Welcome to MOUSOU World!

オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

ジェミニなボクら ⑪(最終章)※18禁🔞

    第十一章  君の中で踊らせて
 重苦しい雰囲気が消え、甘く優しい雰囲気に包まれると、しばらくの間二人はじっと抱き合っていた。
 慧児の肩越しにツインのベッドが見える。気配を感じたのか「無理強いはしないよ」と彼は気遣うように言った。
「やっと心が結ばれたんだ。これ以上望むのは贅沢だと……」
「それじゃあ今夜は別々の場所でおやすみ、でかまわないのかよ。そんなのって」
「本当にいいのかな」
「何度も言わせるなよ」
 男同士の身体の関係──これまでそういう体験があるはずもない。
 いったいどんなふうになってしまうのか、不安がないと言えば嘘になるが、昴は強がって見せ、自らベッドへと進んだ。
「ほら、理性を失くしたところ、オレにも見せてみろよ」
 何でオレの方から誘ってんだと思いながら勢いをつけてTシャツとジーンズを脱ぐと、慧児がテーブルサイドのライトを残して天井の灯りを消した。
 とたんに闇が広がり、ペールオレンジの光がうっすらと照らすだけの室内で、黒い影がこちらへと近づいてきた。
「こうなること……ずっと思い描いていた。僕の願望だった」
「マジで? 想像してたの?」
 クールが売り物の彼が自分とのエッチな場面を想像しながらマスターベーションでもやっていたのかと思うと、照れ臭いやら恥ずかしいやら。それでいて滑稽な気もして、昴は思わず笑ってしまった。
「笑うことはないだろ」
「ごめーん、お許しを」
 ベッドの脇に立つ慧児に、手を合わせて拝む真似をしてみせると、
「そう簡単には許さない。朝まで眠らせないから覚悟しろ」
「よっしゃ、その勝負、受けて立つぜ。ヘイ、カモーン! なぁんて」
 緊張を解きほぐそうとおちゃらける昴の唇は慧児の、さっきよりもディープなキスに遮られた。
 舌を絡められて息が詰まる。逃げ場のない口中ではされるがままで、溢れてきた唾液を拭うことすらできない。
 ようやく舌を開放した慧児は次に、髪をかき上げ、耳朶を軽く噛んできた。
「んん……」
「好きだ、昴、好き……」
 耳元で繰り返される甘い囁きに身体中が痺れてくる。
 身体を合わせた慧児は昴の首筋から胸へと指を滑らせ、肌に触れる動きが昴のためらいを次第に消し去っていった。
「はあ……ふぅん……」
 乳首を摘まれて、驚くほど恥ずかしい溜め息が漏れる。
「思ったより感じやすいんだな」
「思ったよりは余計だ」
 こんな場面でも一言多い相手を軽く睨むと、慧児はうっすらと微笑んだ。
「やっぱりかわいいな」
「二十五の男にかわいいはないだろ」
 指の伝った跡を唇がたどる。首から肩に、胸に、昴が特に感じているとわかると、慧児は執拗に乳首を攻めた。
「あっ、あっ」
 吸いつかれ、先端が尖ってきた乳首を掌で撫でられると、快感と共に痛みが走る。こんな感覚は初めてだが、何もかもが初めての体験なのだから仕方ない。
 それほど痛いわけでもないが、つい「いっ、痛、もう、やっ」と口走ると、
「もうイヤなのか? じゃあ」
 慧児の手はトランクスへと伸び、それをずらして昴を全裸の状態にしてから、勃ち上がりかけていたものをつかんだ。
「ええっ?」
 間の抜けた声を上げる昴の態度が不満だったらしく、慧児は「その反応は何だ? 何年男をやっている。ここを刺激するのが一番いいはずだろ」などと非難した。
「そりゃそうだけど」
 何年やっていると言われても、これまでの人生において、その部分に別の男の手が触れるなんてことまでは予測していなかった。そう反論したいのはやまやまだが、
「しっかり感じさせてやるから」
