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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

KARISOME LONELY ONE ④

    第四章  ライヴハウスの乱
 さらに翌日、俺は講義をサボって、開店から閉店までと、ほぼ一日中店にいた。
 大学に行かなくていいのかと藤本さんが心配したけど、担当の教授が病気で休講続きだから大丈夫と嘘をついた。
 雨宮がいない分、俺が仕事をカバーしなくては、というのはもちろん正当な理由だが、いずれ出てくる彼と少しでも早く会いたいというのが本音だった。
 定休日を挟んで、その時は四日目にして訪れた。
 長く休んですいませんと謝る姿を、見ないふりをしながら目の端で追う。心臓が壊れそうなほどドキドキしていた。
「クニちゃん」
 以前と変わらない調子で話しかけてきた雨宮に動揺を悟られまいと、俺も平然として、「よう」と応えた。
「風邪ひいたんだってな。身体の具合はもういいの?」
「うん。バイト、代わりにずっと入ってくれたんだね、ありがとう」
 少しやつれた顔をしているあたり、本当に風邪をひいていたのかもしれないが、まっすぐにこちらを見る視線は以前のままだ。あのキスは何だったのか、酔っておぼえていないのかと疑いたくなった。
 そして、俺に対する気持ちはどうなったのか──
 控え室のロッカーの前で、雨宮は「今度の木曜日だけど」と切り出した。
「渋谷のライヴハウスに出るんだ。ちょうどここの定休日だろ、よかったら見に来て欲しいなって思って」
 自分が活躍しているところ、晴れ姿を見せたいといった自己誇示なのだろうか。
 俺の視線を気にしながら、彼は「友達として誘うのはオッケーだよね?」と訊き、探るような目をした。
 やはり彼は俺をそういう想いで見ている? 
 嬉しい気持ちを抑えながら、俺はいつもの無表情を装った。
 迷惑がっていると捉えられても困るけど、誘われて喜んでいるなんて知られたくない。あくまでも無関心が鉄則だ。
「俺、これまでそういう場所に行ったことないんだけど」
 ライヴハウスなんて、一度も足を踏み入れたためしはない。
 それどころか、俺はコンサートの類には行ったことがない。深雪にマーシーを見に行こうと誘われたが、チケットが取れなくて中止になった時はホッとしたほどだ。
 不安の声が迷惑そうに聞こえたのか、雨宮は慌てて手を振り、気にするなのポーズをとった。
「あ、無理はしなくていいからね。聴いてもらいたいのはやまやまだけど、せっかくの休みを潰しちゃ悪いし」
「いや、それは別にいいけどさ」
 未知の場所への不安よりも、雨宮たちの演奏を聴いてみたいという気持ちが先に立った俺は「せっかくだし、友達なんだから見に行ってやるよ」と告げた。
 俺が承知したとわかると、雨宮は嬉しそうな顔をしたが、なぜかすぐに困ったような、悲しげな様子を見せた。
「ウチのバンドってよく、センスが古いって言われるんだ。メンバーの見た目はいいのに今時流行らない、古臭い曲やってるとか、オレたちの親世代が若者だった頃に流行ってたようなメロディーだ、なんて感じの内容で批判されてた」
「誰がどこで、そんなことを?」
「インディーズバンドを専門に取り上げてるサイトに書き込みがあったんだ。オレは直接見たわけじゃないけど、ファンの子が教えてくれたりして、ウチのメンバーもそれを知ってて」
「今時流行らないって、それが却って新鮮かもしれないのにな。温故知新とか、古きをたずねて新しきを知るとか、反論してやれよ。まあ、それでもそんなふうに言われてるってわかったらショックだよな」
「うん。だからといって音楽性を変える気はないっていうのが、みんなの一致した意見でさ。リーダーとしてもその考えは尊重しなきゃだし、かといって売れないのも辛いし、これってジレンマだぜ」
 肩をすくめる雨宮に、どういった感じの曲をやっているのかと訊くと、
