだった。彼は酔うと言葉使いも仕草も女っぽくなってしまうらしいが、その姿はまさにオネエ。クールで無口、男らしい硬派のイメージが崩れていく。早くここから離れようとする俺のあとを誠さんが、そしてその後ろを黄山が追ってきた。

 あとでわかったことだが、男らしさを強要される生き方を続けてきた誠さんはその反動でオネエになってしまい、同性にも興味を持つようになったらしい。女らしさを強要されていた俺とは正反対、普段は硬派・バンカラで通しているけれど、酒が入って気持ちが解放されると本性が現れてしまうのだ。

 そして誠さんは同じ性癖を持つ仲間、黄山と出会った。オネエの人って、マッチョで逞しい男が好きだというのが俺の認識だったけど、そう簡単にはくくれない。二人の関係は応援団内では公然の事実だったが、団長はオネエで、しかも副団長とつき合っているなんて知られては大変なので、団員たちは外部に漏らさないように注意を払い続けていた。なんつーか、御苦労様としか言いようがない。

「ねえ、美佐緒さんったら、そんなに慌てることないでしょう、ちょっと待ってよぉ」

 あのルックスでオネエ言葉を使われるとコワイ。ついつい足早になる俺だが、

「待ってったらぁ。訊きたいことがあるのよ」

「きっ、訊きたいこと?」

「美佐緒さんが好きなのは聖爾さんじゃないって、この前言ってたわよねぇ」

「確かにそう口走ったけれど……大変申し訳ないけど、その……」

 憧れていた相手の正体がオネエだったなんて、俺としてはトホホ以外の何物でもない。

 しかも恋敵あり。知らない間に二股掛けられた上、ポイ捨てされかけている黄山の妬み恨みの標的なわけで、その黄山は後ろから誠さんの身体を羽交い絞めにした。

「何するのよっ!」

「おまえ、このオトコオンナがそんなに好きなのか? オレよりもかっ! ちくしょう、女だと思って安心していたのに……やっぱり合奏なんて反対すればよかった」

 黄山の醜い顔がドス黒い嫉妬の色に染まってゆく。この世のものとは思えない恐ろしさに俺の背中は冷や汗たらたら、すっかり足がすくんでしまった。

 地団駄を踏んで悔しがる黄山を見下し、誠さんは「やーねぇー、違うわよ。アタシが好きなのは豊城聖爾さん」と言い放った。

 えっ? 今何て言ったんだ? 呆然とする俺の耳に、とんでもない言葉が次々に飛び込んできた。

「研究室に入ったときから目をつけてたの。モロ好みなのよねぇ。婚約してるって聞いてすっごくショックだったけど、婚約者が男ってことは彼もホモでしょ。しかも婚約は嘘で、おまけに美佐緒さんは他に好きな人がいるって話だし、それならアタシにもチャンスがあるじゃない? これって超ラッキーね!」

 誠さんが興味を持っていたのは俺の婚約者である聖爾だった。それをどこでどう取り違えたのか、桃園恭子も黄山も相手は俺だと思い込み、俺自身もすっかりその気になっていたなんて、穴があったら入りたい。

 が、よくよく考えてみれば、ホモの関係で女役らしい誠さんがこれまた女役の俺に惹かれるはずはない。あーあ、なんてこった。

「豊城聖爾だと?」

 今度は怒りで膨れ上がる黄山の表情はとてもじゃないが直視出来ないけど、嫉妬深い彼の反応には慣れっこなのか、誠さんはその存在を無視して、俺に語りかけ続けた。

「で、美佐緒さんの好きな人って誰? うまくいくように協力するから、その代わりにアタシと聖爾さんを取り持ってくれない?」

「い、いえ、それは……」

 何と答えればいいんだ。誠さんとの間を取り持つなんて、そんな真似出来ない。あいつは、聖爾は俺の大切なフィアンセだから……

 焦り、戸惑う俺はとにかく聖爾のところへ戻ろうと、四階の廊下を前へ、前へと進み、いつの間にか突き当たりのドアの前に追い詰められていた。ドアに鍵はかかっていない。

 無我夢中でノブを回してみると、ドアの向こうにあったのはこの学生会館の外づけの階段で、それは三階のバルコニーまで下りられるようになっていた。

「おい、誠、いい加減にしろ!」

 黄山は何としてでも行かせまいとして、誠さんの手を強引に引っ張った。

「まったくもう、ウザいんだから。あんたなんかキライよ、ハイ、さようなら」

 俺と一緒に三曲の部室へ行こうとする誠さんと、応援団の部室に戻ろうとする黄山の綱引きが続いたが、と、その時、黄山は勢い余って誠さんを突き飛ばし、誠さんに押し出される格好になった俺の、痩せで体重の軽い身体ははずみで階段の手すりを簡単に越え、背中から落下した。

「うわあっ!」

 頬で風を切る感触、このまま落ちるしかないのか、もうダメだと覚悟を決めた俺だが、次の瞬間、身体がふわりと浮いた。

「……ね、だから大丈夫って言ったでしょ?」

 山桃の木、ピンクの着物、青いシャツを着て微笑む少年……初恋の人……

 あの日の光景がフラッシュバックする。

「大丈夫、って、怪我してるじゃないか!」

 そう叫んだ俺はハッと我に返った。あの日と同じ笑顔がこちらを見つめている。

 俺の身体は聖爾の腕の中にあった。なかなか戻らない俺を心配して様子を見に出たとたん、四階廊下の騒ぎを聞きつけた彼が助けてくれたのだ。

「ほら、怪我なんかしていないって」

「だ、だって、だって……」

 どうすればいいんだ、涙が溢れて止まらない。泣きじゃくる俺を強く抱きしめた彼は「いつまでたっても御転婆で泣き虫だね、お姫様」と優しく囁いた。

                                ……⑪に続く