 ムキになった慧児の手で丁寧に扱かれて、反論よりも喘ぎ声が漏れてしまった。
「はっ……あ」
「気持ちいいか?」
「ふ……んん」
 手の動きが早くなればなるほど、伝わる快感も強くなってくる。昴は腰を浮かせ、しばらくされるがままになっていた。
「あっ、やべっ」
 とうとうイカされてしまった。白く濁った液がたらたらと滴り、何か悪いことをしでかした気になる。
 するとティッシュで拭くよりも早く、慧児がそれを口に含み、先端に舌がまとわりついてきた。
「えっ、そ、そんなの……」
 恥ずかしさで身をよじる昴だが、本体の意思とは関わりなく、下の部分はあっという間に復活。何て単純なヤツだと、自分のムスコを叱るが、やがて慧児の生温かい舌が与える快感に囚われて意識が朦朧としてきた。
「あっ、ああっ」
 もう限界だ、イッてしまう。それもまさか彼の口中で二度目の発射をするとは思ってもみなかった。
 昴は恐縮して身を縮め、その様子を見ていた慧児は不安そうに「どうした? あまり良くなかった?」と尋ねた。
「そ、そんなことは」
「僕自身も男性は初めてだから、要領を得ないかもしれないが」
 それゆえに、気持ちがいいかとか、感じるか等々、ことある毎に訊いてくるのだ。
 甘美なムードを盛り上げてなんぼ、という場面ではいくらかうっとおしい気もするが、相手を思っての気遣いだとわかるから、強くは言えない。
「いや、オレの反応が悪いんだ、ごめん。やっぱゲイ初心者だし……」
「そういう態度をとられると、何だか調子が狂うな」
 軽く嘆息してから、慧児は昴を抱き寄せると、よしよしとするように髪を撫でてきた。
「いつもは何を根拠にそこまで意地を張れるのかと思うほど強気だけど、そんなふうにちょっと弱気な感じの君もかわいいよ」
「またかわいいって言った」
 尖らせた唇にキスしたあと、慧児は「無理強いはしたくないけど……」と目を伏せ、語尾を濁らせた。
 その奥にある意味を汲み取ると、昴は思い切って慧児自身に触れた。当然、しっかりと硬くなっている。
「何カッコつけてんだよ、ここが待ってるじゃねえか。贅沢は望まないって言っておきながら、朝まで眠らせないから覚悟しろとか、無理はさせたくないとか、言ってることがコロコロ変わりすぎだって」
「いや、だから、その」
 昴の身を慮っての迷いだろうが、ここまできたら最後までいくしかない。
「オレの身体はちょっとやそっとのことじゃ壊れないから大丈夫だって。さあ、さっさと始めようぜ」
 ──人間の身体はどこまで過酷な試練に耐えられるのか、その限界に挑戦する──
 そんなサブタイトルがつきそうな、まったくもって、色気のない誘い文句だ。
 またしてもイニシアティブをとってしまった自分に対して呆れていると、慧児は胆を決めたらしく、すべての衣類を脱いだ。スリムな身体に似合わぬ立派なペニスがピンと張り詰めている。クールなはずの男の面持ちは激しい欲情に満ちたオスへと変貌していて、その緊張感に昴は身震いした。
 手近にあったハンドクリームを使って、指が後ろの孔を刺激する。男同士はそこを使うとわかっているものの、実際に触れられるとさすがに抵抗感があった。
「な、何だか恥ずかしいって」
「触られるのはイヤか?」
「だって普通は誰かに触られるところじゃねーし」
「それもまた快感になってくる」
 慧児は円を描くように孔の周りを撫で回し、その感覚は次第に心地よさへと変わっていった。頑なに閉ざしていた砦がゆっくりと開いてゆく。
「あっ、何か……イイ」
 ここがこんなにも感じるものだとは予想もしていなかった。
 緊張がほぐれて指が通るようになると、慧児は人差し指を差し入れてきた。
「あっ、ん」
 中へと潜り込んだ指が粘膜を引っ掻くように刺激し、強い快楽を与えてくる。