「ヘヴィメタとプログレが合体したような曲もあるし、メロディアスハードもあるし、ちょっとアニソンっぽいのもある」
「アニソン?」
「そうやって聞くと、なんだかゴチャゴチャしていて無節操だろ? あいつら、それぞれに自分の好きなタイプの曲を主張してさ。それでもって、お互いになかなか妥協しねえんだよ」
 HIP HOPやら、ラップといった、現在ウケているジャンルとは一線を画しているのだと雨宮は解説した。
 一般的な現代の若者にはウケないメロディー、それがライヴハウス止まりから脱却できない理由かもしれないが、自分たちのやりたい曲をやるというのは、それぞれのバンドのこだわりといった部分で、周りがとやかく言っても仕方がないことだ。
 売れることばかりを考えていたら、本当にやりたいものを見失ってしまう、そういう気持ちはよくわかる。
 現に人気の出たバンド内でも、音楽の方向性の違いとやらで、メンバーが脱退するだの、入れ替わるだのといった出来事はしょっちゅう聞く話だ。
「とにかくそんな感じだから、聴く人によってはダサイって思うかもしれない。そのつもりで聴いてよね」
 雨宮はそう念を押したが、俺自身としては流行りのミュージシャンにもアイドルの音楽にも興味がないし、逆に雨宮たちの曲を気に入る可能性もある。
「わかった。ダサイなんて言わないから、安心しろよ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
 ホッとしたように笑ってみせた雨宮はそれから「それでもさ、世の中にはいろんな好みの人がいるもんだなって、つくづく思うよ」と続けた。
「手厳しい批判もあったけど、支持してくれるファンもけっこうついたし、一年以上何とか活動が続いてるんだから、大したもんだって。これって自画自賛かな」
「そういや、わざわざ店にまで来てくれたファンがいたじゃないか」
 雨宮目当てに銀杏亭にやって来た三人の客を思い出していると、彼は何を思ったのか、奇妙なことを言い出した。
「ああ、あの子たちはまだマシな方だぜ。遥さんタイプが好みだとしたら、世界が違いすぎるからさ。中に入ってビックリしないように忠告しておくよ」
「忠告?」
「ゴスロリがどっさり押しかけてくるから。その格好で電車乗ってきたのかよ、みたいなコスプレ女もたくさんいる」
「圧倒的に女性ファンが多いって主張したいんだな」
 厭味っぽく言うと、自慢げな言葉が返ってきた。
「まあね。オレら、これでもビジュアル系がウリだし。ヴォーカルのテルとキーボードのトシはけっこうイケメンだぜ」
「ふうん」
 わかってはいたが、やはりビジュアル系、イケメン揃いが人気の理由であって、音楽性やらジャンル云々は二の次ということだ。
「ベースのタツミもまあまあだけど、ドラムのリュージがイマイチなんだ。あいつがビジュアル面で足引っ張ってるんだよ。演奏の腕は悪くないんだけどなぁ」
 ここでボロクソ言われているとは思ってもみないだろうリュージ氏に、俺は密かに同情した。
「どっちにしても、あいつら全員、オレにはかなわない。RED SHADOWSを背負ってるのはオレってこと」
「たいした自信だな」
 背負ってる当人がゲイでは、ファンの女の子たちも浮かばれないだろう。
 だが、雨宮の口ぶりからして、バンドのメンバーの中に、俺より先に彼の心を捉えた男はいないようだとわかると、少しばかり安堵した。
 同じグループ内でそういったゴタゴタは起こさない、平和を保つ方がいいのはよくわかるし、それ以前に、ゲイ的指向のあるヤツがいないとも言える。
 それにしても、練習にしろライヴにしろ、一生懸命やっているだろうに、リーダーにザコ呼ばわりされているなんて、彼らはその事実を知っているのだろうか。
 厚かましい物言いに呆れている俺を見やって、雨宮はニンマリとした。
「渋谷の『Pee Man』って店なんだけど、場所わかるかな?」
    ◆    ◆    ◆
 RED SHADOWSのライヴ当日になった。
