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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

   バンカラらぷそでぃ ③

    第三章  マジかっけー! 応援団団長・土方誠
 俺たちが松の間に戻ると、急用が出来たので帰る、美佐緒さんとはまたの機会に会う約束をしたとか何とか、適当な言い訳をした聖爾さんはその場を切り上げさせた。
 再会を約束したということは美佐緒さんも聖爾が気に入ったようだ、とりあえず見合いは成功した、といいように解釈した豊城家の両親は安堵。また、俺の正体がバレることなく見合いが終わって、親父たちは胸を撫で下ろしていたようだが、安心しちゃあいけない。
 聖爾さん本人が茶番劇の黒幕だった以上、俺の作戦はまったく通用せず、それどころかこのまま話がトントン拍子に進めば、彼の思惑通りに結婚させられる羽目になる。
 結婚相手が男だと承知の上で、となれば、俺を本物の女に仕立てる手間は省けるし、親父たちとしては願ったり叶ったりだろうが、四面楚歌になってしまった俺にとっては、これから先の方がもっと問題なのだ。
 ところが、聖爾さんは特に約束を強要するわけではなく、俺のケータイの番号を聞きだそうともせずに「じゃあ、またね。お姫様」とだけ言い残して去り、彼に対する不安を抱えながらも翌月曜日を迎えた俺はいつものように小田急線に乗り込んだ。
 俺の通う私立神奈川理科大学は我が家と同じ川崎市内にあるため、自宅から楽勝で通学出来る。
 御袋は例によって「フェイス女子大なんかどう?」などと持ちかけてきたが、見かけはともかく、生物学的にオスである俺が女子大に入れるはずがない、よく考えて欲しい。
 女扱いされ続けた反動で、男っぽいものに強い憧れを抱くようになった俺は中学で柔道部、高校ではアメフト部への入部を希望したが、骨を折ったらどうする、とか、顔に怪我でもしたらせっかくの美人が台無しだ、とかで、どれもすべて却下された。
 親には内緒で入部テストを受けた運動部もあったけれど、あらゆる点で不合格。向こうから断られるパターンがほとんどで、たとえ入部できたとしても、身長も体力も筋力もない、この細い身体では到底通用しなかっただろう。『色男、金と力はなかりけり』なーんてことわざを引用している場合ではない、男としてはとっても不名誉なことなのだから。
 スポーツでの男らしさの追求を諦めた俺はそれならば勉学でと、比較的男子が得意科目とする理数系を頑張り続け、工学部へ進学したいと言い出した時、御袋は渋い顔をしたが「美佐緒が学びたいというものをやらせておあげなさい」と言って味方をしてくれたのは意外にも品子ババアだった。
 物心ついてからの、俺の扱いに対する罪滅ぼしのつもりかもしれないと、その時は好意的に捉えたが、今はいくら抵抗していても、いずれは自分のあとを継ぐのだから、とりあえず好きなようにやらせておこうと考えたのではないか。
 ババアたちの思い通りになるつもりはないけど、男らしいイコール理数系という漠然とした考えのみで進学を決めた俺に将来の目標を述べよというのは酷な話ではある。
 また、兄貴たちのように、一流大学に受かるほどの頭脳はないから、実力に見合った学校を探すと、それならば、わざわざ東京まで通わなくても近場で、工学部もあるという理由で受験を許可されたのが、この伝統ある神奈川理科大学、略して神理大だった。
ユニヴァーシティつまり総合大学ではなくカレッジ、理系学科のみの単科大学なので男子学生が多く、バンカラな校風だという点が気に入った俺も入学を承知し、箱入り息子は晴れて大学生になれたという次第。バンカラなんて言葉、今では耳にすることもなければ、お目にかかることも滅多にないだろう。断っておくけど、ここで言うバンカラは野蛮とか下品の意味じゃなくて、男らしいとか、硬派ってことだからな。
 小田急線の最寄り駅で下車し徒歩十五分。八重桜の舞い散る通用門をくぐってすぐに左折、理学部の校舎の脇を抜けてからキャンパス内を横切るように続く道を行くと、アイボリーに塗られた壁が間近に迫って見える。