 人差し指に続いて中指も加わり、昴は繰り返されるその行為に喘ぎ、恥ずかしいほどに乱れてしまった。
「気持ちいい、奥、もっと奥」
「ここか?」
「うん、そこが……あっ、たまんねえ」
 何もかも忘れ、何もかも投げ出して身体をくねらせる様子に、とうとう我慢できなくなったらしい慧児は指を抜くと、一番刺激したいところを挿入してきた。
「……君が欲しい」
腰にグッと重い衝撃が走り、昴は思わず息を止めた。
「ん……はっ……あ」
 愛しい人が目の前にいる。情熱を帯びた瞳で見つめている。
 彼の身体の一部が自分の中にある。襞のひとつひとつが彼を歓迎するかのようにまとわりついているのがわかる。
 ずっと擦れ違いを繰り返していた二人はやっとひとつになれた。
 慧児と過ごしたこれまでの時間は今、この時のためにあったのだと昴は思った。
「……君の中で踊りたい」
 うわずった声で呟くと、慧児は身体を揺すりだした。衝撃は強い刺激となって、昴の全身を駆け抜けた。
「あ、ああっ!」
 熱くたぎるものが身体の奥を何度も突き上げてくる。
 そう簡単には壊れないと豪語したものの、本当に身体が壊れてしまうのではないかと思えるほどの激しさで、昴は危うく気を失いそうになった。
 この熱さが、この激しさが慧児なのか。ずっと秘めていた彼の想いなのか。
 彼の流す汗が肌を伝い、昴の肌に流れてくる。思わず涙があふれそうになり、首を振って払おうとした。
「昴、応えてくれ。僕は……」
 応えるなんて、そんなのできっこない。激しすぎて声も出やしない。
 そう思っていたのに、これまでにない強い快感が押し寄せてくると、慧児にしがみついた昴は雄叫びにも似た声を上げていた。
「あっ……イッ」
 熱い液が身体の芯にまで広がる。慧児が精を放ったのだ。自分でも不本意だったのか、彼は気まずそうな表情をした。
「済まない」
「謝るなよって」
 これで終わりにしたくはない。
 慧児と繋がったままで昴はつい、後ろの部分に力を込めたが、それによって強く締めつけられたらしく、相手は「えっ」と驚いた顔をした。
「昴って……名器」
 ボソボソ呟く声に、
「何だよ、はっきり言えよ」
「いや、別に」
 戸惑ったような慧児の様子に興奮が戻ってくると同時に、昴の中の彼も強さを取り戻していた。
「ポーズを変えよう」
 いったんペニスを抜いた慧児は昴をうつ伏せにすると背後にまわって臀部を開かせ、硬く甦ったそれを再度孔に挿入した。
「う……ん」
 入れられる瞬間がたまらず、吐息が漏れる。
「この方がいい」
 慧児は再び昴の内側で動き始めた。
 ゆっくりと、次第に早く、擦り合う部分が熱くて、そこから溶けて流れてしまいそうなほどだ。
「あ……熱いよ、熱い」
 汗にまみれ、息を切らしながら訴えると、
「君の中が僕を狂わせるんだ」
「オレだって狂いそうだよ」
「それならもっと狂って、もっと乱れた姿を見せてくれ」
 そう答えた慧児は腰の動きを早めながら、右手で昴のペニスを、左手で乳首を愛撫し、感じる部分を三箇所同時に攻められた昴は我を忘れて身悶えた。
「あっ、ああ、そんなの……って」
 昴はますます慧児を締めつけたらしい、
「もっと、もっと……あ、最……高……」
 途切れ途切れに悦びを伝える慧児は汗を滴らせ、息づかいを激しくしながら、ひたすら腰を使い、愛撫を続けた。
 そんな彼の動きに合わせて昴も動き、二人で快感を高めようとした。
「はっ、あっ、もう……イク」
 頭の中が真っ白になってきた。恍惚とはこういう状態なのか。
「昴……昴……」
 愛しい者の名を呼び続ける慧児の声が激しく、甘く、優しく、昴の胸に響く。
 何かがはじけた、その拍子に、昴はとうとう意識を失ってしまった。
    ◇    ◇    ◇
