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オリジナルBL小説をお披露目しちゃいます

紅蓮の炎 ⑨(最終章)※18禁2🔞

    第九章  終幕

「大志、そろそろ時間じゃないのか」
 栄吉の呼びかけに顔を上げた大志は時計を見て、慌てふためいた。
「ヤベッ、もう二時かよ」
「ほら、急いで。そこの風呂敷を忘れずに持って行くんだよ」
「うん。ジイちゃん、ありがと」
 孫を見送るため、玄関まできた病み上がりの祖父を振り返ると「本当に一人で大丈夫?」と大志は訊いた。
「私のことは気にしなくていい。それより、右京さんの傍でお役に立てるように。大変なのはこれからだよ」
「わかった。じゃ、また来るからね」
 待ちに待った土曜日、祖父の元を訪れた大志は自転車をぶっ飛ばして『かどくら』の店から静蒼院家へと戻る道をひた走った。
 約束の時間をとうに過ぎてしまった。自分に対しては超のつくほどワガママで偏屈な七代目がヘソを曲げなければよいがと、本気で心配になる。
 四十九日の法要が済んで、一連の後継者騒動から発展した、悲惨な事件に見舞われた静蒼院家はようやく静けさを取り戻しているが、それは静けさというより寂しさ、虚しさとも受け取れた。
 和久の葬儀のあと、真っ先に家を出たのは真紀と優華で、二人は発狂した兄を抱えていずこかに移り住むと、高校にも退学届を出して連絡を絶ってしまったのだ。
 心神喪失で無罪になるとはいえ、洸が犯した罪は決して軽くはないし、殺人と放火で刑務所行きとなった恋人による父親殺しもショックだったのは当然だろう。
 だが、だからといって母子三人を放置しておくわけにもいかない。それなりの保護が必要だからと、七代目の命を受けた顧問弁護士が目下、行方を捜している。
 残りの内弟子二人はそれぞれ実家に戻った。使用人扱いなどしなくてもいい、自分たちの本業で静蒼院家に協力してくれれば、という七代目の言葉に、彼らはこれまでの非礼を詫びて帰って行った。
 そんなわけで広い敷地にたった四人で住む羽目になり、無事退院した栄吉を呼び寄せようという案もあったが彼は辞退し、大志が祖父の様子を見がてら、内弟子を続けることで決着がついた。
「わー、ほんとキレイになくなっちゃったな。建て直しするお金はないし、庭を広げるしかないのかな」
 焼け落ちた残月庵の残骸は跡形もなく、すっかり整地されている。
 急いで戻ってきたのも忘れて、大志はそこに立つと辺りを見回した。
「悲劇の舞台か。思い出すと辛い……な」
 度重なる不幸に落ち込む大志に、自分に協力して静蒼院家を盛り立てていくのがおまえの務めだと右京は言い、それが和久への、ひいては四代目への供養だと励ましてくれた。
 気持ちを奮い立たせた大志は残月庵跡を出ると彩月荘へ向かい、そこで着物に着替えてから──まだ自分では着付けできないので、八重の手を借りている──昇月庵側の露地へと入った。
 昇月庵は草庵様式に則った、茶席としては典型的な様式の建物であり、焼け落ちた残月庵とは双子のような形で存在している。
 次の家元が決定した場合、当人が亭主となって、お披露目の茶会を催すのが静蒼院家における慣習で、稽古場を花月堂よりこの昇月庵へと移したのは、今日から実際に使用する茶席での練習に入ったからだ。
 派手なイベントは六代目の喪が明けてから、というのが世間の感覚、一般的な考えであろうが、混迷したままの流派の行く末を案じた人々の勧めにより、和久の四十九日をもって一週間後の茶会の開催が決定した。
 そんなわけで正式に七代目家元となった右京は日々稽古に余念がなく、大志も連日特訓につき合わされていた。
 そっと竹打窓を覗くと、亭主の座に着いた右京が袱紗をさばいている。袖口からのぞく右腕の傷はまだ癒えていない。
(やっぱ想像したとおりだ。すっごくカッコイイ……)
 黒地に利休鼠色の模様が入った着物を着て髪をひとつに結わえた右京の姿は芸術家然とした雰囲気で、そんな彼の様子に大志はつい、見惚れてしまった。惚れ直した、といったところだろうか。
「そこで何をボサッとしている。さっさと入ってこい」
「う、うん」
 慌ててにじり口へまわると、大志は頭を低くして中へ入った。
「和菓子の修業の方はどうだ? 少しは上達したか」
「バッチリ! 右京や菊蔵さんにも試食してもらいたいから持ってきたよ」
