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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

背徳のカプリッチオ ⑦(最終章)※18禁🔞

    第七章  過去と未来と

 よく晴れた日、久しぶりに見る「緑のお屋敷」別名「樹神御殿」は昔とちっとも変わっていなかった。
 高くそびえる木立も、水滴を涼しげに振りまく噴水も、咲き乱れる花々も二十年近く前のあの頃と同じだった。
 いや、屋根や壁がいくらか古びたり、窓の奥のカーテンの色が変わったりと、それなりに変化しているのだが、オレの記憶の中にある姿をとどめていた。
「うっわー。懐かしいな」
「さっきから懐かしいの大安売りだな」
 建物を目の前にして、同じ感嘆句ばかりを口にするオレに、傍らの健吾がやれやれと苦笑する。
 隣の公園では数人の子供たちが遊具で遊んだり、砂場でじゃれ合ったりしていたが、野球をやる少年たちはいなかった。
「今は野球って流行らないのかな?」
「ゲーム機全盛だからな」
 紆余曲折はあったけれど、ようやく父親と和解した健吾は再び医師の道を目指すこととなり、出入り禁止だった樹神家にも顔を出すようになった。
 健吾の両親は今、便のいい病院近くのマンションに住んでいるとかで「緑のお屋敷」はまだ売り出さずに所有しているものの、空き家の状態。内部はそこに暮らしていた頃のままにしてあると聞いた。
 久しぶりに休暇を獲得したオレはそこで、健吾にせがんで屋敷に連れていってもらうことにしたのだ。
「建物の中に入るの、初めてなんだ。何だかドキドキする」
 テーマパークに来たかのようにはしゃぐオレを見た健吾はやや残念そうに言った。
「こんなに喜んでもらえるなら、あのときに招待すればよかったと後悔しているんだが。そうすれば名前も、どこに住んでいるかも訊けて、繋がりができたわけだしな」
「そうだよ。オレ、健吾の弟になって、ここに住んでるって妄想したぐらい、憧れてたんだから」
「弟か。できれば血縁関係じゃない方がいいけど……」
「えっ、何で?」
「いや、いろいろと……な」
 どっしりした黒い鉄製の扉を開くと、目の前に臙脂色の絨毯を敷き詰めたホールが広がった。
 照明のスイッチを入れると、天井から吊られた豪華なシャンデリアが眩い光を放ち、辺りを照らす。
 正面には白い手すりの階段が伸び、途中で左右に分かれているのだが、ドレス姿のお姫様が今にも降りてきそうなその光景はまるで外国の古い映画に出てくるお城の中、舞踏会の会場のようだった。
 それから健吾の案内で一階を見て回ったが、軽く二十畳はありそうな豪華絢爛たるリビングには、つやつやと黒光りするグランドピアノが鎮座していた。あの頃、健吾が奏でていたものだ。
 高級フレンチレストラン並みのダイニングに厨房、大理石をあしらった浴室、オレの部屋の半分ぐらいありそうな広さのトイレ、エトセトラ……
 とにかく、どこもかしこも想像以上のゴージャスで素晴らしい造りに、オレは感嘆し、ため息をつくばかりだった。
「よし、それじゃあ、俺が使っていた部屋を見るか?」
 二階に上がると、ここだと言って、健吾が扉を開けた。
 地球儀が乗った勉強机に難しそうな書物がびっしり並んだ本棚、ブルーのカバーがかかったシングルベッド。床にはなぜか当時の新聞が一部落ちている。
 健吾が寮に入ったあとの、中学生の時のままでおかれた室内はまるで、時間が止まってしまったかのようだった。
「そう、ここなんだ」
 オレは白いカーテンのかかった窓辺に走り寄った。
 窓枠の向こうに広がる庭園の景色の中に、ボールを求めて迷い込んだ少年の姿が見えた気がした。
「こうやって小鳥たちに餌をやって、オレにボールはあそこだって……」
「そうだったな」