 これぞ鉄筋五階建ての我が工学部校舎、そこにたどり着いた俺の背後に誰かが忍び寄る気配がしたかと思うと「ミッサオちゃーん、おはよっ!」という調子のはずれた声が聞こえてきた。声の主は工業化学科のクラスメイト、赤木と青柳だった。
 赤木は茶髪にピアス、破れたジーンズを腰パンにして履いた遊び人風の、いかにもイマドキの大学生だし、メガネデブの青柳は見るからにアキバっぽくて、アニメの美少女キャラにメチャメチャ詳しい。
 バンカラな校風どころか、周りにいるのはこんなヤツばっかり。時代は変わったのだ、いにしえに作られた大学案内のパンフの文面を鵜呑みにした俺がバカだった。
「……何だよ、おまえらか」
「何だよ、はないだろ」
「冷たくされると、ますます燃えちゃうよん」
「気色悪いこと言うなって」
 二人を鼻であしらう俺だが、そんな態度をとってもまとわりついてくるあたり、本当に奇妙な連中だ。
「今日はまた一段とキレイだね。お目目ぱっちりの、長い髪の毛さ~らさら。お肌にも磨きがかかって、もううっとり~ってカンジ」
「ホント、いい匂いがする」
 俺の頭からつま先までをイヤらしい目つきで眺める青柳の言葉を受けて、赤木が鼻をヒクヒクさせながらにじり寄ってきたので、避けるように飛び退く。
「そのルックスで中身は男だなんて、まったく神様も罪作りだぜ」
「ミサオちゃんより可愛い子、この大学にはいないよね」
「だから俺はオ・ト・コ! いい加減にしろ」
 ふざけたことを平然とぬかす青柳たちに対して、いちいち反応するのもバカバカしいと思いつつ、つい相手をしてしまう。
 俺がいくら睨みつけても、彼らのバカげた発言はとどまるところを知らない。
「三年の女の人に工学部のアイドルって呼ばれてる人がいるらしいけれど、ミサオちゃんはニュー・アイドルだ、って評判なんだよ」
「そっか、ニュー・アイドルとお友達なんてさ、オレたち最高に幸せ、ってやつ?」
 どいつもこいつもおかしいんじゃないのか。なんで男のアイドルが男なんだ? おまえら揃ってホモかよ、と何度罵ったかしれないが、
「ミサオちゃんの場合は女の子とついてるものがちょっと違う程度で、ホモってカンジがしないし、本当は男なんですって言われても誰も気にしないんじゃないかな」
「本物のホモはさあ、もっと男っぽいっつーか、互いを真の男と認めた体育会系の男同士の脛毛が絡み合って、ごっつぁんです、みたいな汗臭いイメージ?」
「うわぁ、やめてよ」
 青柳が身震いして、会話はすかさずアイドルネタへと逆戻り。
「学園祭のミス・キャンパス、その三年生の人が三連覇を狙ってるらしいけど、今年はミサオちゃんで決まり! ボクらが推薦するから、出場ヨロシクね」
「くだらねえ。ミスコンなんて出ねーぞ、絶対にっ!」
 女子学生がまったくいないわけではないが圧倒的に男の多いこの大学、しかも今年の新入生は特に女の子が少ないとかで、俺は男でありながらミス・キャンパス候補と言われているが冗談じゃない。
 三連覇というのもおかしな話で、普通は一度選ばれたら再選はナシのはず。女の割合が少なくて出場候補者がいないため、何度でも出られるというのなら、そんな無理のある企画なんぞやめてしまえばいい。だいたい、男ばかりの大学でミスコンをやろうって考えが間違っていると思う。
「そう言わずにさあ。せっかくの機会だからアニメキャラのコスプレで出るとか、それが無理ならメイドかセーラー服がいいな」
 よだれをたらしかねない様子の青柳の言葉に赤木が同調した。
「オレとしてはボンテージが一押しだけど、メイドも捨て難いなあ」
「……てめえら、ブッ殺す!」
 続けざまに俺が罵詈雑言をまくしたてると、赤木は慌てて話題を変えた。
「そういやさっき、機械工学科の院生だっていう人に声を掛けられたんだけどさ、その人が今度、尺八同好会を作るから入会しませんか、って誘ってきたんだよ」
「尺八って虚無僧が吹いてる、あの竹で出来てるやつ?」
 その場には居合わせていなかったらしく、青柳は尺八を吹く真似をしてみせた。
「そう、それそれ。その人、なかなかイイ男なんだけど、どうしてそんなジジくさいこと始めたのかな。オレが遠慮しますって答えたら、メゲずに他の人を勧誘してたっけ」
 尺八がジジくさいだと? 普通の若者ならそう受け止めるのも無理はないけど、邦楽器をバカにされたようで俺としては面白くない。箏や三味の稽古なんてずっとサボッているくせに、ゲンキンなものだ。
