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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

KARISOME LONELY ONE ⑧(最終章)※18禁2🔞

    第八章  愛しのクニー
「大丈夫?」
 薫は今にも泣き出しそうな表情で、俺の顔を覗き込んできた。
「血が……」
「あ、ホントだ」
 言われて初めて、唇が切れているのに気づく。タオルを手にした薫がそれをそっと押し当ててくれた。
「ありがとう」
 ううん、と首を横に振った薫の目からとうとう涙がこぼれ落ちた。熱い雫が頬に降り注いでくる。
「ごめんね、こんな目に遭わせて、本当にごめん」
「おまえが謝らなくてもいいよ。それに、昼間は俺がおまえに怪我をさせた。おあいこだって」
「クニちゃん……」
 俺たちはどちらからともなく抱き合った。互いの温もりが疲れ切った魂を癒し、平穏な心を取り戻そうとしていた。
「身代わりなんかじゃないんだ、本当に」
 抱き合ったまましばらくして、薫は俺の手に自分の指を絡めるようにしたあと、ポツリポツリと語り始めた。
「身代わり……ううん、正直言って、最初はそういう気持ちだったかもしれない。あいつのことは忘れたつもりでも、心のどこかに未練があって……さっきは未練なんてないって見得を切っちゃったけどさ」
 寂しげに微笑む薫の表情が愛しい。俺は絡められた指に力を込めた。
「それで、バイトに入ってきたクニちゃんのことが気になったんだと思う。だけど」
 すぐさま彼は打ち消した。
「この人はマーシーとは違うって、すぐに気づいた」
「どう違っていた?」
 少し意地の悪い質問かと思いながらも、俺はそんなふうに訊いた。
「すごく真面目で優しかった。不器用で要領の悪いところも、なんて言ったら怒るかもしれないけど、オレにしてみればとっても好感が持てた」
 身体をゆっくりと離した薫は苦笑する俺を見つめ、それからその真摯な想いを告白してきた。
「きっとマーシーに似てなくても、オレはクニちゃんのことが好きになったんじゃないかな。これまで出会った人の中で一番好きだって、ずっと一緒にいたいって」
「薫……」
「もちろん、クニちゃんはノンケだってわかってるし、まさか好きだなんてコクるわけいかないから、できる限り一緒にいられる時間を作ろうって、それで昼も夜もバイトに入りまくった」
 頑張った挙句に風邪をひいたのでは元も子もないが。
「それにしたって大将にしてみれば、すげー迷惑な話だよな。絶対に『この給料泥棒め』って思ってるよ、断言できる」
 ハハハ、と俺は乾いた笑い声を上げた。藤本さんには迷惑のかけどおしだから、そいつは俺も似たようなものだ。
「クニちゃんが遥さんに一目惚れしたんじゃないかって思ったときは正直、ショックだったよ」
 軽い気持ちで遥さんに俺のことを教えたのはいいが、そんな展開になるとは予想していなかったらしい。
「あの人にしてみれば弟のそっくりさんってヤツに会ってみたい、それだけだって知ってたんだけど、やっぱ、そういうの気になるじゃないか」
「初めから相手にされていなかった。そんなの、俺にだってわかってたよ」
「嘘だ。メアド交換したんでしょ、オレが知らないとでも思ってた?」
 拗ねたような口ぶりが可愛い。もうヤキモチ焼かなくてもいいよとなだめると、彼は嬉しそうに頬を寄せてきた。
「今はおまえだけが好きだから」
「オレもクニちゃんだけだよ」
 肩を抱いて唇を合わせる。隙間から入り込んだ舌はもつれ、息が詰まるほどに激しく絡み合った。
 三度目にして一番濃いキスを繰り返した俺たちはそのまま床へと倒れ込んだ。フローリングのひんやりとした感触が伝わってくるが、興奮のせいか気にもならない。
「背中、痛くない?」
 そんなふうに気遣う薫がいじらしくて髪を撫でると、頭皮の小さな傷に触れてギクリとした。
「俺は平気だよ。そっちこそ、ここの傷は大丈夫なの?」
「平気、平気。こんなの、怪我のうちに入らないって」
「よかった」
 本当はまだ全身に痛みが残っているが、それよりも性的欲求が勝ってしまった俺は自分でシャツを脱いだあとに薫のTシャツも脱がせ、その上にのしかかった。
「……いい?」
 うん、と頷く姿が艶かしい。
 熱く火照った肌が触れ合い、ますます興奮をおぼえた俺は唇から顎のライン、首筋までキスをしまくり、耳朶を軽く噛んだ。
「あんっ、やっ」
 彼の甘い声に、こっちまでとろとろにとろけそうになる。
「ここ、感じやすかったよね」