 あの頃の健吾のポーズを真似ていると、背後から伸びた腕がオレの身体を包み込んだ。背中に彼の体温を感じる。
 健吾は頬を寄せ、オレの髪を撫でた。
「公園から小学生の声が聞こえてくると、いてもたってもいられなくなった。いつボールが飛び込んでくるか、それを心待ちにしたはいいが、毎度そう都合良くはいかないからな。ここから身を乗り出しては、家庭教師に注意されたのを覚えている」
「オレもだよ。自分が守備のときに、打球が入らないと意味ないから、すっごくヤキモキしたっけ。入れ、入れって祈ってた」
 ふっ、と健吾が微笑する気配がした。
「思ったとおりだった」
「えっ?」
「僅かな会話しかできなかったが、あの少年はきっと、真面目で真っ直ぐで、気持ちの優しい子だろうと想像していた。俺の目に狂いはなかった。刑事を職業に選んでいたのも、彼らしいと思った」
「へー。どこもかしこも理想のタイプだったって?」
「ドジでマヌケなところもな」
 その言い草はないだろうと抗議すると、答の代わりに強く抱きしめられた。
「やっとだ……十七年経って、ようやく手が届いた。長かった」
 彼の胸に身体を預けると、幸せの中にとっぷりと浸かった気持ちになれる。
「来人……愛してる」
「健吾……」
 求められるままにキスをする。
 最初は軽く、次に舌を絡め合ってのキスが延々と続き、ようやく唇が離れた時には頭がぼうっとなってしまった。
 満足げに舌舐めずりをしたあと、健吾は好色そうな笑みを浮かべ、耳元で囁いてきた。
「欲しい。いいだろ?」
「えっ、まだ太陽が……」
「陽の元で交わるってのも刺激的じゃないか」
「うわっ、その発言、スケベオヤジみたい」
「何だと?」
 こいつめ、生意気だと言いながら、健吾はオレの身体を強引に引っ張り、ベッドの上まで連れてきた。
「ちょっと狭いが、まあいいか」
 オレを仰向けに寝かせたあと、ワイシャツを脱いで上半身裸になった健吾は上から覆いかぶさるように身体を重ねた。
「ここ、感じるよな」
「んんっ」
 耳朶を軽く噛まれて、オレは思わずピクリと反応してしまった。
 心が通じ合い、深い関係になってからというもの、健吾はオレの性感帯開発に余念がなく、毎晩のように身体を求めては──ちなみにオレは住んでいた部屋を引き払い、健吾のマンションで同棲中だ──あちらこちらを刺激してくるのだから朝にはもう、へろへろ。仕事にならない。
「ほら、もっと声を上げてみろ」
「やっ、だって……」
「んじゃ、次いくぞ」
 首筋から腕にキスの雨が降る。指を口に含んだ健吾はそれを一本ずつ、ねっとりと舐めてきた。
「ああ……」
 こんな愛撫の仕方があるなんて。
 陶然としているうちに、健吾の手がTシャツの中に侵入してきた。
 両手で両方の突起をくりくりとつままれて、オレは小さな悲鳴を上げた。
「あんっ、はっ、あ」
「いいぞ、その調子だ」
 Tシャツが身体から離れ、上半身がむき出しになった。
 舌先が突起の先端をしつこく舐め回し、続いて強く吸いつかれて、オレは身体をよじって身悶えした。
「……ここも、イイんだよな?」
 健吾はいちいち確かめるように言い、左右交互に舌での刺激を繰り返した。
「イ、イイ……イッちゃ」
「おっと、まだまだイクなよ」
 ジーンズのジッパーが下ろされ、トランクスも脱がされて、オレはとうとう全裸にされてしまった。
 さっきの窓からはオレンジ色の日差しが入り込んでいるあたり、まだ夕刻なのに、素っ裸になっているなんて……
 もっとも、そんな恥じらいは一瞬だけで、ペニスへの刺激を受け始めたオレの理性はたちまちのうちに消えた。
「そうだ、自分でやってるところを見せてみろよ」
 健吾は床に降り、オレをベッドの端に座らせると、オレの手の上に自分の手を添えて、オレのペニスを握らせた。
「よし、こんな感じでいいか」
 健吾の手が動くと、オレの手も動いてペニスを扱くという奇妙な格好が却って興奮を呼び起こしたらしい。