 都内の大学に通っているくせに、東京の地理には一向に詳しくならない。
 描いてもらった地図をたよりに向かったものの、あっちで迷い、こっちでつまずいているうちに開演時刻になってしまった。
 時間に余裕を持って出たはずなのに、何てザマだと舌打ちしながらようやく到着。ライムグリーンのネオン看板の下に白いボードがかかっていて、その脇から地下へと降りる螺旋階段がある。
 ということは、ライヴハウスそのものは地下に設けられているのだ。防音の面からいって、都合がいいのだろう。
 白いボードには『今日のライヴ』といった案内が書かれている。
 本日のアーティスト名は『RED SHADOWS』、演奏時刻は『午後六時半から八時半』……一時間近いロスだ、今からじゃ入れてもらえないのではと思うと、無性に悔しくなった。
 これまでの俺なら、ここで引き返したかもしれないが、あきらめきれずに螺旋階段を下り始める。
 受付の所に、巻き髪を真っ赤に染めた、いかにもそれっぽい女が一人いて、チラシの整理などをしていた。チケット係といったところか。
「あのう……今から入場できますか?」
 俺が話しかけると、女は無愛想な顔をこちらに向け、その姿に思わず後ずさりしてしまった。彼女は雨宮の忠告にあったタイプの女だった。
 くっきりと入ったアイライン、緑色のシャドウ、つけ睫毛はマスカラの重ね塗りのせいかずっしりと重そうで、それが理由かどうかはわからないけど目つきが悪い。唇はどす黒く光っている。
 派手に塗りたくったつけ爪といい、黒地に白のレースがたっぷりの、胸元が大きく開いた下品で悪趣味なデザインの服といい、絶対にお近づきになりたくない。
 女はつっけんどんに答えた。
「とっくに締め切りですよぉ。もうすぐ終演なんだからぁ」
「やっぱりダメですか」
 ガッカリしていると次の瞬間、ハッとした様子を見せた彼女は穴の開くほど俺の顔を見つめ、さっきの投げやりな調子とは打って変わって、丁寧な口調になった。
「あ、まだ間に合いますから、どうぞ入ってください」
「えっ、でも」
「そこのドアから入れますから」
「じゃあ、入場料を」
「そんなものいりませんから、さあ、中へどうぞ」
 女はわざわざ扉を開けてくれた。
 掌を返したその態度に薄気味悪さを感じながらも、タダで入れたからいいかと思い、俺は一歩足を踏み込んだ。
 暗くて狭い店内には大勢の人間が詰め込まれているせいか、息が詰まる感じだ。二酸化炭素濃度はかなり高いと思う。
 木曜日の、平日の夜にこれほど多くの若者が集まるものかと驚いたが、自分もその一人ではないかと苦笑する。
 そこには様々な音が溢れていた。
 ギター、ベース、ドラムにキーボードといった楽器の音に加え、ヴォーカルの歌声に人々の歓声やらざわめきはまさに音の洪水、異様な熱気に包まれている。ディスコだのクラブだのといった場所とはまた違う、異質な世界だった。
 次々と色が変化するライトに照らされたステージではヴォーカルの長髪男が──こいつがテルだ──暗闇に潜む銀色の罠だの、殺戮の翼だの、物騒でわけのわからない言葉をわめきながら熱唱し、その隣で雨宮が赤と黒、ツートンカラーのギターをウィンウィンいわせている。思っていたよりも上手い演奏で、なかなかやるじゃないかと感心した。
 細い脚にはあの黒革パンツを履いていて、豹柄の、破れかけのTシャツはまるで原始人だ。首には銀のチェーンと、なぜか赤いバンダナ、これがまた不釣合いでおかしい。センスがいいとはお世辞にも言えなかった。
 客のほとんどは高校生ぐらいの若い女の子で、雨宮の言ったとおりのファッションに身を包んでいる。
 彼女たちはステージ側に殺到し、リズムに合わせて身体をくねらせていた。ヴォーカルに合わせて歌う者あり、ひたすらメンバーの名前を連呼する者もあり。
 客席には一応、椅子があるが誰も座るはずはなく、後ろのスペースはぽっかりと空いていた。
 俺は壁にもたれると、目の前で繰り広げられている狂態を眺めた。