 ピンク色の二つの粒は小さく震えていた。先端を指と舌で刺激すると、薫はさらに甘い喘ぎ声を上げた。
「はぁん……あっ、あっ」
 俺はキャンディを与えられた子供のようにしつこくそこを舐めては何度も吸いつき、そうするたびに薫は激しく悶え続けた。
 今度は全身を舐めまくってみる。
「やっ、そこは、あんっ」
 脇のあたりが弱点らしい薫は俺の舌が触れると、痙攣を起こしたようにビクッとしてはまた喘いだ。自室でくつろいでいたためか、薫の下の着衣はスエットで、生成りの木綿生地がわずかに押し上げられている。脇と胸へのキスを続けながら、俺は下の膨らみに手を伸ばした。
「硬くなってる」
「やだ、恥ずかしい言い方しないで」
「俺のもだよ」
 ジーンズのジッパーを下げると、俺は薫の手を取り、中にあてがった。
「……熱いね」
 俺たちは互いの気持ちを確認し合うかのように、相手のものに触れていた。
「さすって」
「こんな感じ?」
「うん。すごくいいから」
 しばらくそれを続けたあと、俺はスエットと下着をずらして、しっかりと勃起した薫のペニスを蛍光灯の下に晒した。
「あ、ズルイよ。オレのだけ」
 抗議しかけた薫だが、俺がそれを口に含んだのを見て驚いたようだ。
「クニちゃ……」
 男のものをくわえるなんて、もちろん初めてだ──改めて言うまでもないが。
 豚肉のアスパラ巻きに似た、硬いような、それでいてふにゃっとした奇妙な食感がする、などと言ったら興醒めだろうか。
 俺は見よう見真似で、薫のペニスにフェラチオを施した。
「あっ、そんな、イ、イイ……」
 絶品の彼の舌使いに比べれば初心者の俺などヘタクソに決まってるが、それでも薫はエッチビデオの女優のように、とろんと恍惚の表情を見せた。
「気持ちいいよ、クニちゃん。もうイッちゃいそう」
「出しちゃえよ」
 ──この前薫が言ったような、味の濃さなどはわからないが、マズイのだけはたしかだった。
「じゃあ、今度はオレがするね」
「それより……」
 俺は薫の手を制すると、彼の身体を起こしてこちらに背中を向かせ、スエットも下着も取って、さらに四つんばいにさせた。イッたばかりのペニスが太腿の向こう側にだらりと下がっているのが見えた。
「このポーズでしたい」
「この体位が好きなんだ」
「一番よかったから」
「オレも好きだよ。やっぱりオレたち、相性がいいんだね」
 ジーンズを脱いで全裸になった俺は背後から薫の腰を抱くようにして、下腹部を密着させた。いきり立ったペニスが触れると、彼の背中がピクリと動いた。しばらく穴をいじり、萎れたものを刺激してやる。ほぐれたのを見計らってゆっくりと中に沈むと、薫は「ああ」と小さく呻いた。
「クニちゃんが中にいる。とっても熱くて気持ちいい」
 興奮した薫が力を込めるが、入ったばかりでこんなに早く終わるわけにはいかない。俺はイキそうになるのを堪えて、奥へ、さらに奥へと沈み込んだ。
「あっ、ああっ、イイッ」
 俺が腰を揺するたびに薫は声を上げ、ますますしめつけてきた。気持ちよすぎて気が遠くなる。
 快楽に溺れた俺たちは場所を床からベッドへと移して、我を忘れて戯れ続け、気がつくと夜が白々と明けていた。
「何だよ、また徹夜でヤッちゃったよ」
 苦笑しながら、俺は「ライヴのアンコールで演奏したあの曲だけど……」と切り出してみた。
 いずれはそれを訊かれると予想していたらしく、薫は頷いた。
「マーシーのことを歌った曲だって、わかってたんだよね。クニちゃんがライヴの会場に来てるのを見て思ったんだ、この歌を演るのは今夜で最後にしようって」
「ふうん」
「あれはマーシーを好きだったオレへの鎮魂歌。オレには今、クニちゃんという人がいます。ありがとうマーシー、さようならマーシー。ま、そんなところかな」
 やはり薫はずっとマーシーを愛していたのかと、癒えかけていた胸の傷が少しばかり痛んだ。でも──
「じゃあ、今度からは俺のために歌を作ってくれるんだよな」
「もちろん。『愛しのクニー』なんてのはどう?」
「何だかダセぇ。もろパクリだし」
「あー、ダサイって言わないって誓ったくせに、ひどい」
「だって、いくら何でも、そのタイトルはないだろ」
「本気にするなよ。そんな曲にしたら、みんなにブーイングされちゃうし、売れるわけない。冗談に決まってるじゃん」
 ふざけて笑う薫の額をこづくと、俺も一緒になって笑った。
「身代わりの恋人、仮初めの愛、その路線でいってみようか?」
「どうぞ御自由に」
 身代わりから始まった、それでもいい。俺はロンリーワンではなく、薫のオンリーワンになったのだから──
                                   ──了