「はあっ、あっ」
「ほら、どうだ? おまえと俺の共同作業だぜ」
「んん、イイ」
「イキそうか?」
「イッちゃうよぅ」
 いつしか健吾の手が離れ、オレは一人で自分のペニスを扱いていた。健吾の目の前でマスターベーションしていたのだ。
 オレの喘ぎ声が激しくなると、そんな様子をギラギラした目で見ていた健吾はいきなり革パンツを脱いだ。
 目の前に大きく膨張したペニスがある。
 興奮しまくっていたオレは先に果てた自分のモノの後始末も忘れてベッドから飛び降り、床に立膝をつくと、彼の大きなそれにむしゃぶりついた。ドクリドクリと脈をうつ熱さがたまらない。
 健吾のペニスはかなりの太さだが、フェラするのは大変だと感じたことはない。自分が男のものをこんなふうに……なんて、かつては想像もつかなかったけれど、それなりに上達したと思う。
 棹を舐め上げ、先端を舌でつつくようにすると、健吾は「ううっ」と嬉しそうに呻いた。
「いい……来人、最高だ」
 健吾に喜んでもらえると、ますます気合が入る。
 引き続きペロペロやっていたら、
「あ、もう」
 などと、健吾らしくない声を上げてイッてしまった。
 液を飲んでしまうのにも慣れた様子のオレに、彼は苦笑いを向けた。
「こっちの方はすっかりプロ並みだな」
「よく言うよ。健吾がこうやれって、ド素人に仕込んだんじゃないか」
 篠宮よりも上手いだろ、などと言いかけてやめた。彼のことはずっと禁句になっていたからだ。
 どんな場面においても、健吾は篠宮の名前を口にすることはなかった。
 遺体が戻って葬儀が行われた時も──捜査関係者のオレたちはみんなで焼香に行ったのだ──容疑者の身分だからと言って参列は控えていた。
 その後、犯人逮捕で一件落着。健吾自身も無事に退院したあと、長野まで墓参しに行ったらしいが、それは田ノ浦さんを通じて、たまたま知っただけで、オレには何も告げられていなかった。
 当人が播いた種とはいえ、自分の初恋の人に似ていたせいで命を落とす羽目になった青年に懺悔する気持ちはわかるし、その思いを引きずっていると、オレに知られたくない気持ちもわかる。
 だからオレに気を遣っているんだろうなとわかっていながら、それでも引っかかるものを感じる。そんな自分の心の狭さに嫌気がさす。
「どうした? 疲れたのか?」
「う、ううん。大丈夫だって」
 健吾は再びオレの身体をベッドの上に横たえると、自分も添い寝するように、横になった。それから互いに全裸で抱き合い、相手の身体の温もりを確かめ合った。
「あのときに」
 健吾は同じ言葉を繰り返した。
「あのときに……やはり、十七年前におまえをこの家へ招待するべきだった。そうすれば俺はこんなにも遠回りすることにはならなかった。おまえが今のように、俺の想いを受け入れてくれたかどうかはわからないが、少なくとも誰かを傷つけずに済んだだろう」
 オレは黙ったまま健吾を見つめ、その頬にキスをした。それから彼の頭を抱き、自分の胸元に押しつけるようにした。
「どんなことがあっても、オレは健吾を受け入れているよ、きっと」
「来人……」
 安心した様子でしばらくオレに抱かれるような格好でいた健吾はやがて、目の前にあるオレの乳首を再び吸い始めた。
 チュクチュクといやらしい音が聞こえる。
 下腹部が熱くなってくるのを感じる。
 その体勢のまま、健吾は左手でオレのペニスに触れてきた。
「また固くなった」
「そっちだって」
 オレの膝の位置に健吾のモノがあるのだ。どういう状態かはよくわかる。
「おっと、アレをアソコに入れたままだったな」
 健吾は横向きの体制で床に落としたワイシャツを拾うと、ポケットからゼリーを取り出した。
「用意いいね」
 なんて、オレの皮肉が通じる相手じゃない。
「当然のたしなみだ」
「それって、たしなみなの?」