 自分たちには手の届かない、テレビの向こう側のアイドルより、手を伸ばせば触れることのできそうな、身近な男たち。そういったものを求めて、彼女たちはここに集まってきているのだろうか。
 昨日は一緒に仕事をしていた雨宮がここではスターになっている。俺にとっては逆に、彼が遠い存在になったようで、虚しさが胸の内を去来した。
 俺にキスをした雨宮が、友達でいてくれと懇願した雨宮が今、あんなにも遠い場所にいる。
──来なければよかったのかも──
 いよいよ終盤、ノリのいい曲が続けて演奏される。ちょっと前に流行ったアニメの主題歌のような感じだ。
 どのあたりがヘヴィメタで、どのあたりがプログレなのか、そこらへんの曲に詳しくない俺にはよくわからないが、さっきの殺戮の翼とか何とか、物騒な歌詞の曲がそうだったのかもしれない。とりあえず、今流れているのは嫌いなメロディーではなかった。
 ふと、ステージの雨宮と目が合ったような気がしたが、まさか、こんなに大勢の人がいるのに俺の存在がわかるはずはないと、否定してみる。
 最大の盛り上がりを迎えてライヴは終了したが、誰も帰る様子はなくアンコールの声がかかった。
 しばらくののち、メンバーが再びステージに戻ってきて大歓声が上がると、ヴォーカルのテルがマイクを取った。
「どうもありがとっ! 今夜もみんなと素敵な夜が過ごせて、オレたち最高にハッピーだゼィッ!」
 なんとまあ古惚けた、ダサい口上かと思ったが、観客たちは大喜びの興奮状態。黄色い歓声は止むことを知らない。
「それじゃあ最後に……」
 テルは傍らの雨宮を指さした。
「カオルの希望で、この曲を贈ります。『Feel Just Lonely One』聴いてください」
 ドラムのスティックの合図で、雨宮がイントロを弾き始めると、テルは落ち着いた声で歌いだした。
『同じ寂しさを抱いて いくつもの夜を過ごした あれは幻 冷たい裏切り』
 さっきまでの曲とは違い、しばらくはギターとヴォーカルだけのバラードで、メロディーが進むにつれてベース、ドラム、最後にキーボードが加わったが、ゆっくりとしたリズムは変わっていない。
 自分を裏切り、去っていった相手を今でも想い続けている、そんな内容の歌詞に、しんみりとした切ないメロディー。
 やかましくがなり立てるだけのバンドではなく、こんな雰囲気の曲もやるのかと意外に感じていると、サビの部分で雨宮がコーラスを担当したが、よほどこの曲に思い入れがあるらしく、ヴォーカルを押し退けそうな勢いで熱心に歌っていた。
 割れるような拍手が起きる。ライヴが終了しても、ほとんどの客がすぐにはその場を離れなかった。
「よかったー、テルってば最高!」
「カオルもカッコよかったわよねー。アンコールの曲って、彼が作ったんだってね」
 友達同士で来ていたらしい二人がしゃべりながら俺の傍の席に戻り、椅子の上に置いていた上着を手にして帰り支度を始めた。
 出入り口が混み合わないうちに帰った方がよさそうだと思い、そちらに背中を向けた矢先、この二人の仲間と思われる女が正面から小走りにやってきた。
 女は俺の脇をすり抜け、興奮した様子で仲間たちに話しかけた。
「ねえねえ、聞いた? 今夜のライヴにマーシーが来てるって!」
「ウッソー、エリったら、何寝惚けてんのよっ!」
「そうよ。だいたい、なんでマーシーがここに来るのよ?」
 仲間たちの反撃を食らいながらも、エリと呼ばれた女は怯まなかった。
「お店の人がそう言ってたんだから。それにマーシーってRED SHADOWSと関係があったんでしょ?」
 マーシーという名前が出てきたので、俺は思わず耳をそば立てた。ここで名前が挙がるということは、噂の人物はまず、宇崎雅史とみて間違いない。
 となると、本物が来ているのだろうか。ツラを拝んでやりたい気もするが、それらしい人物は見当たらない。
 ここにいるのはほとんどが女で、男の客なんて数えるほどしかいないから、すぐにわかりそうなものなのに……
 ファンに見つかって騒がれないうちに帰ったとか? 