 主菓子の趣も茶会の重要な要素である。右京は「菓子はおまえに任せるから」と大志に告げており、職人の血筋を信頼してくれる彼のためにも、飛び切りの菓子を用意したいと思った大志は栄吉に弟子入りして、和菓子作りに励んでいたのである。
 退院して間もないため、自ら和菓子を作ることは控えていた栄吉だが、孫に請われるまま作り方の指導をしており、二人の合作ともいうべき試作品を持ち帰った大志は右京の前に風呂敷包みを差し出した。
 さっそく包みを開けた右京は「して、この菓子の名は何と?」と時代劇のようにおどけた口調で訊き、大志も同調して答えた。
「名を『春の蛍』と申します」
 右京と心が通い合った夜に見た、小さな虫の姿をかたどった菓子。
 濃い緑の葉の上にとまった格好の、鮮やかな黄色の蛍はその色といい、形といい、もちろん味も最高のもので、和菓子の銘品を見慣れているはずの菊蔵にも絶賛された。
「ふうん。味も形もなかなかだが、こりゃあどうみても門倉栄吉作だな。まあ、この出来なら茶会でも充分イケる。本番もよろしく頼むってジイさんに伝えてくれ」
「あー、ひどい! 餡を捏ねたのはオレなのに、そんな言い方はないだろ」
「そりゃ悪かった」
 庵内部に工夫を凝らした飾りつけを考慮し、雰囲気に見合った道具や菓子を用意しておくのも亭主の役目である。
 床の間の前へ進み、扇子を置いて掛け軸に一礼したあとに右京の傍まで行くと、彼は茶会に備えての本番さながらにセッティングされた飾りつけを大志に説明し始めた。
「……で、そっちに香炉、ここに花入。ま、こんなところか」
 右京の花の活け方は見事で、また、掛物と道具のとり合わせも優れていた。初心者の域を出ない大志も、彼がいかに素晴らしいセンスの持ち主かを実感し、佐久が右京を七代目にと切望した気持ちがよくわかると共に、亡き和久の心情を慮った。
「花は野にあるように、道具の選び方は華美すぎず、それでいて主張があるように、ってこの前借りた手引書に載ってたけど、本当にそのとおりだね」
「いくらお世辞を言っても、何も出ないからな。それより、あの本に書いてある半東の心得をよく頭に叩き込んでおけ。何しろ俺の内弟子はおまえだけだからな」
 そう言いながらも右京は満足気で、そんな彼の様子を見て大志も嬉しくなった。
(右京は本当に茶道が好きなんだ)
 遺言状公開の場で、強引に七代目を名乗ったのは彼の決意の表れであると共に、大志を守るためでもあった。
 主だった茶会では例の扇子を床の間の隅に置いて飾ることになっている。歴代家元の形見に目をやりながら右京は続けた。
「おまえが誰の子であるかを知った六代目はほんの一瞬だが、おまえを後継者にしたいと思った。無理もない、一番愛した女との子供だからな」
 そんな和久の心の揺れを感じ取ったのは右京だけではなく、亮太も気づいていた。
 扉の『殺ス』の文字を目にし、亮太の様子に危険な臭いを嗅ぎ取った右京は大志の身が危機に晒されるのを恐れ、七代目は俺だと、いち早く言い放った。
 あの時、和久は審議する時間をくれと言ったが、このまま七代目の指名を先延ばしにしたら、亮太に真っ先に狙われるのは大志だと危惧したからで、大志に出て行くよう一芝居打ったのも、自分との関わりを断ったと思わせようとしての策だった。
 これでターゲットは七代目・右京自身に絞られる。彼は自分の身を挺して大志を守ろうとしたのであり、そうとわかった今、大志は改めて右京の愛情を感じ、相次ぐ不幸の中で唯一の幸せをかみしめていた。
「あいつがかなりヤバイというのは承知していたからな。まさか殺しまでやるとは予想していなかったが……」
「でも、あのときは本当に嫌われたのかと思って、すっごく悲しかった」
「すまなかったな」
 右京は慈しむような目で大志を見つめた。
「ああでもしなければ……いや、それでもおまえは飛び込んできてしまったが。俺を助けたい一心だったんだな、感謝している」
 素直に礼を述べる右京を見て照れ臭くなった大志は「らしくないよ」と言ったあと、報告することがあると続けた。
「これなんだけど」
 大志が手にした小さな冊子を目にして、右京は「母子手帳?」と訊いた。
「こっちに越してきたときに母さんたちの荷物は店に送ったけど、ジイちゃん入院しちゃったから片づける暇がなくて、梱包されたまま置いてあってさ。今朝見つけたんだ」
 ここを見てと言いながら、大志は手帳のページをめくった。
「オレの母さんの血液型はA型。父さんはB型。で、オレはB型。この意味わかる?」
 即座に理解したらしい右京は彼らしくもなく、驚愕の表情を浮かべた。