 練習をサボッていたヤツの言葉としてはしらじらしいかもしれないが、御袋たちが教える、わびさびを愛する和の世界は嫌いじゃない。女々しいというイメージで捉える人もいるだろうけれど、箏曲家で『春の海』を始めとする、数多くの名曲を残したのは宮城道雄だし、茶の湯はもともと武士のたしなみ。家元と呼ばれる人に男性の多いところからしても、決して女だけの世界ではない。
「尺八かぁ。ボク、ミサオちゃんが吹いてくれるなら入会しちゃうけど」
 その意味するところに気づいた俺は尺八を汚すようなことを口にするな、と怒りも露に「天誅!」と叫ぶと、青柳の横面に右手で必殺パンチを食らわせた。
 しかし、女並みの細腕にパワーもない、そんな俺のパンチが効くとは思えないのに、青柳はわざとらしくよろけて、彼の後ろから来た人とまともにぶつかってしまった。
「……痛ってえな、この野郎!」
 相手の姿を見た俺たちは唖然とした。そこにいたのはまさに天然記念物、レッドデータブックもの。小太りな身体に学ランをまとい、ヘアースタイルはリーゼントという男が青柳を睨み据えている。
 その小太りで醜い男から数歩下がったところにいるのはこれまた学ランを着た背の高い、苦み走ったイイ男。冷静な表情で目前の二人を見比べていて、この迫力ある相手の様子に恐れをなした青柳は平身低頭、「すいません」を連発した。
「まったく、デカい図体して、女に殴られてんじゃねえよ!」
 小太り男が吐き捨てるようにそう言ったんだけど、ちょっと待った、殴った女って俺?
 まあ、そうだよな。男が女装をするのとは違って、女は男と同じような服装をしてもおかしくはないし、俺の場合、ジーンズやTシャツといったユニセックスなファッションだと、知らない人にはトリプルAカップの女だと思われても仕方ないんだった。
 だからといって、学ランのような男っぽい服装は似合わないし、男装の麗人扱いされるのがオチ。時代遅れはいえ、そういう格好が出来るこの人たちが羨ましくもある。
 さてさて、これだけ青柳が謝っても、小太り男はまだ怒りが収まらないらしい。
「近頃は女のケツばかり追っかけている軟弱なヤツが多くて情けないぜ。なあ、土方」
 ところが、土方と呼ばれた二枚目は俺たちに向かってゆっくりと頭を下げた。
「こちらも注意が足らなかった、申し訳ない」
 それから不満そうにしているデブの連れを促すと、その場から悠々とした足取りで立ち去った。しばらく沈黙が続いたあと、気を取り戻した青柳は青ざめた顔で「ああ、恐かった、心臓が止まるかと思った」とつぶやいた。
「あの連中にここで会うなんてさ、マジ、ビビッたよな」
 彼らの正体を知っているらしい赤木に、今の二人連れは誰だと訊くと「応援団団長の土方誠(ひじかた まこと)っていう人と、副団長の黄山良介(きやま りょうすけ)ってデブだよ。二人とも機械工学の三年だって」という答えが返ってきた。
「応援団?」
「運動部の試合なんかがあると、その会場に行ってフレー、フレー、ってやってるアレさ」
 応援団をネタに、大判のタオルで冷や汗を拭き終えた青柳と赤木の会話が始まった。
「ボクたちの親あたりか、もうちょい前の時代に全盛だった、ツッパリって呼ばれていた人の格好みたいだよね」
「高校野球の応援とか、そういうのならともかく、大学にきてまであんなこと、普通はやらねえよな」
「よその大学の事情は知らないけど、体育系の学校ならあるんじゃない?」
「それにしたって、バンカラだか硬派だか、そいつがウチの校風だってイキがってるけどさ、そんな言葉、もう死語だぜ、死語」
「そうだね。それにボクとしてはチアガールの応援の方がいいなあ」
 赤木たちは応援団の存在に否定的だが、俺は彼らとの出会いに、特に土方という人に衝撃と感動を受けていた。
 なんてカッコイイんだ! さっぱりと仕上げた黒い髪、きりりと整った顔立ちの目つきは鋭く、時代劇の若武者役なんかが似合いそうだ。ちゃらちゃらしたところが一切ない、クールでストイックな姿勢はどれもイマドキの軽薄な大学生が失ったものばかり。
 落ち着いた大人の男の物腰にシビれた俺は憧れのまなざしで土方さんを見送った。バンカラな校風は受け継がれていたんだ、あの人たちに。何だかとっても嬉しかった。

                                ……④に続く