 求め合い、ひたすらに絡み合った彼らがお互いの身体を離したのはコバルトブルーのカーテン越しに淡い朝の光が差し始めた頃で、シーツの波に埋もれながら、昴は恨めしげに慧児の方を見た。
「予告どおり、眠らせてくれなかったというわけか。見かけによらずエッチがねちっこいっていうか、こんなにしぶといとは予想していなかった」
「そうかな。そっちだってかなりのものだと思うけど」
「よく言うぜ。どこが淡泊なんだか」
「女性には淡泊だと言ったが、君相手には濃厚でいたいと思って」
「うわっ、いけしゃーしゃーと。だいたいさ、『君の中で踊りたい』だなんて恥ずかしいセリフ、ふつう言わねーし」
 すると慧児は恥ずかしそうにうつむいた。
「何て言ったらいいのか、咄嗟に思いつかなくって」
 これまでのように鋭く切り返してくるかと思っていたのに、意外なほど純情な面を見せられて、愛しさがこみ上げてきた。
「しょうがねえな。これから何度でも、好きなだけ踊らせてやるよ」
「えっ……」
 照れた顔がたまらない。昴は自分から慧児の唇にキスをした。
「でも兄貴には内緒にしておかなきゃ。鈍いからすぐには気がつかないと思うけど」
「天宮にもだ。そっちばっかりズルい、抜け駆けだと恨まれるだろうな」
 ベッド交換で成果があったのはこちらの二人だったと知ったら、光はどんな反応をするだろうと、彼らは顔を見合わせて笑った。
「それにしても僕の願望がこんな形で実現するなんて」
「伝説のカップルのお蔭かもな」
 おっと、これはオレの独白だったと舌を出すと、慧児は不思議そうに首を傾げ、その表情がますます愛おしくて、昴はにっこりと微笑んだ。
    ◇    ◇    ◇
 東京へ戻って二日ののち、慧児が昴たちのマンションを訪ねてきた。
 好きな人とは毎日でも会いたい。
 気持ちが通じたばかりではなおさらだが、それぞれに仕事を抱えた身ではそちらにばかり時間を割くわけにもいかず、こっちに戻って最初の対面に、昴はウキウキと浮かれ気分になった。
 銀河はちょうど留守だったので「何? デートのお誘い?」とからかうと、
「それも兼ねてだが、まずは仕事だ」
 そう答えた慧児は凪島で会った大村刑事の祖母から手紙が届いたと話した。
「ちょうど良かった。オレの方も現像終わったとこだけど、まだ仕上がりのチェックはやってなくて……って、どうかしたの?」
「いや、それがちょっと」
 彼らしくない落ち着きのなさを見せる様子に首を傾げていると、
「あのお祖母さんが知り合いのヨネさんなら何か資料を持っているかもと話していただろう。そのヨネさんが帰ってきたからって、資料を借りて送ってくれたんだが」
 大判の封筒の中から出てきたのは一枚の小さな絵だった。博物館にもなかった、源蔵と蔦こと平吉の姿が描かれているらしい。
「へえ、これで源蔵たちの素顔がバッチリわかるってわけか。取材の甲斐があったよな、兄貴も喜ぶぜ」
「それはまあ、そうだが」
「何浮かない顔してんだよ」
「とにかく見てみろ。これが源蔵、こっちが蔦だ」
 言われるがままに覗き込むと、そこには着物姿の美男美女が──本当は二人の男なのだが──仲良く並んでいた。
「誰かに似ていないか?」
「誰かって……あっ!」
 大声を上げた昴はさっき仕上がったという、凪島で撮った写真の束を大急ぎで取り出し、目的のものを探し始めた。
 港の光景、ホテルの外観、源蔵の住居跡にオリーブ畑、蔦岬、お籠もり堂……懐かしい風景が次々に現れるが、それらには目もくれず、昴は印画紙を飛ばしまくった。
「……あった!」
 それは礼拝堂の前で撮ったヒッピーカップルの写真だった。
「げげっ、そっくりだっ! まさかこいつらが……」
「おい、これは!」
 さらに慧児の指差す先には──
「うぎゃーあ、足が写っていないーっ!」

                                  おわり