「まさか……」
「静蒼院家は代々A型の家系だってね。A型同士の間にB型は生まれない。つまりオレは正真正銘、母さんと結婚した父さんの子」
 とたんに右京は狂ったかのようにゲラゲラと笑い始めた。
「なんてこった。そんな簡単なことにも気づかずに思い込んでいたなんて、とんだ茶番だな。四代目も大したことはない、ただのモウロクジジイだ」
「オレは早産で、二ヶ月も早く生まれたって載ってるから四代目たちに勘違いされたんじゃないのかな。母さんが死んじゃった以上、確認のしようがなかったわけだし」
「そうかもな。いや、六代目は……」
 そこで右京は遠い目をした。
「おまえが他の男の子供だと気づいていたのかもしれない。知っていながら、自分の子だと信じたかった。門倉皐月を愛したのは後にも先にも自分だけだと思いたかった。おまえに父さんと呼んでもらいたかった。だからみんなの思い込みに対しても、否定も肯定もせずにいた」
「最期に母さんに謝るって言ってたのはそういう意味だったんだね」
「六代目の子ではないとわかっていたら、今回の悲劇は招かずに済んだかもしれんな。仕方ないといえばそうだが……」
 しんみりした口調になった右京だが、すぐさまニンマリ笑ってみせた。
「だが、俺の方は万々歳だ。従兄弟同士という呪縛が解けたからな」
 そんな右京に向かって、大志もニッコリと微笑みを返した。
「オレもめっちゃ嬉しかった」
 すると右京はすかさず大志の肩を抱き寄せた。顔が間近に迫り、唇が触れたあとは舌まで入り込んできた。
「ちょ、ちょっと、茶席でこんなことしていいの?」
「かまうものか。七代目は俺だ」
「誰か来たら……」
「稽古中は誰も近づけないように言ってある」
「まさかこういう目的のために?」
「さあな」
 困った七代目だ。
「ね、タバコやめた? お酒も?」
「ああ、禁煙した。酒は茶会の終了までお預けだ。まったく、この俺が健康に注意するようになるとはな」
 ふっ、と苦笑いをする、その表情が好きだと大志は思った。
「健康第一、いい傾向じゃないの」
「生意気なこと言うと、今夜は寝かせないからな」
 連日連夜、夜のお相手をさせられている大志は皮肉を込めて「今夜も、でしょ」と言い返した。
「当然だろ」
「昼間は稽古で、夜は……もうオレ、くたくただもん。昨日も授業中に居眠りして怒られたんだよ」
「内弟子はツライよ、か。ハハハ」
「笑い事じゃないよっ!」
 むくれる大志をニヤニヤしながら眺めていた右京は「やっぱり夜まで待てない。今、欲しくなった」と大胆発言をした。
「えっ、今って……」
 肩から滑り降りた右京の右手は大志の襟の隙間に入り込み、そこにある小さな粒を摘んできた。
「あんっ」
 耳朶を舐め、軽く噛みながら、右手は中をいじり続ける。刺激を受けた先端は尖り、少し触れただけでも全身に快感が走った。
「やっ、やぁ」
 前の部分が固くなっていくのを感じて大志はごそごそと居心地悪そうに、身体を左右に揺すった。
「着物ってのはコトに及ぶには便利だな。あれこれ脱がさなくても済む」
 レトロで卑猥な春画の構図が脳裏に思い浮かんで恥ずかしくなる。
 大志の着物の裾をまくり上げた右京は矛先を最も敏感な場所に向けた。
「はあっ……あぅ」
 勃ち上がっていたものを口に含まれて大志は淫らな声を上げた。
 右京の舌が裏側を舐め上げ、先端の溝に入り込むと、大志の反応はさらに激しく、狂ったように全身を揺すった。
「あっ、あっ、もっと、そこ」
 チロチロとする蛇の、その赤い舌先が瞼の裏にちらつく。
「イイ、して、もっと」
 小刻みに動く、ざらざらとした感触。丸く笠になった部分にもまとわりつき、透明な液が恥ずかしげもなく溢れる。
 先端から伝わる快感はやがて、大志の全身を支配していた。
「イッ、イッちゃう」
 頼りなげな声を出しながら両手で股間にある頭を強くつかむと、束ねていた髪がほどけてまとわりつき、がんじがらめになる。
 二つの柔らかい袋を優しく揉みながら、右京は大志のものを喉の奥まで咥え込み、緩急をつけて吸った。
「ふぅん……う、うぅん」
 もうダメだ、大志が噴き出したそれは右京の中に吸い込まれた。ペロリと唇を舐める様子の艶かしさに胸の奥が疼く。
 お返しにと右京の着物の裾をめくると、下着をつけていないのに驚いた。
「着物のときはそれが正式だぜ」
「正式って……練習中でも?」
「スリルがあっていい。こういう場合も手っ取り早いしな。ただ、茶会の最中に勃起したらどうしようか、それが課題だ」
