❼KARISOME LONELY ONE
第八章 愛しのクニー「大丈夫?」 薫は今にも泣き出しそうな表情で、俺の顔を覗き込んできた。「血が……」「あ、ホントだ」 言われて初めて、唇が切れているのに気づく。タオルを手にした薫がそれをそっと押し当ててくれた。「ありがとう」 ううん、と首を横…
第七章 対決 どれだけ時間が経ったのか、それすらもわからないほど、俺はその場に突っ立ったまま呆然としていた。 血を流す薫、悲しそうな顔をした彼の姿が焼きついて離れない。 あんなことになるなら、あいつの言い訳を聞いてやればよかった。俺をマーシー…
第六章 コニシマサシ ろくに挨拶もせずに薫と別れ、アパートに帰った俺は昨夜の睡眠不足がたたって、そのままベッドに倒れ込んで眠ってしまい、気がつくと夕方になっていた。「げっ、社会経済学の講義、出席とるんだったのに……」 歯軋りをして悔しがってみて…
第五章 背徳のネオン「きゃあ、なにーっ?」「ええーっ、待ってー!」 カオル、マーシー、と呼びかけながら迫り来る女たちの手を振り切ると、雨宮と俺は扉を抜けて螺旋階段を一気に駆け上がり、そのまま渋谷の街中を突っ走った。 こんな速度でダッシュしたの…
第四章 ライヴハウスの乱 さらに翌日、俺は講義をサボって、開店から閉店までと、ほぼ一日中店にいた。 大学に行かなくていいのかと藤本さんが心配したけど、担当の教授が病気で休講続きだから大丈夫と嘘をついた。 雨宮がいない分、俺が仕事をカバーしなく…
第三章 ほろにがレモン 小田急線で新宿まで移動し、向かった先はジャス・バーと呼ばれる部類の店らしい。 重い扉を開けて、ジャズの流れる薄暗いカウンターにあのミス・カフェオレの姿を見つけた俺は仰天した。 雨宮との約束が出来上がっていたというのか。…
第二章 マーシーのコピー バイト三日目。この日の講義が休講になったので大学に行く必要もなく、太陽が昇ってかなり経ってから、のそのそと起き上がった俺はしばらくぼんやりとしていた。 山梨から東京に出てきて二年、このアパート暮らしも二年目になる。 …
第一章 銀杏亭「銀杏亭(ぎんなんてい)って……あ、あった。ここだ」 教えられた住所を頼りに、俺が訪れたのはこじんまりとしたレストランだった。煮込みハンバーグが美味しい店としてこの界隈では結構有名らしいが、ほとんど外食しない俺はそういった事実を…
初めて書いたオリジナルBLのタイトルは「STOMY NIGHT」。売れないミュージシャンと大学生の悲恋を描いた、読み返すのも恥ずかしい黒歴史小説でした。それから十年程経ち、この話をリメイクしようと思い、書き直したのが本作です。BLの定石に倣い、悲劇の結末…