 ゼリーをたっぷりと指にとったあと、健吾の右手は後ろに回った。オレの秘孔を探るためだ。
「少し広げて……」
 ぴったりとくっついた割れ目を広げるために、脚を少しばかり開く。
「そうだ。そうしないと上手く入らないからな」
 探り当てられたその部分に指が触れる。冷たいゼリーの感触に、オレは軽く身をよじった。
「やっ……あ」
 辺りを撫でていた指がヌルッと中に入り込んできた。
 慣れない時は痛みもあったが、今ではこれが待ち遠しくなっている。
 どこを刺激すればより感じるのか、内部を知り尽くしている健吾はさっそく、ウィークポイントを攻めてきた。
「イイんだろ? ここが」
「んふ……んん」
「ほら、もっとしてやるから」
「あん、ああ……あっ」
 ぐり、ぐり、と感じる部分に刺激が加わる。そんな指の動きにつれて、自分の腰が勝手に動いてしまう。
「そうだ、せっかく元気になってきたんだから、また前もするか」
 健吾はいったん指を抜き、オレの身体をくるりと回して、自分の方に背中が向くようにした。
 それからオレはベッドの上に四つん這いにさせられ、オレの背後で健吾が膝をつく形になった。
 その体勢で左手がペニスに、右手の指は再び孔に、それも今度は二本だ。
「あぁ、やぁ、そこ」
 二本の指がオレの中をかき乱し、攻め立てる。
 左手は強く、優しく扱き続ける。
 快感が次から次へと、波のように押し寄せてくる。
 前と後ろを同時に攻められて、オレは狂ったように喘ぎ続けた。
「限界だ、もう待てない」
 指に代わってとうとう健吾が入ってきた。
「……んぁあ」
 やっぱり、入れられるこの瞬間は何度味わってもいい──と思っていたら、
「入れる瞬間は何度味わってもいいな」
 などと、同じようなことを健吾が言ったので、オレは思わず噴き出してしまった。
「何かおかしかったか?」
「えっ、別に」
 健吾の声色がちょっと不機嫌そうに聞こえる。
「そら、もう笑っていられなくなるぞ」
「そんな、ムキにならなくたって……あっ、やぁぁ」
 健吾がピストン運動を始めた。
 太くて固いものに中を強く擦られて、オレは悶えまくった。
 熱い、たまらなく熱い。
「もっと、もっと、奥」
 こんなに乱れていながらも、オレは健吾へのおねだりを忘れていないが、それに応えるべく、彼はさらに奥を突こうと、深く腰を動かした。
「これ、で、どう、だ?」
 途切れ途切れの息遣いをしながら、健吾が問いかける。
「あんっ、イイ、もっと、もっと!」
 快感が背筋を駆け上がり、頭の芯がジンジンと痺れる。
 腰から頭のてっぺんまでを長い針が一気に突き抜けたかのような、鋭い感覚をおぼえたかと思うと、オレのペニスはとっくに果てて白い液をだらだらと流していた。
「あ、あぁ、健吾ぉ」
「来人……来人」
 互いの名前を呼び、オレたちはひたすら交わった。
 何回精を放っても、健吾は未だ固さを保ってオレを穿ち続ける。
 頭の中が真っ白になり、意識が遠のきかけても、その動きは止まらない。
 オレはひいひいと半泣きになりながら、それでも腰を振り続けた。
「健吾、健吾、もう……ダメ」
 ギブアップする姿を可哀想だと思ったのかはわからないが、健吾はこの日何度目かの放精で、ようやく動きを止めた。
 それから、ぐったりとするオレを抱きかかえてキスすると、
「ちょっと足りないが仕方ない」
 などと、トンデモな精力絶倫発言をした。
「えっ、足りないって……」
「続きは今夜、帰ってからにしよう」
「ええーっ! 続き、あるの?」
「あたりまえだろ。ここは俺たちの過去の想い出の場所、向こうは俺たちの未来のための場所だからな」
 過去の想い出──
 オレたちの未来──
 いろんな思いを乗り越えて、そこにある未来──
 ようやく吹っ切れたみたいだ。
 オレは小さく頷いた。

                                  おわり