 ますます困った七代目だ。
「どうだ、ビンビンきてるだろ?」
 大志の目の前に右京のいきり立ったものが立ちはだかり、興奮した彼は夢中でしゃぶりついた。
 普通よりも大きいせいで口腔はいっぱいになってしまったが、右京とこうしていられると思うと嬉しくて気にはならない。
 舌を駆使できるほど器用ではないが、懸命に奉仕する大志の姿に、右京は至極満足気だった。
 一度果てても右京のそれは衰えを知らず、まだ上を向き続けており、大志が唇の端から溢れた液を拭っていると、四つん這いになるよう求めてきた。
「おまえは後ろから入れられる、この格好が好きだからな」
 反論はしない、できない。彼の言うとおりなのだから。
 そのポーズをとらされたまま、だが、右京はすぐには入ってこなかった。
 背後にまわると、秘孔の周囲に触れる。初めての頃と違って、そこは受け入れやすくはなっているが、右京はねちねちと辺りを攻め続けた。
「くっ……ふぅ」
 指で、そして大胆にも舌で。刺激を受ける度に、大志ははしたない声で悶えた。
 指が中に入ってきた、一本、次に二本。肉の襞を擦られ、掻き回されて、イヤイヤと首を振る。
 そうされるのがイヤなのではない、もっとしてもらいたい気持ちの表れだった。
「欲しいか?」
 意地悪く、だが愛情を込めて右京が訊く。乱れた髪で、汗まみれの身体で、大志は力なくうなずいた。
「欲しい……」
 待ちかねていた熱い刀が身体を貫く。大志は歓喜の言葉を洩らした。
「はあっ、あっ、あぁ」
 右京が奥を刺激する度に、大志の背中は反り返り、痙攣を起こしたかのように激しく身悶えした。
 誰にも聞かれないはずだから、多少大きな声を出してもかまわない。その安心感が大志をさらに大胆にさせた。
「イイ、あっ、もっと、もっとしてーっ!」
「そんなにイイか? こっちか、それとも中か?」
 左手で大志を抑えて腰を動かしながら、右京は右手で前の部分も同時に扱いている。
 一度は果てていた大志のそれは元気を取り戻すと再び勃ち上がって、性懲りもなく液をだらだらと溢れさせていた。
「どっちもイイ、両方して」
「欲張りなヤツだ」
 右京の動きがますます激しくなり、大志は快楽に溺れ、のたうちまわった。
「あっ、あーっ!」
 二度目の昇天が訪れて、しばらくはグッタリと動けなくなる。
 それにしても昼下がりの茶室で、七代目家元と内弟子がこんな痴態を繰り広げているとは。歴代家元たちは何と思うだろうか。
 とても床の間には顔向けできないと、大志は申し訳なく思った。
「さて第二、いや第三ラウンド開始だ」
 一度や二度で終わるはずがない。右京の絶倫ぶりは身をもって承知している。
 着物はほとんどずり落ち、かろうじて帯が腰に巻きついているだけ。こいつは面倒だなと言いながら右京が帯をほどいてしまい、大志はとうとう全裸にされた。
「いい眺めだぜ」
「もう、恥ずかしいって」
「さんざん善がっておいて、今さら恥ずかしいはないだろう」
「そうだけど……」
 自分も着物を脱いだ右京が熱い肌を重ねてきた。腕が、胸が、全身が押しつけられて、男の温もりが伝わる。
 舌と指の愛撫が首筋に、胸に施されると、大志はしどけない姿で喘いだ。
 右京の長い黒髪ははらりと下り、互いに一糸まとわぬ姿で重なり合う二人を隠すように覆った。
 こんな身体になってしまうなんてと、右京との肉体関係をここまで続けてきた今でも恥ずかしく思う。
 男を受け入れるように、待ちわびるようになっているこの身体……だが、もう引き返せない、大志は右京から与えられる快楽を貪欲に求め続けていた。
 何度か交わり、ようやく満足したらしい右京はさっと着付けを済ませ、欲望に満ちたオスから風格ある家元の姿に戻った。
 こちらはまだ裸のままだ。全部脱がせちゃうなんて、自分では着られないとむくれて恨み言を言う大志に、
「なんなら本番も素っ裸で出るか?」
「あー、ひどい! いいよ、そうしたらノーパンで勃っちゃって困るのはそっちだし」
 右京はニヤリと笑った。
「そうか、そうだったな」
「さっき言ってたばかりじゃないか」
「それに、俺の一番大切なお宝を裸でお披露目するわけにもいかないしな」
 愛されている喜びをひしひしと感じながら「小袱紗に乗せて飾る?」と切り返すと、
「いや、本当は金庫にでも入れて隠しておきたいほどだ。おまえは俺だけのものだ」
 もう一度、熱いキスが注がれた。
                                  ──了