 そんなふうに考えているうちに、まさかの理由が思い当たった俺はギクリとした。
 ライヴ会場に姿を見せたマーシーの正体はもしや、俺のことでは? マーシーが来たと主張した店のヤツとは受付のケバい女だったんじゃないのか? 
 ふと、背後から三人のヒソヒソ声が聞こえてくる。背中に注がれる視線を感じて、俺は焦った。
「まさか……たしかに身長は高いけど、あそこまでじゃないし、身体もずいぶんと細いみたいだし」
「テレビだと太って見えるっていうじゃない、きっとそのせいよ。実物は細いのよ」
「だけど、普通のTシャツとジーンズなんて学生みたいじゃないの。髪だって茶色いし、ストレートでしょ」
「きっとカモフラージュってやつよ。らしくないTシャツとか着て、カツラで変装してるのかも」
「そこまでやるなら、サングラスぐらいかけるんじゃない?」
「こんな暗いところでサングラスなんかしたら、何にも見えないわよ」
 エリが力説している。
 二人の仲間の問いかけに対し、いちいち反論する様子から、何が何でも俺を『お忍びでやって来たマーシー』にしたいようだが、やっかいなことになった。
『ボクはマーシーではありません。双子の弟とも違います』
 なんて、そんなのわざわざ言い訳するのも変だ。
 三人は確信が持てないためか、俺に話しかけることをためらっている。そいつは幸い、知らん顔で逃げ出そう。
「それにしたって、お供もなしに一人で来るかしら?」
「だから、昔の……」
 突然、右手の方向からキャーッと黄色い叫びが上がった。
 何の騒ぎだ、本物のマーシーがいたのかと、そちらを見たその時、
「よう、マーシー。久しぶり」
「あ、あの、人違いじゃ……」
 声の主をたしかめようともせず、そう言いかけた俺の目に、化粧をしたままニヤリと笑う顔が映った。
 雨宮だ。さっきの右方向の騒ぎの原因は彼だった。
 ライヴの出演者が突如、客席の真ん中に現れたのだから、みんなの驚きようは無理もない。
「カオルとマーシーがしゃべってる!」
「ウソウソ、どこ?」
「えーっ、マジで?」
 女たちの悲鳴に近いどよめきに場内はパニック寸前、エリ女史が「ほら、アタシの言ったとおりでしょ」と、興奮してわめく声すらもかき消された。
「お、おい、マーシーなんて言って、どうするつもり……」
 どうしていいのかわからず、おろおろする俺の耳元で、
「逃げるぜ」
 そう囁いた雨宮は俺の二の腕をつかみ、会場からの脱出を促した。
「だって」
「いいから言うとおりにしろよ、なっ、クニちゃん」
 なんだ、俺が速水邦彦だと承知していたのか。人騒がせなヤツだ。
 強引に腕を引っ張りながら、雨宮は出入り口をめがけて突進した。

                                ……⑤に続く